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ロロからの呼び出し

 あれから四日。


 ……さすがは学園一の派閥の長だ。

 昨日ヴァネッサの鶴の一声で、突然クラス内での席替えが行われ、俺の席は窓側から二列目の後ろから二番目に移動した。

 その結果、右隣がマリエ、左隣がヴェロニカになったのはまあいい。

 なんと俺の前には、実はすでに手続きだけは済んでいたのだというアリスが。そして小姑のようにして俺とアリスの様子を後ろの席から見張っているのは姉のヴァネッサ。何の輪形陣だこれは……。

 ちなみに席替えの際のクラス会議で(もちろんヴァネッサが言い出した)授業中の『膝乗り禁止令』なるものが多数決により可決され、彼女達による膝取り合戦だけは回避されている。


「何か元気がありませんわね。せっかく、この学園内に於いて最も男性として幸せな席をご準備いたしましたのに。シンリさんはもっとその幸せを感じるべきだと思いますわよ」

「……ああ、そうなのかもな」


 そう嬉しそうに話すヴァネッサに、後ろからのプレッシャーがキツイんだよ。などと言えるわけもなく、先生が教室に入って来たので、とりあえず前を向く。


「えっとシンリさん。貴方は学園長がお呼びです。授業はいいので、今からすぐに学園長室に行ってください」

「え、……はい」


 おいおい、授業はいいのでって何だ。本当に日本にいた頃の学校と考え方が違うんだな。

 まあ、呼ばれた内容は察しが付くし、他の生徒達が訪ねてくる可能性が低い時間帯にとの配慮からだろう。


「何をしてるんだヴェロニカ?」

「ん、やはりここは私の出番かと」


 俺と一緒に、さも当然のようにしてヴェロニカが席を立つ。苦笑しながら、俺が彼女の両肩を持って座らせると、可愛らしくぷうと頬を膨らませていた。無表情なのは相変わらずだが、彼女も随分感情表現をするようになってきたな。

 俺との訓練での魔力量の増加は順調で、ここ最近のゲルンストは常時誰でも見える半透明のイケメン執事姿であり、一部の女生徒達に人気が出始めている。常時実体化には、魔力量というより彼女自身の技術がまだ足りないようだ。


『そのまま押さえつけて、他の生徒の目の前で陵辱する気かい。本当に君は鬼畜だねえ』


 ……彼のこんな変態発言も、すでに日常の一部になっている。

 ヴェロニカと俺とのやりとりを見て、遅れをとったと残念そうな顔をする他三名(なぜ、この中にヴァネッサが含まれているのかは謎だ)に軽く手を振り、俺は教室を後にした。






「おお、呼び出してすまんのシンリ」


 扉の前で名前を言い、認証を受けて中に入ると中にはいつものように椅子に座る学園長のロロと、扉のすぐ横に気配を絶った状態で立つ細身の男性の姿があった。

 俺がすぐに気づくくらいだ。脅威になるとも思えないが、一応魔眼で彼のステータスを確認する。

 名前はステイン。人間でレベルは九十二か、なかなか高いな。ジョブは……暗殺者ねぇ。


「ステイン、もう下がるがよいぞ」

「お言葉ですがネザーランデ様、これも我らの務めでありますので」


「こやつを威嚇するつもりじゃったのだろうが、すでにこの勝負、先に姿を晒したお主の負けよ。ここは素直に下がるがよい」


 ロロが冷ややかにそう言うと、ステインは表情ひとつ変えずに部屋から出ていった。


「断っておくが他意はない。彼奴らは少々融通が効かんでのう。気を悪うせんでくれ」

「はあ……」


 そう簡単に詫びた後、彼女が椅子の肘掛の辺りを触ると突然俺の隣の床が開き、下から一人掛けのソファがせり上がってきた。本当に不思議な仕掛けの多い学園だ。

 驚く俺の反応を愉快そうに眺めたロロはぴょんと椅子から飛び降り、机の向こうで何やらゴソゴソとやっている。机がデカ過ぎるせいもあるが、本当に見えんな……。


「警戒せんでも罠などではないぞ。少々長い話になる。まあ、掛けて茶でも飲むがよい」


 しばらく待つと、そう言いながら机の後ろからロロが姿を見せた。その手には湯気の立つお茶の入ったカップが二つ握られている。


「よいしょっと」

「あの……」


「なんじゃ、まあ飲め」

「……ズズッ」


 俺がソファに座ると、二つのカップを一旦俺に持たせ、当たり前のようにロロが俺の膝の上に登って腰掛けた。それに意見を言おうとすると片手のお茶を渡すよう催促され、彼女も飲み出したので諦めて俺もお茶を飲む。

 なんだろう、最近俺の膝の上はすっかり椅子代わりになってる気がする……。


「ふう。これならば我が身はシンリの意のままじゃ。先ほどの非礼に対する気遣いじゃと思うて、尻の感触でも楽しむがよいぞ」

「ぶっ……」


 なるほど、敵意がないとの証明か。後半部分は、なんだかエレノアとの会話のようだ。


「さて本題だが……先日、下層にて何を見た?」

「…………」


「ふふ、考えておるな。だが安心せい、ワシは全て知っておるよ。見たのじゃろ『眠り姫』を」

「……確かに見ました。青い棺のような物とその中にいる女性の姿を」


 俺がそう答える様を、振り返って下からじっと見つめているロロ。彼女は何かに納得したように頷くと向き直って俺に寄りかかり、話を続けた。


「そこで即答するか。ワシを信ずるに迷い無しとは気に入った!ふふ、大いにおぬしを気に入ったぞシンリ」

「まあ、先に手札を見せてきたのはロロの方だし。この学園は生徒や教師一人一人を認識して管理している。手段はともかく、あの場所に侵入した俺の名が、何らかの情報として残っているとは思ってましたから」


 そう、俺は転移によるトラブルでこの学園最下層を見てしまった日から、当然学園側が何らかのアクションを起こしてくるものだと予想していた。

 ステインの件はあったものの、ロロはその身体を預けることで俺への信頼を示し、秘密であるはずの『眠り姫』というキーワードまで出してきたのだ。見た目は本当にただの可愛らしい幼女なのだが、機知に富みその行動は大胆不敵。なかなか侮り難い人物である。


「時にシンリよ。おぬし歴史の授業はきちんと聞いておるかの?」

「……まあ、多少は」


 ……言えない。二人の少女を膝に乗せてて、ろくに授業なんか聞いていなかったとは、とても言えん。


「はっはっは、まあよい。我ら探求者の間では今こうして過ごしておる世界は『第二世界』と呼ばれておる。それ以前には今とは全く文明の異なる世界があり、それが滅びた後、新たに始まった世界という意味合いじゃ。ま、中には『混沌による世界崩壊(カオスインパクト)』によって壊滅状態になった世界をそこで再度区切り、現在を『第三世界』と呼びたがる者もおるが、その前後に大きな文明的な違いはない。だからまあ『第二世界』と呼ぶのが一般的じゃな」


 ああ、なんだろう。この身内がすいません的な気分は……。でも、パンドラ姉さんやっぱり凄いな、いろんな意味で。


 ◆◆

「ハックチッ!」

「おや、パンドラ様。まさか体調でも?」

「大丈夫よエニグマ。きっとシンリちゃんが私のことでも考えてくれてるんだわ」

「ははは、そんなまさか……」

「いいや、絶対そうよ!シンリちゃんったら、いつまでたってもお姉ちゃん離れできないんだから……もう!」

 ◆◆


「ハクション!」

「なんじゃ寒いのか?」

「……いえ大丈夫です。続けてください」


「ふむ、今のこの第二世界では、生活魔法を始めとした多くの魔法が使われておる。いわば魔法文化で発展してきた文明と言えるのじゃ。それに対し『最初の世界』では魔力を『マナ』と呼び、それらを燃料として使う『魔動技術(マナテクノロジー)』というものによって、それこそ現在とは比べものにならぬほど人々は豊かで繁栄していたらしい」

「テクノロジー……」


「身近なもので言えばほれ、おぬしの持つギルドカードや専用の読み取り魔道具。あれらは全てその『最初の世界』の技術を応用して作られた物なのじゃよ」


 確かに、魔道具のほとんどは遺跡から発掘された物だとか聞いたことがあったな……。

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