02〜プロローグふたつめ〜
【前回のあらすじ】
◯◯しないと出られない部屋の番人を務めるアイリスという女になってしまった、33歳本厄・春咲彩芽。
しかし、身体の持ち主であるアイリスの意識も、身体の中に残ったまま。
アイリスの声は彩芽にしか聞こえず、2人にも◯◯しないと出られないミッションがあるため、彩芽はこのまま番人を肩代わりすることに!
あまり気が合わない2人だけれど協力して、今日も新たな訪問者を迎える・・・。
真っ白で何もない四角い部屋の扉から遠い角に、先ほどモニターで見た2人の女の子がいた。
「きゃっ!」
長い黒髪をおさげにして眼鏡をかけている《まいちー》と呼ばれていた真面目そうな子。
「やば、入ってきた!」
ピンク色のボブヘアーを綺麗に巻いている《ふぇありちゃん》と呼ばれていたギャルっぽい子。
まいちーさんは扉が開いたことにビックリしたのか床に手をついて座り込んでいて、ふぇありさんはこちらを警戒するように睨みつけながら、いつでも動けるようになのか握り拳を作って足幅を開いて立っている。
あちらから積極的にこちらに危害を加えようとする意思は感じられなかったので、わたしは部屋に入り扉を閉めて、その場から動かずに話しかける。
「・・・驚かせてしまってごめんなさ」
「だ、誰なんですか!
ここから出してください!」
「わたしは、あなた方に危害を加えるつもりは」
「てか、どうやって連れてきたわけ?!
ここ来る前のこと覚えてないんだけど!」
出来るだけ丁寧にやわらかく、優しい声で喋るように心がけたが、2人は動揺のほうが強いようで、口々に叫んだ。
「あの、落ち着いて話を」
「え、ほんとだ・・・もしかして、わたしたち、薬で眠らされて誘拐された、とか?」
「ガチ?やば・・・え、どうしよ。
え・・・やだぁ・・・」
わたしの言葉は2人の耳に届かず、一生懸命に強気を保とうとしていたふぇありさんが泣き出してしまった。
へたり込んだふぇありさんを、まいちーさんが抱きしめて、一緒に泣き出してしまう。
無理もないと思いながらも、ここまで激しく動揺を示されたのは、実は初めてだった。
今までの訪問者の中で一番若いというのもあり、どうやって信用を得たものかと考えながらもなかなか糸口が見つからず途方に暮れ、2人の泣き声に触発されてわたしも泣きたい気持ちになる。
そんな時、アイリスさんの声が頭の中に響いた。
- 彩芽、脅すなりなんなりして泣き止ませなさい。
話を聞かないとどちらかに危害を加える、とかね。
結局、言うことを聞かせるには恐怖が一番有効ですわ。 -
その言葉を聞いて、わたしの身体はスッと冷たくなった。
いつかの、誰かの言葉がフラッシュバックした。
【言うことを聞かないなら、会社にクレームを入れてやる!】
確かに、抗えないことがあるときに人は言うことを聞く。
でもそこには、我慢や後ろめたさが絶対に付き纏う。
また同じようなことがあったときに、自分に言い訳をしながら納得をしなければいけなくなる。
仕方がないと思わなきゃいけないことは、
いつだって苦しい。
わたしはこの子たちに、それをさせたくない。
「わたしの名前は!アイリスです!!!
好きな食べ物は!アイスクリームです!!!」
わたしは扉の前から動かずに、叫んだ。
まいちーさんとふぇありさんは、きょとんとしてこちらを見た。
わたしはもう一度落ち着いて、この身体の持ち主の名前と、わたし自身が好きな食べ物を教える。
この子たちとコミュニケーションを取るのは、わたしだ。
少しでも本当の情報を与えたほうが、誠意が伝わるのではないかと思った。
「わたしは、アイリスといいます。
好きな食べ物は、アイスクリームです。
驚かせてしまってごめんなさい。
わたしは、あなた方に危害を加えるつもりはありません。
この部屋から出してあげたいと、思っています。
そのために、お2人のお話を聞かせていただけませんか?」
《訪問者の部屋》にわたしの声だけが響き、静寂が訪れる。
わたしが気まずさに目を泳がせ始めたとき、2人は会話の意思を示してくれた。
「・・・伊集院麻衣です。
す、好きな食べ物は、山菜の天麩羅です。」
「吉岡ふぇあり。
好きな食べ物は・・・ママのサンドイッチ。」
「あ、好きな食べ物まで・・・ありがとうございます。」
大きな声を出してしまったことと、何かこちらの個人情報を与えたほうが安心させられるのではと咄嗟に出てきたのが好きな食べ物だったことに、わたしは少し恥ずかしくなった。
「や、お姉さんが好きな食べ物言ってたから・・・言わなきゃいけないのかと思って・・・」
取り乱してしまったことに照れているのか、ふぇありさんがほんのりと顔を赤くしながら俯いた。
「そ、そんなことはなかったんですけど!
大きな声を出してしまって、ごめんなさい。」
わたしは深々と頭を下げた。
「あの・・・この部屋から出してあげたい、と仰ってましたが、お姉さんはわたしたちをここへ連れて来た人ではないということでしょうか?」
麻衣さんの問いかけに、わたしは身体を起こす。
2人の表情が先程よりはやわらかくなっていて、わたしはホッとした。
「そう、ですね。わたしが連れて来たのではないです。」
「え、じゃあお姉さんも拐われてきたってこと?」
「そういうわけでもないのですが・・・」
何から説明したものかとわたしが頭を悩ませていると、麻衣さんが口を開いた。
「わたしたちは目を覚ましてから、この部屋にある2つのドアを開けようとしました。
お姉さんが入って来たドアと・・・あのドアです。」
麻衣さんが、わたしの入って来た扉のちょうど真向かいにある扉を指差す。
「どちらも、わたしたちが開けようとしたときには開きませんでした。
でも・・・この部屋の外側からお姉さんが入ってくることが出来たということは、鍵を持っているということじゃないでしょうか?」
頭のいい子だなと思った。
まだ完全に落ち着いたわけではないだろうに、ここに来てからのことをきちんと分析して説明できている。
「・・・は?まいちースゴすぎ。頭いいな。え、てことは、やっぱりお姉さんは悪い人かもってこと?!」
「わからないけど・・・お姉さんは、鍵を持っているんですか?」
悪いことをしているわけではないのに、人に疑われ問い詰められると胸が騒ぐ。
ここが一番の難関ではあるし、わたしはゆっくり息を吸って、吐いて自分を落ち着かせる。
「・・・鍵を、持っているわけではありません。
今後はお2人も、わたしが入ってきた扉は開けることができます。」
「え?どゆこと?」
ふぇありさんが訝しげな顔をする。
「あの、お2人の出身は・・・日本ですか?」
わたしには日本の女子高生に見えるけど、そうじゃなかった場合、お話する内容が変わる可能性もあるため確認する。
「そうですけど・・・」
麻衣さんが答えてくれる。
「そうですよね。あの・・・これからお話することは、なかなか信じられないことだと思うのですが、聞いていただけますでしょうか?」
ふぇありさんが麻衣さんのほうをチラと見て、麻衣さんは一瞬悩んだような顔したけれど、ふぇありさんと再び視線を交わして頷いた後に、こちらを見た。
「今は、何も情報がないので・・・話してください。」
「ありがとうございます。
まず、この部屋には魔法がかかっています。」
「魔法?!」
ふぇありさんが素っ頓狂な声をあげる。
「信じられないとは思いますが、お2人は魔法が存在している国に来てしまいました。
お見せするのが早いと思いますので、失礼します。」
2人は全然ついていけないという顔をしていたけれど、信じてもらうには証明するしかないので、わたしは最後にホームヘルパーでお伺いしたお宅の庭を思い浮かべた。
程なくして、真っ白で何もなかった部屋に無数の花が咲き始めた。
小さいながらも鮮やかなブルーが美しいネモフィラ、色とりどりのチューリップ、表情豊かなパンジーが並び、この部屋に春が訪れた。
2人は唖然として、言葉を失っている。
「あ、あの・・・大丈夫ですか?」
わたしは、恐る恐る声を掛けた。
少し、時間が必要そうだ。
第1話を読んでまた見に来てくださった方も、このお話から見てくださった方も、心からアイラブユー。
ちなみに、わたしの好きなお花はカスミ草です。
皆様の好きなお花は何ですか?
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次回は2026/9/4(土)20:00更新予定。
なんと明日です。
1話更新から今日まで毎日ランクインさせていただいたのと、Xアカウント奪還記念で(乗っ取られてました)
連日更新させていただきます!!!
また読んでいただけますように。




