7、グレイキャット
「これ、買い取ってくれないかしら」
外套を深くかぶったまま、勧められたソファーになるべく偉そうに見えるように足を優雅に(と自分では思っている)組んで座り、布袋に入れた魔石をテーブルの上にドンと置いた。
舐められたらいけない。その気持ちで深く外套を被っていながら精一杯顎をあげて見下すように、なるべく低い声で言った。
「……拝見しましょう」
そういって顔の上半分の猫の仮面をつけた男はニヤリと笑った。
◇◇◇
時は少し遡り──
「!?」
(な、何がおこったの……!?)
いきなり光った魔石をみると、ほんのり光をおびていた白い魔石の光が失われていた。思わずポカンと手元の魔石をみつめてしまう。視界で同じように動く鏡の中の自分に思わず視線を向け、目を見開いてじっと見つめてしまう。
「え、治ってる……?」
先ほどまで目元赤く腫れて、目は充血していたのに、いつもと変わらない顔がそこにはあった。
驚きのあまり自分の顔を凝視してしまう。
「もしかなくても、今、魔石が作用したのかしら……」
しばらく呆然としながら自分の顔と魔石を見比べる。
今まで淡く白い光をまとっていた魔石が、魔力を充填する前のようにただの透明がかった石に戻っている。
これは治癒の魔石ということなのだろうか。
疑問点は多いもののそんなこんながあり、魔力入りの魔石の使い方も分かった。
念のため試しに水属性と思われる青い魔石を発動してみたら、見事コップに水が注がれた。
先ほどのエレナのことも忘れて、ひとりで盛り上がってしまったが仕方がないと思う。
魔石の大きさによって許容量も違うのかもしれない。それぞれの大きさで最大どれくらいの効果があるのかはわからないが、それはおいおい検証するとして。ひとまずこれで第一関門を突破した。
(念じれば魔力を込めた本人じゃなくても使えるかは試してみる必要があるけれど……)
小説ではミリアは数日で1個とかだった。そのため光っていても発動しないものもあるだろうと思っていたが、それは杞憂に終わりそうだ。
(魔力が多いとか魔石との相性がいいとかなのかしらね)
ひとまず1日に数十個魔力は込めることができそうだった。ひとまず私には時間もないのでわからないことは置いておこう。
「問題は、どうやって売るか……」
いきなりこれは魔力がこもってる魔石です、なんて言って買う人はいるのだろうか。
そもそも売るからにはなるべく高く売りたいが、相場も今の物価もわからない。
誰かに聞こうにも、唯一の相談相手のエレナという選択肢はもうなくなってしまった。
こんなにすぐにうまくいくとは思っていなかったからまだ何も考えていなかった。
ひとまず魔石の色に関わらず魔力を込めることができたが、これは私の属性と関係あるのか。
などのわからないことも多いが、ひとまずどれくらいのことができるか調べてみる必要はありそうだ。
(前世でいうオークションアプリとかあれば楽なのに……)
必ずしも適正価格とは限らないし、前世の世界だと怪しさしかないけども。
この世界のオークションもいつ開かれるかわからない。今の段階は小説が始まる前。
小説の内容を覚えていても時間軸が合わないし、物語にそんな細々したことは書いてあったのかもわからない。
そもそもこの世界で生活する上での知識が、圧倒的に足りないと痛感する。
(ここはあの組織を利用してみる……?)
小説が始まる前から存在している組織。反乱にも大きく貢献してのちに王家の影として活躍することになる。
今はまだ何でも屋のひとつでしかない『グレイキャット』。トレードマークは水色と緑色のオッドアイの灰色の猫。
本部はここ王都にあり、支部も地方の主要都市にある。
主人公であるお兄様も留学中から情報屋として利用していたが、少し私が利用したところで関わることにはならないだろう。
(明日、こっそり行ってみよう)
そこでの交渉で今後の計画に大きく影響が出てくる。
グレイキャットのマスターはたしか飄々としていて気まぐれ。対価さえきちんと払えば、仕事は完璧にこなしてくれるという話だった。最初に舐められたら終わりだ。
気合い十分で挑まなければならない──
エレナには今日は集中して本を読みたいからそっとしておいてほしいと言っておいた。
あの会話を聞いた後ちゃんといつも通り話せるかと少し心配だったが杞憂に終わった。
エレナがいつもと全く変わらない様子だったので、あれは私が知らなかっただけで日常なのだろう。
夕食後の寝る前にはエレナに図書館から上級魔法の本持ってきてもらい読んだ。
お祖父様が生きていたときにはきちんと教師もついていたので基本はできているし、基本的な魔法は使える。
使う機会がなくて使ったことはあまりないけれど。でも上級魔法は習っていないから使えるか試してみようと思う。
習ったことを復習しつつも本を読み進める。
空間を操る魔法は最も難易度が高い魔法と言われている。その中でも3番目に難しいと言われるのが空間の質を変える魔法。
例えば物の位置を変えたり、天候を操るといったたぐいのもの。
それよりもさらに困難なのが空間を瞬時に移動する魔法、いわゆる転移魔法だ。失敗すると身体の一部だけだとかが移動してしまったりする恐ろしい面もあるらしい。
長年研究されているようだが、転移魔法ができるのはごく限られた魔法使いだけであると言うことだった。
転移魔法ができるのならとても便利である。行ったところであれば行けるとか。
ちなみに変装魔法もあるが、それはしなくても誰も私だとわからないからいいやと思った。
数百年ほど昔はそれこそ上級魔法を使える人が多かったそうだ。平民でも普通に魔法は生活の一部にあったとか。
今は魔法を使える人が貴族に偏っている。平民でもいないわけではないが、魔法を使える人は全体的に減っているようだ。
原因はわかっていないが。
魔力は皆持っているが、魔法に変換できる人が多くない。ということは昔よりも魔力が多い人が減っているのだろうと思うけど、これは今私が考えることではない。
だからまず、私がしなければならないことは──
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