19、違和感の正体
(何でかしら……?それとも、自意識過剰?)
朝から──視線が、途切れない。
振り返らなくてもわかる。
ずっと、そこにいる。
何かしてしまっただろうか。
やんわり聞いてみるも違うようで。
そしてハルさんとエリックさんも、今日から治療院のお手伝いをしてくれることになったそう。
患者さんかと思っていたが違うようだ。
様子を見るにヴォルとはきっと旧知の間柄だと思われる。
エリックさんは魔法で洗濯をしようとすると、私も魔法が使えるから代わるよ、と言ってくれたためお願いすることにした。
エリックさんは私のそばを離れず、何でもかんでも些細なことも手伝おうとしてくれる。
そのためエリックさんはどちらかというと治療院の手伝いというよりは私の手伝いでは?とも思わなくもない。
それでも手伝ってくれるのは助かるので文句はないが、ここまで好意的だと戸惑ってしまう。
ハルさんはもう皆と打ち解け、エリックさんも魔法の扱いが驚くほど上手い。
私より、ずっと器用だ。
——この二人がいれば、治療院はすぐに落ち着くかもしれない。
この問題が解決できたらもう何も心配することはないはず。
お昼ごはんのときに2人に話してみよう。
そう思い、時間のため医者見習いの人たちの休憩室でお昼をとるため移動する。
ハルさんは別件でいなかったが、エリックさんと向かっていたとき。
廊下の角から足だけが見えた。不思議に思い近づいていくと、誰かが倒れていることがわかった。
そして急いで駆け寄ると、まさかのラルフさんだった。
「ラルフさん!?しっかりしてください!」
「うっ……」
うめき声をあげるも意識が戻らず、頭から血が流れている。
「エリックさん、すいません。誰か人を呼んできてもらえますか?」
「……いや、君と離れる方が問題だ」
「え……?」
「……死ぬ怪我じゃない」
担架を持ってきて運んだ方がいいと思ってお願いしたのだが、眉間に皺を寄せて渋面だ。
そして「死ぬような怪我じゃない」と言い始めた。
……何を、言っているの?
この人、こんな顔をする人だった?
「エリックさんって、そんな人だったんですね……じゃあいいです!私が呼んでくるのでここで待っていてください!!」
「……っ!いや、すまない、俺が行くから……お願いだから…… 君が望むことなら、何でもする。……だから、そんな顔をしないでくれ」
「え……?」
ひどく傷ついたように見えて──どこか縋るような顔で、なんだか大仰なことを言い、先ほどとは一転走って行ってしまった。
エリックさんを見送りながら困惑する。
なぜ、昨日会ったばかりの人にあんなことをいうのか、謎しかない。
それに。
(何で、あんな顔……)
ひどいことを言ったのはエリックさんなのに、何故か私の方が罪悪感を感じてしまう。
そしてあの泣きそうな顔は。
──あの人とよく似ている。
考え込んでしまいそうになるが、そこでラルフさんのことを思い出す。
(そんなことは後……!)
ばっと振り返るも──誰もいない。
その瞬間、口元を強く塞がれた。
甘い匂いが、無理やり肺に流れ込んでくる。
「ゔっ……?!!」
「やっと1人になった。おやすみ、サラさん」
視界は塗りつぶされ、意識を保てなくなる。
──そんな私がわかったこと。
振り返った先に──ラルフさんはいなかった。
なのに、耳元でその声がした。
◇◇◇
ピチャン──
水が落ちる音が聞こえて意識が戻った。目をゆっくりと開けると、薄暗い部屋のベッドに自分が横になっているのがわかった。
(ここは……?一体何が……)
そこまで考えて段々と意識がはっきりしてきた。意識を失う前に何があったのか思い出す。
(ラルフさんが怪我してたけど、それは違ったの?でも……)
頭から血を流して意識を失ってたと思っていたラルフさんは、私を気絶させてここに連れてきたのか。
そこまで考えてやっと今の自分がいるところに意識を向けることができた。
ガバッと体を起こすも、拘束などもされていない。そしてご丁寧に掛布までかけてくれていたようでますます混乱する。
石の床は冷たく、簡易的な寝床が用意されている。
ここは洞窟らしく、淡い光と水の滴る音だけが響いていた。
「どういう……状況……?」
いろいろと理解の範疇を超えている。誘拐?にしては丁寧で拘束することもなく体も痛いところはない。
「あ、サラさん!起きましたか?」
「ぅえっ!?」
考え込んでいたところ声をかけられ、人の気配を感じなかったため、驚いて肩が跳ねる。
すぐに声の方へ振り返ると、こんな場所ですみません、と言いながらも、そこにいたのはラルフさんだった。
「え?あの……ラルフ、さん?」
「大丈夫ですよ」
何が、大丈夫なのだろうか。
そんなラルフさんはいつもより嬉しそうな様子で。もちろん血なんてついていない。
「あの、怪我は……?」
「……サラさんは、本当に優しい方ですね。こんな状況でも真っ先に僕のことを心配してくれるなんて……あれは血糊なのでご心配なく」
(血糊……?なんでそんなこと……)
ラルフさんが頬を染め、ひどく感激したように目を輝かせる。
にっこりと安心させるためか微笑んでくれるも今は恐怖しか感じない。
逃げようと思えば、逃げられるはずなのに。
足が、動かなかった。
「どういう、ことですか……?」
「サラさん、これから僕と生きていきましょう」
「は……?」
そんな言葉が漏れてしまった私は悪くないと思う。
読んでいただきましてありがとうございます!




