8、図太い神経
転移魔法のためにもひとまず街に行くことだ。
そのためエレナに用事をいいつけて、遮断魔法で気配を消してそっと後を追った。
一瞬嫌そうな顔をしたのを見逃さなかった私は、ここまで顔にだしているのになんで今まで気づかなかったのか自嘲してしまう。
でも傷ついているわけではないので、昨日の今日だが割り切れているのかもしれない。
余談だが王城には本来であれば結界が張ってあるため、決められた場所以外では魔法が使えない。
でもここは王城の中の外れであるために使えるのだと思う。
「ここは……」
やがて大きな広場にでた。おそらく城下町の中心地である、噴水広場だ。
ちなみにここで前回処刑されたはず。
しかし今は多くの人が行き交い、活気があるため雰囲気が全く違うからか、あまり思うことはない。
(私って意外と神経が図太いのかもしれない)
そんなことを思いながらも黒い外套を深くかぶる。初めての王城にでたこともあり、目を輝かせて周囲を不自然にならないように見回す。
私が処刑されたときよりも、みんな顔が生き生きとしていて活気がある。
しばらく眺めていたが、はっと本来の目的を思い出す。あまり時間もないことを自覚する。
気を取り直して小説に書いてあった内容を思い出す。目的地は噴水広場の大通りから3つ目の路地を抜けた先にある。
(確かこんな感じの道を抜けてって書いていたと思うんだけど……あ、ここかな?)
土地勘がないため、あっているのかわからない道を恐る恐るゆっくりと進む。
店はこじんまりとした構えで、周囲の店と混じってしまうような特に目立つところもない店だった。
扉の前に掛けられた看板でかろうじてカフェだということがわかるくらいだ。隠れ家的なような感じがするのはここが情報屋だとわかっているからか。
看板にはカフェ・グレイキャットと書かれており、オッドアイの灰色の猫の絵がある。思い描いていた通りのお店があり、少し感動してしまう。
カランカランと音を立ててドアを開ける。
入ってみれば店内は意外に広く、十分な数のテーブル席があった。
まだ早い時間だからか店内はまだらに人が入っていた。店内のところどころにオッドアイの灰色の猫の置物がある。一見普通のカフェにみえる周囲を観察していると店員が来た。
「席の希望はございますか?」
「そうね……ゴールデンチップスのまたたびを買いたいんだけど」
「……!!」
後半は小声で店員だけに聞こえるように伝えた。
勇気をだしてそう店員に伝える。
が──
それにしてもとても恥ずかしい。なぜこんな合言葉なのか。
(ゴールデンチップスのまたたびって何よ…!)
恥ずかしさのあまり内心つっこみつつも自己嫌悪していると、笑顔の店員さんは一瞬固まったように見えたが、すぐに返事をしてくれた。
「かしこまりました!……ではこちらへ。ご案内いたします」
とりあえず気を取り直して案内されるままついていく。もちろんこの店員さんも普通の人に見えるが情報屋の諜報員だ。
案内されるがまま店の奥までくると重厚な扉があった。
その店員さんはノックをしてから声をかけた。
「マスター、お客様です」
「……どうぞ」
心臓が口から飛び出しそうになりながらもそんなことはおくびにもださずにゆっくり中に入る。
そして今に至る──
目の前の男は足を組んで座っており、こちらを射抜くように見つめている。
仮面を被っていても整った顔立ちをしていることが伝わってきて、顔が分からない事など全く気にならない。緩くウェーブした髪は黒かった。
座っていても背が高いこと、均整のとれた鍛えられた体躯をしていることが一目見てわかる。
その男は他の誰とも違う研ぎ澄まされた近寄りがたい雰囲気を纏っている。
(この人がグレイキャットのマスター……)
その存在感に圧倒されるも、さすがのちの王家の影になる小説の登場人物と納得する。
賢く有能だが謎の多い人物として描かれていた。
「これは……」
布袋を開けて中身を確認すると、そっと一つだけ取り出して眺め、目を見開いた。
「……見てわかったと思うけど、魔力が入っている魔石よ。なかなか手に入らないものだと思うけど。売れるかしら」
普通の人は見てもわからないかもしれないが、マスターは鑑識眼を持っていると小説にはあっさりと書いてあった。
「……これは普通に手に入るものじゃない。価値は計り知れない……一体どうやって手に入れたんですか?しかもそれを売ろうだなんて……」
「それを言うつもりはないわ。あなた、情報屋でしょう?情報がほしいなら対価を払ってちょうだい」
やはり魔力を保持している魔石は価値があるようだ。そのことに安堵しつつもプイッとそっぽを向き、横目でちらっと様子を見ると隠れてない口元はにぃっと口角が上がっていた。
「これはこれは……失礼を。ご依頼はこれらの売却だけでよろしいでしょうか?」
「まだあるわ。マイザーへ行きたいから案内人を用意してくれるかしら」
「マイザーですか………それはまた遠いですね……」
マイザーはお兄様が留学している隣国とは真逆にある国境近くの街だ。つまりお兄様とミリアが出会う場所から遠ざかるということ。
安直だが、関わりたくないから離れようと思う。それとまた別に理由はあるが、それは今はいい。
マスターの機嫌を損ねたらどうしようかと内心ビビりつつ、舐められないように強気で受け答えをしていく。
なんだかんだ今世で私の身分を知らない人と話すのは初めてだ。モブだからそこまで小説には描かれていないが、小説のエリザベスを想像している。
悪役王女だが、いい人でいようとして何かしら周囲に期待するよりも楽なのではないかと思いはじめている。
何でも屋の側面もあるこの情報屋はマスターに気に入られるか否かで依頼できる内容も変わる。
取引する価値のない相手と判断されたら、切り捨てられると小説にはあった。ちなみにその基準はわからない。
そして何より、何でも屋ということで暗殺なども請け負うときがある。その依頼をこなすのはマスターだけ。
つまり何が言いたいかというとマスターはめちゃくちゃ強い。そしていつの世も余計なことを知る人は殺されるのだ。
小説でもそのような場面があり、そのことを知っている私は気が気ではない。
そのため気を緩めてはならない。
それでも。人間関係を構築する上で第一印象は重要だと前世を経験した私は思う。
「……この魔石、ひとまずマスターに全部あげる」
「──は」
マスターは仮面越しでも驚愕していることがわかるほど目を丸くして私を見つめた。
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