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プリシラ 2

「いったいどうしたんだシズカ?」


 シズカがつかつかとプリシラの前に歩み寄り、睨みつけている。睨まれた本人はというと、蝶が疲れたのかプリシラの突き出された両手の上に彼女の頭ごと降り、今はその両手に胸の前で抱えられている。


「だってデュラハンですのよ!首なし騎士のデュラハンが、こんな少女だなんて設定がぶっ飛ぶにも程がありますわ!」


 まあ、確かに知識とイメージとしてはかけ離れ過ぎているが、それを言ったらプリシラも銀髪ツインテでメイド服の『不死者』など認めないと言いたいところだろう。


「そもそもプリシラ。貴女鎧は?デュラハンといえば甲冑姿でしょうに!」

「あれ重いからイヤ」


「重いって!……じゃあそこは譲るとしましょうか。しかし馬は?騎士である以上、せめて馬には乗ってほしいですわ!」

「馬は臭いからイヤ」


 捲し立てるシズカに無表情で淡々と答えるプリシラ。そういえば妹『静』の部屋に雰囲気的に合わない首なし騎士の洋画のポスターが貼られていた。主演の俳優が好きなのだろうと思っていたが、まさか首なし騎士の方なのかな。そんな嗜好も似たのだろうか。


「甲冑も着ず馬にも乗らない。見たところ帯刀さえされて無いみたいですが。ではプリシラ、貴女は何で戦うんですの?そもそも貴女は戦えますの?」


 その問いを聞いたプリシラは、両手で持っていた頭を左手のみで脇の下に抱えると、右手をシズカに突き出してこう言った。


「これで戦う」


「ま、まさか貴女……『拳系(こぶしけい)』のデュラハンとでも言いたいんですの?」

「そう。これが武器」


 シズカの肩がわなわなと震えている。自分の好きなデュラハンのイメージぶち壊しのキャラ設定に今にも作者に飛びかかりそうだ。しかしよく見ろシズカ。自分自身の設定が、既にその前例である事を。


「上等ですわ!」


 そう言うとシズカは三歩ほど下がり、両手を広げてプリシラに言った。


「ワタクシがその力見極めて差し上げますわ!遠慮はいりません。貴女の全力でワタクシに撃ち込んでいらっしゃい!」


M女の両手盾(アイアンメイデン)』こそ装備してないものの、それでも『怨者の冥途服(アキバラブソディ)』を着たシズカの防御力は桁外れだ。並みの魔物ではダメージと感じさせるのさえ難しい。


「持ってて」


 プリシラは傍で放心状態にあるナーサにその頭を渡し持たせると、その首から下だけの身体がシズカと対峙する。驚いた様子のナーサだったがプリシラの滑らかな髪の感触に我に返り、その頭を落とさないよう大事に抱えた。


「いくよ」


 ナーサが抱えた頭がそう言うと、身体の方は足を開いてやや腰を落としシズカに対して半身を向け、左手は前に突き出し右手は腰の位置に添えて構えをとる。

 その構えが伊達では無い事は、その場の誰もが一瞬で理解した。何よりシズカが両手を顔の前で合わせ、防御の姿勢をとった事からもその警戒が高まったのが分かる。


「シッ!」


 僅かな掛け声と共にプリシラの身体は、放たれた矢のようにシズカに一瞬で迫った。彼女の右の正拳突きがシズカのガードした腕にぶつかると、鈍く大きな音が静寂に支配された『不帰の森』に轟き、消える。それと同時に猛烈な土煙がもうもうと上がり二人の姿を覆い隠す。


 視界が晴れるとそこには、先程の位置から五mほど下がった位置に、腕を突き出した姿勢のプリシラの身体とそれを受けたシズカの姿があった。

 恐らく腕が折れたのだろう、シズカの両手から『再生』時特有の白い煙の様なものが上がっている。


 シズカの腕を折り、さらに後退させるあの威力。それがどれ程とんでもないものか知っている仲間達は、その光景に絶句した。だが意外にも先に驚愕を言葉で示したのは攻撃したプリシラの方からである。


「受け止められたのなんて初めて……貴女は強い!」


「プリシラこそ素晴らしい威力よ。ワタクシまともな怪我なんて久し振りですわ!」


 そう言ってシズカが『再生』の済んだ右手を差し出すと、プリシラの身体も右手でそれを握り返した。握手で健闘を称えるシズカの前に彼女の頭部は無いのだが……。

 互いに『不死』の属性を持つ者同士、打ち解ければ気の合う二人だ。今も並んで歩き頭部を持つナーサのところに近付いて行く。頭を受け取ったプリシラは来た時同様にそれを元の位置に戻した。


「ナーサ、プリシラはきっと最強の友になりますわ!」

「改めて、お友達になってくださいナーサ」


 意気投合した二人がナーサの前に立ちそう言うと、ナーサは何事かぶつぶつと呟きながら考えだした。近付いてよく聞くと『でゅらさん』とか聞こえた。うん、それなんかドラマのタイトルみたいだから止めようか……。


「ナーサ、彼女には素敵な名前がある。そのままでいいんじゃないかな?」


 俺がそう助言すると、ハッとした様子のナーサがそそくさと杖を準備し召喚術に入る。その足元に魔法陣が浮かび上がり……。


「来てプリシラ!」


 その声に導かれ目の前に居たプリシラが消え、魔法陣の中から姿を見せた。ちなみにさっきの蝶はリボンの様に留まったまま動かない。


「よろしくプリシラ」

「こちらこそナーサ」


 硬い握手を交わす二人。肉弾戦に特化したデュラハンとは確かに想定外だが彼女の力は本物だ。今後ナーサの、そしてパーティにとっても心強い仲間になってくれるに違いない。ただし……。


「シズカ!」

「……はい、お兄様!」


 俺にいきなり名を呼ばれ、プリシラに何事か教えていたシズカがビクンとして返事をした。


「ダメだからな?」

「……申し訳ありませんお兄様」


 シズカはプリシラに人間界の挨拶だと言って『んちゃ』や『ばいちゃ』などという言葉を教えようとしていたのだが、それだけは決して容認する訳にはいかない。そこはもう魔物では無く『ロボット』の領域だ。


 落ち込むシズカと、プリシラと挨拶を交わす仲間達。その姿を見ていると俺の前にメイド服姿の[メリジューヌ]が一体現れた。彼女はパンドラ直属の配下なので自由に他のエリアを移動出来る。


「シンリ様、パンドラ様より伝言がございます」







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