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ふたりの場所  作者: shca9
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遠い思い出

篤が店を出た瞬間、香奈が床に崩れ落ちた。

「香奈ちゃん、大丈夫か?」

貴久はしゃがみ込んで香奈に声をかける。

「よく言った!」

「香奈ちゃん、カッコよかったぜ!」

常連の声に香奈はゆっくりと立ち上がった。

「すまない、俺のせいで。」

「ううん、あの客の言い方、ホントに腹立ったから。助けてくれてありがとう。」

“コト”

大将が瓶ビールを貴久のテーブルに置いた。

「礼だ。飲みな。」

香奈が貴久のコップにビールを注いだ。それを合図にいつもと変わらない角打ちの喧騒が戻ってきた。


(貴久くん、変わってないな)

タクシーの窓から外を見ながら梨沙は思った。

付き合い始めた頃は二人とも学生でそんなにお金も使えず、安いお店で呑んでいた。貴久が就職してからもキレイじゃなくても、安くて美味しいお店を二人で探し回った、それも今は遠い思い出だ。

「…梨沙。おい、梨沙!聞いてんのか?」

篤の大きな声が梨沙を今に引き戻した。

「あ、ごめん。」

「やっぱり俺らにはあんな安い店は似合わないな。いつものクラブでみんなと遊んでる方がいいわ。」 

「ね、篤。さっきお店でケンカした人、友達?」

「はぁ?あんなん友達なわけないだろ!ただの同級生だよ。」

「そうなの?」

「つまんねえ奴だよ、アイツは。」

篤は高校時代の貴久のことを陰キャでヘタレなオタクと罵った。

(アンタなんかと比べものにならない人だよ、貴久くんは。)

梨沙は気づかれないように拳を強く握りしめた。




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