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デジマールの秘密

「冒険者と言う名前の由来を知っておるかの?」

「いえ」


「現在では、ワシらの生活にも欠かせぬものになっておる魔道具。これらは全て最初の世界の遺跡から発掘された物。しかし、薄暗く迷宮さながらの複雑な構造をした遺跡の多くは、人間が足を踏み入れるより先に多くの魔物達が侵入しその住処としてしまっていたのじゃ。かつて動力源として使われていたマナは魔物の最高の糧となり、奴らを凶暴にそして強力なものへと変えていった。とりわけ深部には多くのマナが残っていた為に、それらを吸収した魔物は特に強いボス級の魔物へと進化していく。そんな危険な場所に入り、魔物を倒して未知なる最初の世界の遺物を持ち帰る者達。そんな命知らずな輩を人々が『冒険者』と呼んだのが始まりじゃ」

「遺跡の探索……」


 なるほど、ニャッシュビルがある迷宮『遊戦帝の住処』。あそこはケットシーが人為的に造ったものだが、他の迷宮は基本的にその最初の世界というやつの遺跡なのか。興味深いな……。


「第二世界が始まっておよそ数千年あまり。魔法という力を有しながらも、ほとんどの遺跡では未だ最下層への到達がなされてはおらん。魔物達もその遺跡内で覇を競い、より強力なものへと進化を続けているからじゃ。そうして人を拒み続ける遺跡群だが、発見される遺物は高度な技術を人々にもたらし、また発見者は莫大な富を得る。冒険者達は、そこに一攫千金の夢を求めて困難な冒険に挑み続けてきたのじゃ」


 そこまで話したところで、ロロは俺と自分のカップがすでに空なのに気付き、膝から降りて机の向こうへと消えた。そして、しばらくしてお茶を注いで戻ったロロは、再び当然のように膝の上に戻る。

 いや、もう信用するからそこにいなくていいよ……。


「デジマールのように辺鄙な場所になぜこれだけの有力商人達が集まり、わざわざ国を作ってまでこの地を守っている理由がわかるかの?」

「……この学園があるから」


「ほほほ、察しがいいの。そう確かにこの学園があるからじゃ。しかし学園としての体裁を取ったのは後々のこと、本来この学園の立つ小島は遺跡じゃったのよ。それもこの世界で唯一、魔物のいない『生きた』遺跡だったのじゃ……」


 だが、その遺跡には永きに渡ってそこを引き継ぎ研究を続ける『管理者』と、それらを守る『結界衆』という者達がいて、誰であろうと容易に近づくことが出来なかった。

 商人達は、はじめはその地の者達への食料や雑貨の販売に始まり。徐々に彼らとの平和的な関係を構築。そうして仲良くなった『管理者』達が時折、礼にと差し出す遺物は、商人達に莫大な利益をもたらしていった。

 この遺跡は、まさに宝の山。それゆえ商人達は、多くの同業者で手を取り合い未来永劫ここを秘密とし守り抜こうと決めたのだ。

 各国の目を誤魔化すために学園という体裁を整えたのも、まさかそんなに簡単に誰もが通える場所の地下に、それほど重要なものが隠されているとは悟らせぬようにとの考えからである。


「しかも、ここで学んだ者達が国に戻り、この施設の凄さを吹聴する。それを聞いた各国首脳はデジマールの商人の技術力侮り難しと判断するじゃろう。それこそがこの国家の成立と恒久平和を支える最大の防衛手段となっておるのよ」


 それでも、その技術を盗もうと考える輩はいるだろう。それらを排除するのが先ほどの彼『結界衆』の役目というわけなんだろうな。


「ということは、ロロはその最初の世界の血族なのか?」

「いや、そうではない。ワシはあくまでこの頭脳を買われて祭り上げられておるお飾りに過ぎん」


 第二世界が始まって最初にこの遺跡に触れ、それを起動させた者『ルイス ファン・ネザーランデ』。彼を初代管理者とし、以降は世界でも類稀な知識と頭脳を持ち合わせた者が代々『ネザーランデ』の名を引き継ぎ、この遺跡の管理、運営、そして研究を続けてきたのだという。

 遺跡近郊に住んでいた武勇に優れたある一族。彼らは初代ネザーランデが見せた最初の世界の技術を神の所業であると崇め、子々孫々までこの地と『ネザーランデ』の名を守り抜くと決めた。それが『結界衆』の始まりである。


「……とまあ、ここまでは商会の主要メンバー、学園職員、研究関連の者ならよく知っておることじゃ。無論、口外すれば如何な者とて…………わかるじゃろ」

「そうですね」


「昔話をしようかの…………」






 繁栄を極めた最初の世界。

 そこでは、人を乗せた船が宙を飛び。マナ動力で動く多様な乗り物や機器が溢れていた。

 それらを生み出す技術者の中でも、他を遥かに凌駕するほどの知識と技術を有する三人の技術者。彼らは『三賢人』と呼ばれ、次々と自らが生み出す新技術を他の二人と競い合っていた。


 ある年のこと、その中の一人がとんでもないものを開発する。

 一つはほぼ人間と変わらぬ体を持ち、マナを動力源として生きているかのように動く『魔動人形(マナドール)』。

 そしてもう一つは、本来その『魔動人形(マナドール)』に組み込む目的で開発が進められた『神造炉(デウスカルディア)』。


 特に、人がマナを注がなくても自らでマナを生成して動く『神造炉(デウスカルディア)』は、世界そのものを変貌させるような画期的な性能から、完成前より多くの国家、技術者達の注目を集め、まさに世界中の人々の興味が彼一人に集中していると言っても過言ではなかった。


 それを面白く思わなかったのが、残る二人の賢人達。

 彼らは、多くの危険性を含むことから情報の開示を拒み続ける彼の元に、幾つかの軍事国家を抱き込みそれらを焚付けて攻め入らせ、力ずくでそれを奪おうとした。

 三賢人の持つ技術力。それは軽く一国の戦力を上回るほどのものだ。当然、応戦した彼を支援する国家も加わり、それは世界中を巻き込んだ大きな争いへと発展していく。


 長引く戦火の中、彼の愛しい一人娘がその凶弾に倒れた。

 傷は深く、彼女の絶命は時間の問題。そこで彼は、当時戦闘用に開発していた一体の特別な『魔動人形(マナドール)』に彼女の魂を定着させるべく、持てる技術の全てを注ぎ込んだ。

 その神にも等しい作業は困難を極めたが、まるで悪魔にでも乗り移られたかのように彼は一睡もする事なく作業を続け、ついに三日後それは完成した。


 さらに四日の昏睡状態が続き、凶弾に倒れてから七日後の朝、彼女は目を覚ました。

 目を覚ました彼女が見たのは、あまりにも変わり果てた自身の姿。

 絶望した彼女は正気を失い、暴走したその『魔動人形(マナドール)』は、そこからさらに七日間。ひたすら世界に破壊をもたらし、そうして七日目の夜、再びこの研究所に戻って自ら永い永い眠りに着いた……。






「まさか。それがあの棺の……。では、最初の世界は彼女によって滅ぼされたというんですか?」

「早まるな。その後の記録もあるので、そこで世界が滅んだわけではない。世界が滅ぶ記述は無いが、おそらくは愚かにも戦い続け、築き上げた文明ごと自分達で破壊し尽くして滅んだのじゃろう」


 俺はどこかでパンドラ姉さんの顔を思い浮かべながら、その話に聞き入っていた。


「しかし棺か……。うまい事を言いよる。あれはこの数千年、代々の管理者が挑み続けてきたが動かすどころかあのケースを開けることさえ出来ぬ代物じゃ。不思議なあの蒼い素材は、如何な屈強な工具とて傷一つ付けられん。あれはもう無理なのじゃ……。まさに棺、すでに死んだも同然よ」

(……シンリ、そなたが来るまではの)


 この重要な話を今日俺に聞かせたのは、転移を使って進入禁止のエリアまで入ってしまうこの俺にこれらを隠し、俺自身で勝手に調査をされることを心配したロロによる苦肉の策だ。

 部下のステインは最後まで反対したらしいが、ロロの見立てではステインが俺に勝てる要素は見当たらない。その結果、このような形をとることになったらしい。

 ロロの難しい立場も理解出来るので、俺は決して他言しないことを彼女と約束し、学園長室を後にした。

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