21、彼女がいない
エリック視点になります。
「お願いだ!早くきてくれ!」
「エ、エリックさん!ちょっ待っ……はぁっはぁ、早い……」
後ろの医者の声を無視して、エリーのもとへ駆ける。距離がもどかしい。
「エ……サラっ!!」
廊下の角を曲がる。そこにいるはずの彼女がいなくなっていた。
エリーはどこに──
もしかしてどこかの部屋に移動させたのかもしれない。
愛しい人の姿を求めて、焦りながら付近の部屋を探す。
しかしどこにもエリーはいなかった。
エリーがいなくなった──
恐れていた事態が現実のものになってしまった。
ラルフとかいう奴もいない。ヴォルから要注意と聞いていたのに。
(俺がそばを離れたばかりに)
そこへ偶然にもハルとヴォルが通りがかった。
尋常ではない俺の様子にハルが血相を変えて駆け寄り、肩を強い力で揺さぶられ、はっと我に返った。
「おいっ!落ち着け!!」
「っ!」
我に返った俺を見て、ほっと安堵の息を吐いたのも束の間、厳しい表情のまま問いかけてきた。
「頼むから落ち着いてくれ。お前、今、魔力暴走起こしそうになっていたぞ……エリザベスに何かあったんだな?」
「あ……ああ」
額に手を当てて、ようやく気づく。
魔力が荒れていた。慌てて押さえ込む。
ハルの顔が険しくなる。察したらしい。
小さく深呼吸し、無理やり怒りを押し込めた。
もう彼女を失うのは絶対に、死んでもごめんだ。
「……で?サラは?」
「おそらく、あの男に……」
「は?」
そんな俺にヴォルは直球で聞いてくるが、その言葉だけで全て悟ったのか、ヴォルは俺を鋭く睨みつけてきた。
忠告されていたにも関わらず、エリーのあの視線に耐えられなかったがために、側を離れた俺が悪いことはわかっているため、視線を逸らしてしまう。
「だから言ったのに……で、どうすんの?」
「それだけか……?」
「今は言い争ってる時間が無駄。で?」
ヴォルも珍しく焦っているのか、同じことを聞いて返事を急かしてくる。
どうやってエリーを見つけるか。
考え出したところではっと思い出す。
彼女は昔渡した宝石を持っている。
それで位置が、わかる。
それはおそらくあの出来事が影響しているのではないかと思うが──
それは憶測でしかないし、今は重要ではないので置いておく。
必ず取り戻す。
触れた時点で──全員、殺す。
神経を研ぎ澄まし、探る。
……反応がない。近くにはいない。
……だが、微かに引っかかる。
まだ届く。あの方角だ。
「エリーは……近くにはいない。しかしおそらくあちらの方角だ」
「「は?」」
するとハルとヴォルは目を丸くして俺を見ている。
その顔は何故そんなことがわかるのか、と物語っている。
宝石のことは誰にも話していないし、今はまだ話す気もない。
それよりもエリーだ。
「……わかった。ひとまず疑問は浮かぶがそれは後だ。よくやった。方向だけでもわかったのなら……」
「あとは、俺が探す。何ヶ所か隠れ家を見つけてるしね。俺が行った方が早い。それじゃ」
ハルの言葉を遮りヴォルが早口でそう言った途端、時間が惜しいとばかりにその場から消えた。
突然いなくなったことに驚くも、いつものことなのでそこは気にしない。
自分が行きたいところを横取りされたという気持ちがだいぶ大きいが、最優先事項はエリーの安全。
悔しいが、昨日来たばかりで土地勘も何もない俺たちが動くより、おそらくヴォルが動いた方が早いだろう。
頭ではそう理解している。
それでも、ヴォルのあの表情が気にかかった。
あの目と表情は──
いや、今はそれはどうでもいい。
エリーのことだけ考えるんだ。
そう自分に言い聞かせる。
その思いで自分の中に生まれた痛みは見ないふりをして、彼女を想う。
──今すぐ迎えに行くから
不本意だ。
本当は俺が行きたい、けど──
ただ無事でいてくれ。
それだけだ──
「よし、じゃあ俺たちは……」
「あの……遮ってすいませんが、一体何が起こって……?」
そこで場違いな声が聞こえてきたため、その声の方をハルと揃って振り向く。
そこには連れてきたのに存在を忘れていた医者が、困惑した顔で戸惑っている。
「あー……今のは、他言無用で頼む」
「え、あ、はぁ……」
ハルが頭をガシガシと掻きながら困ったように言うが、おそらく医者も話も何もわからない状況で他言無用と言われて困っている。
いつもなら言葉足らずな彼のフォローのため口を開くのだが、頭はエリーのことでいっぱいで何も言葉が出てこない。
俺たちも何もせずに待っているという選択肢はない。どうするのが最善かを考えていたため、口を開けなかった。
妙な気まずい雰囲気になったところで。
ドサッ──何かが、落ちた音が近くの部屋から聞こえた。
何の音かはわからない。
それでも、気づいた時にはすでに走り出していた──
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