孤独な午後
角打ちはいつもと変わらず営業を続けていたが、雰囲気は以前とは変わっていた。
「あ、あの香奈ちゃん。」
「何ですか?」
「ビールもう一本もらってもいい?」
「はい。」
香奈は感情を抑えた声で答える。貴久とケンカ別れのようになった香奈は貴久のことを忘れようと仕事に没頭しようとした。淡々と仕事をこなしているつもりの香奈。でもそれは周りからは不機嫌にしか見えていなかった。
「香奈!昨日の態度は何だ!」
香奈の態度を見かねた大将が香奈を叱りつけた。
「ウチは客商売だぞ。」
「そんなのわかってるよ。」
「なら何でお客さんに無愛想な物言いする?こないだの変な客に楽しく飲む店だって言ったのは誰だ?」
「それは…」
「それからな、お前と北條くんがどうなろうがお客さんには関係ないんだぞ。もうアイツは来ねえだろうからちゃんと仕事しろ!」
「ひどい!なんでそんなこと言うの?もうこんな店辞めてやる!」
香奈はエプロンを脱ぎ捨てると店を飛び出した。
「辞めてやるって…お前ん家ここじゃねえか。」
香奈の後ろ姿に大将がつぶやいた。
「あんな言い方しなくたっていいじゃない。」
香奈は友達に愚痴を聞いてもらおうとスマホを取り出してすぐにポケットに戻した。
平日の昼間、友達のほとんどは仕事に行っている。目につく店はみんな知り合いだ。こんな時間に行ったら、店はいいのかと聞かれて面倒なだけだ。
(どうしよう…そうだ!)
香奈は10分ほど歩いて団子屋の前に立った。この店の娘の博子は香奈の同級生で同じように家の仕事を手伝っている。店には誰も立っていない。香奈は入り口から声をかける。
「博子、いる?香奈だけど。」
「はーい。」
出てきたのは博子の姉の友里子だった。
「あ、友里子さん。博子は?」
「香奈ちゃん!久しぶりだね。博子は髪切りに行ってるよ。」
「そうですか…。じゃまた別の日に。」
「せっかく来たんだし、お茶飲んでいきなよ。博子もそのうち帰ってくると思うし。」
香奈は誘われるままに店内に入った。




