28、結びつかない
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先ほどの空気とは一転し、和やかなものから重苦しい空気になった。
「エリザベスは……その、なんて言えばいいのか……記憶があるのか?」
「……あるわ。……お兄様も?」
「やはり、そうだったのか……いや、俺はない。……あるのはサイラスだ」
その言葉でサイラス様の方を向く。サイラス様は眉間に皺を寄せ、泣くのを堪えているような顔をしている。
私たちの視線を受けたサイラス様は、何か言うためか口を開く。しかし言葉がでないのか、何回か開けては閉じてを繰り返した。
私も何をいうことが正解かわからず、声を出すことができなかった。
前回彼が何をしていたのか、私は知らない。
おそらく唯一何も知らないのだろうヴォルは、何を考えているかわからない顔で様子を見守っている。
しばらくの沈黙のあと、切羽詰まったような、今にも泣き出しそうな表情でサイラス様は絞り出すように言葉を紡いだ。
「エリー……守れなくて、ごめん……謝って許されるようなことじゃないことは、わかっている……俺は……」
俯いてしまった彼の膝の上に置いた拳が、強く握りしめられ、震えている。
「……エリーは……君を見殺しにした俺を……恨んでいるか?」
「恨んで……」
果たして私は彼を恨んでいるのか。
確かに、何も分からないうちに牢に入れられて、食べてはいないが食事とはいえないものを与えられて、処刑された。
でもそれは、小説の序章としてそういうものだと思い込んでいた。
自分はそういう役なのだからしょうがない、と思わないと自分を保っていられなかった。
そして、私がサイラス様に抱いていた想いは──
しばらく考え込んでしまったが、少しの間のあと
「……恨んでは、いません」
「え……?」
俯いていたサイラス様はガバッと顔を上げて私の顔を見た。その顔は先ほどよりも絶望感が強い表情をしている。そして少し見つめあったあと、視線を外した。
「それは……俺はエリーにとって……そこまでの存在じゃないってことか……?」
「……?すいませんサイラス様、今何て……」
サイラス様がボソッと声は小さくて聞き取れなかった。再びサイラス様は私を見て問いかけてきた。
「それじゃあ……何か、思うことはないのか……?」
「………」
「俺にも、教えてくれ。俺には記憶はないが、話はサイラスに聞いている。なんで自分がそんなことをしたのか、信じがたい話だったが……」
お兄様もとても辛そうな顔をして、私を見つめている。
思うこと。
それはもちろんある。
だが、それを言ってもいいのか。
数年ぶりに会えたお兄様に冷たくされて、悲しかった。サイラス様は顔を見せてもくれなかった。だから私はサイラス様にとってどうでもいい存在だったのだと、私のことは忘れてしまったのだと思っていた。
しかし、今の2人の様子を見るに違うのだろうか。
希薄な人間関係しかない私にも、違和感を覚えさせるような悲壮な表情を2人はしている。
考え込んで黙ってしまった私に向けて、サイラス様はまた口を開いた。
「すまない、質問を変える。前回……ということにして。前回、エリーに起こったことや思ったことを何でもいい、教えてもらえないか……?」
「何でも……」
そうなると、ミリアのことを話すことになる。この2人と違ってミリアのことは、本当にもうどうでもいいのは明白なのだけど。
お兄様は記憶はないとのことだったが、ミリアと恋人だったはずだし、サイラス様はミリアのことが好きだったはずだ。
好きな人のことを悪く言われていい気はしないだろう。
どうするか迷っていると、何を思ったのかサイラス様は口を開いた。
「エリーからしたら……自分を殺した奴らと話なんて、したくないかもしれないが……」
「ち、違います!そういうことではなくて……!」
(なんだか、とてもネガティブな発言が……)
私が言い淀んでいることを違う意味で解釈してしまったのだろう。サイラス様は自責の念に駆られているような、とても暗い表情をしている。
逆にとても申し訳なくなってきて、こちらが焦ってしまう。
「たしかに……思うことは、いろいろあります。やっと……ずっと会いたかったお兄様に会えたのに、お兄様はとても冷たくて。サイラス様も帰ってきているはずなのに顔を見せてもくれなくて。それで最期には……友人だと、私は思っていたのに裏切られていたんです……でも、どちらにしても、私は死ぬ運命だったし、お兄様が国を立て直して行くには私たちの死が、必要なら──」
「っ!そんなわけ、ないだろう!!」
そのとき、お兄様が叫んだ。驚いてその方を向くと、歯を食いしばり泣きそうな顔で私を見つめているお兄様と目があった。
「エリザベス、お前は俺の妹だ。たった1人の妹すら守れずに、国を守れるか!その守るべき妹を死に追いやってまで得るべき王位など、俺には必要ないんだ!!」
「お兄様……」
「……しかしサイラスの話では……俺はそんな男に成り下がるらしいな……」
お兄様は自嘲するようにそう言った。その様子はどうにも前回のあの冷たいお兄様とは結びつかなくて困惑してしまう。
(このあと2年ほどの間に何か起こるということ……?)
その結果、あのお兄様が誕生したのか。それとも何か違う要因でもあるのだろうか。
またしても考え込んでしまっていると、お兄様は言葉を続けた。
「……お願いだ。前回のことを……自分が死んだ時のことなど話したくもないだろうが……お前にあった出来事を、教えてくれないだろうか……」
「わかりました……」
教えて欲しいと、懇願されるほど大した内容はないかもしれないが、了承する。
「……ありがとう。話の内容がどんなものであれ、先ほども言ったように俺たちはお前の味方だ。それは何があっても変わらない。それを、覚えていてくれ」
お兄様もサイラス様も、優しく私に微笑んでくれている。
それは昔、一緒に遊んでいたときと変わらないもので。ひどく安心するものだった。
ホッとしたことで自然と私にも笑みが浮かんだところで、サイラス様が驚いたように目を見開いた。
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