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武闘会の結果と再起動

 闘技場に転移した俺は、ロロの要請で数人の技術者を優先的に回復。さらに学園内を巡回していたステインとその部下を見つけ、まとめて第五層へと運んだ。

 そこではロロから細かな指示が飛び、技術者達は点検や修理を、ステインらは賊の捕縛と被害者の遺体の回収作業にそれぞれ取り掛かる。


「アオイ、修復までの時間は?」

『応答。残り四十二分であると当機は告げます。シンリ様』


 学園のシステム的な問題は、これで全て目処が立ったようだな。

 問題は……。


「困った……。流石にワシの頭脳をもってしても、よい言い訳が思いつかん」


 今俺達がいるのは、闘技場内にある来賓用の控え室。そこでロロは観客達への説明に頭を悩ませているのだ。


「一般客は、あの瞬間から気を失っていた者が多い。闘っていた二人の気が強過ぎたってことにしてしまっていいんじゃないか?」


 ミスティによって命をつながれ、最低限の癒しを施されたとはいっても、未だ体調の芳しくない者も少なくはない。彼らからの不満が声になって広がるのも時間の問題だろう。


「とはいえ、あれだけの人数を癒す回復術師や光魔法の使い手などを今すぐ手配するなど不可能じゃ。まったく……厄介なことを仕出かしおって……」

「光魔法による癒しか……それなら何とかなるかも知れんぞロロ」

「なんじゃと……?」






「会場の皆よ!ロロポッカ・ネザーランデである。まずはこの事態を招いた原因について説明したい…………」


 ロロと考えた言い訳はこうだ。

 戦闘中、ダレウスとアイリ両名は大会規定で禁止された結界に干渉する魔法を使用した。それにより結界に不具合が生じ、両名の魔力の波動によって観客達の体調に悪影響が出てしまったのだ。と、まあ責任を無理矢理二人に押し付けてしまうことになったが、それが一番落とし所として丸く収まりそうだとの結論である。

 無論、両名共故意ではなく互いの強固な防御を破れなかった故とのフォローを入れたが、二人は失格として、残る両名による対戦を武闘会決勝戦にすることに決定。

 結界が修復され次第、決勝戦を開始すると説明をして、観客達から一様の理解を得ることに成功した。


「これより披露するショーは、此度の事態に対する主催者からの詫びである。我が学園が力、存分に楽しんでいただこうぞ!」


 そう言って、俺に肩車されたロロが身体を目一杯伸ばして天を指差すと全ての人々が空を見上げ、眩い光の降臨をその目に捉えた。


「う、嘘だろ……」

「これは伝承に聞く天使様なの」

「それにしても、何という美しさ……」


 光と共にゆっくりと舞い降りてきた彼女、ガブリエラの姿がはっきりと見えるようになると、会場中からそんな感嘆の声が沸き起こった。中には手を合わせ、祈りを捧げる者までいるようだ。

 闘技場の地面から五メートルほど上空で下降を止めた彼女が、手を合わせ祈りを捧げるような仕草を見せる。すると彼女の頭上に闘技場全体を覆うほどの、巨大な円形の光る魔法陣が展開した。

 次いで彼女がその手を広げるのに合わせ、その魔法陣が輝きを増すと、全ての観客達の頭上にやわらかな癒しの光が降り注いでいく……。


「おぉ!これは神の奇跡なのか」

「ありがたや、ありがたや……」

「長年の持病が!」

「彼女が出来た!」

「クジに当たった!」

「背が伸びた!」


 彼女が今発動したのは単なる『広域回復魔法(エリアヒール)』。その効果はその辺の回復術師の比ではないが、決して神の奇跡などではないので、一部の客が吹聴している二次的な効果はもちろんない。

 あの後、俺が控え室に召喚したガブリエラを見て、ロロがその回復作業自体をこんな演出でショーに仕立て上げることを思い付いたのだ。確かにガブリエラは人目を惹くし光魔法の発動は派手なものが多いので、こういった演出にはもってこいである。


 まるで立体映像が消えたように、ガブリエラが透明化してその姿を消しても観客達の興奮はしばらく治まらず、その感動をもたらしたロロへは、歓声と拍手喝さいが鳴り止まなかった。結果、彼女の作戦は見事に成功。学園始まって以来の不祥事に発展せずに済んだようだ。


「お兄様……さっき上空にガブリエラが見えましたが?」

「ああ、ちょっと色々あってな。それよりどうした?アイリから二人は店に戻ったと聞いたんだが」


 肩車したロロを降ろしていると、俺達の元へとシズカとツバキが近づいてくるのが見えた。

 聞けばシズカ達はシステムがダウンしている時に転移で学園内に入ったものの、現在はシステムが復活していて、入場許可履歴の無い二人は学園内に『いない者』として扱われ、認証が一切反応しなかったというのだ。シズカの転移は使えず、学園の壁を破壊するわけにもいかない。そうして仕方なく俺と一緒にいるロロに力を借りようと尋ねて来たらしい。


「そんなことか……。アオイ、今俺と一緒にいるシズカとツバキ。この二人を認証なしで出入り出来るようにしてもらえないか」

『検索。……確認しました。両名の学園への出入りは自由になったと当機は告げます。シンリ様』

「すまない。ありがとう」


 俺は今現在この学園の全てのシステムを制御しているアオイに頼み、両名が今後学園に認証なしでの出入りが可能になるよう書き換えてもらった。まあ、悪事に使う訳でなし。これくらいは構わんだろう。


「……お兄様。何やらお聞きせねばならない事がおありのご様子。夜、お時間いただきますわよ!」


 突如シズカが、何やら不機嫌そうにそう言い捨てる。その目は、アオイとの通信用の指輪に釘付けだ。


「ああ、俺もみんなに色々話す事がある。今夜にでも集まろう」


 そんな会話をする俺達の横では、ロロ達が俺とシズカの会話の温度差に苦笑いを浮かべていた……。







「いやぁ、今回は凄かったなぁ」

「ああ、あのマスクマンと姉ちゃんの戦いが心残りたが、間違いなくオラが見た最高レベルの大会だったべ」

「あの天使はどんな仕掛けだったんだろう。さすがはデジマールが誇る学園だよ」


 夕方。そんな会話をしながら笑顔で学園を後にする観客達を、俺はロロと共に見送っていた。だが、彼らの話題の中心は絶対王者だったジャクソンを激闘の末倒した、新王者への賛辞である。


「紙一重だったよな」

「本当だよ!どっちが勝ってもおかしくない、熱い試合だったなぁ」


 ジャクソンが強いと言っても、それはあくまで学生レベル。冒険者、それもS級相当の相手となれば話は別だ。

 それでも、俺やダレウスの修行によるレベルアップで彼に勝機は十分にあった。この敗戦の要因は、目標だったアイリの失格によるモチベーションの低下に他ならない。彼もまだまだだということだな。


 最後の観客が学園から出ると、残った者がいないか確認し、そのまま施設の警備にあたるべく『結界衆』が各所へと散った。彼らの姿が見えなくなると俺はロロと一緒にアオイの待つ下層へと転移する。


「アオイ。色々とすまなかったな」

『否定。この程度は容易き事だと当機は告げます。シンリ様』


 実は、あれから行われた武闘会決勝で使用した結界は、全てアオイ単体のみで発動し維持したものだ。第五層の制御中枢の再起動にかかる時間も不明だし、アオイにそれを尋ねると簡単に出来るというので試してもらったのだが、はっきり言ってアイリが戦った時よりしっかりした物に仕上がっていた。

 そうして学園を彼女の制御下に置いたまま武闘会を進行させ、表彰式や閉会セレモニーを行い、学内から一般客が帰り、誰もいなくなったのを確認して再起動を行おうというのである。


「アオイ。システムチェックを。どこかに不具合は残っていないか?」

『第八十八排気管と百二十七番取水管の破損修理が不十分です。ですが再起動に支障はないと当機は告げます。シンリ様』

「……だ、そうだぞロロ」


 ロロを連れて第五層に転移した俺は、システムの修復状況をあらためてスキャニングしたアオイの報告を彼女と、その場にいる技術者に伝える。すぐに、下っ端らしい数人が工具を手に取り走り出して行ったので、じきにそれらも修理されるだろう。


「では再起動する。各自担当機器の状況を注視せよ。いくぞ!」


 そう言ってロロが制御台の上で操作をすると、円筒形の機器から再び『あの音』が聞こえてきた。


 ピポッ!

 カチ、カチャカチャ……。

 ブウィィィー…………ィィィィィーン……。


 またこれか……。

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