01〜プロローグひとつめ〜
女の子にはいつだって、秘密がある。
何を隠しているのか
自分でもわからなくなってしまうときだって、ある。
なにかが、苦しい。
抱えきれなくなってしまったら
見つけられなくなってしまったら
ここにおいで。
皆様は《◯◯しないと出られない部屋》というものをご存知ですか?
二次創作等でご都合展開に持っていくために、よく使用されている設定です。
大抵は、エッチなことになります。
わたしがそういうのばかりをよく見ているとかではなく、本当にそうなんです。信じてください。
ただ実際の《◯◯しないと出られない部屋》では、あまりそういうことは起こりません。
全くないとは言いませんが、どちらかといえばその人の人生観を問うような議題が多いように思いますし、今後の生き方を左右する機会に直面している人たちが、よくやって来ます。
……そう。
実は《◯◯しないと出られない部屋》は、本当に存在するのです。
はじめまして。春咲彩芽と申します。
33歳、厄年です。本厄です。
ホームヘルパーをしていました。
【日本】という国で暮らしていた、地味で平凡な人間です。
この部屋には度々、心になにかを抱えた人たちが訪れるのですが、部屋を出るための手助けをしてくれる《番人》というのが存在します。
《番人》の名は、アイリス。
ツヤツヤとした薄紫色のロングヘアに蜂蜜のような金色の瞳が美しく、その身体を彩るドレスも大変豪華で、思わず見惚れてしまいます。
しかしこの方は所謂《悪役令嬢》で、かなりの実力者ではあったけれど周りに疎まれ、この部屋に追放されてしまったらしいのです。
この部屋を訪れる人たちと同様に、アイリスさんも◯◯しないとこの部屋を出られず、そのミッションにかなり苦戦していたところに、わたしが現れました。
現れた・・・というか、転生したら、わたしがアイリスさんになっていたのです。
わたし・・・《◯◯しないと出られない部屋》の番人を務める、悪役令嬢になりました。
--------------
- 昨日までの娘たちは、随分と時間がかかりましたわね。
やはり彩芽は相手の顔色を伺いすぎじゃありませんこと? -
わたしの頭の中に、この身体の持ち主だったアイリスさんの声が響く。
わたしの意識は、ある日気づいたらアイリスさんの身体の中にあって、でもアイリスさんの意識もアイリスさんの中には残ったままで、けれどもアウトプットはわたししか出来なくて、アイリスさんの声はわたしにしか聞こえないというややこしいことになっていた。
わたしもこの部屋を訪れたときに、◯◯しないとこの部屋を出られないという条件を与えられている。
アイリスさんの身体をアイリスさんにお返しして、わたしが元の世界に戻るためには(この部屋を出たら元の世界に繋がっているのか定かではないのだけれど)それを解決しなければならない。
そのためにわたしは、番人業を肩代わりすることになった。
「日本人には、繊細な人が多いんです。
本音がなかなか言えなかったり、我慢を続けていたら本音がわからなくなってしまう人もいます。
アイリスさんはまどろっこしく感じたかもしれませんが、昨日までの方々には、理解して寄り添う時間が必要だったんですよ。」
この部屋に来ている人たちは、今のところ全員日本人だ。
アイリスさんに今までのことを確認したら、いちいち全員からは聞いていないけど《日本》という国の名前は何度か耳にしたと言っていたから、日本人しか来ないのかもしれないし、
心になにか抱えがちな人が日本に多いからなのかもしれない。
- 面倒な国民性だこと。
ま、私にはなかなか理解が及ばないから、彩芽が来たことによって私のお役目終了が近づくのは喜ばしいことですわ。
これからも尽力してくださいませね。-
「はい。わたしのためでもあるので・・・頑張ります。」
そのとき、部屋にあるモニターから声がした。
「・・・え。どこ、ここ?
ふぇありちゃん、ふぇありちゃん、起きて!」
「ん・・・まいちー・・・?
は?何ここ・・・なんか、やばくない・・・?」
わたしたちが今いる部屋は《番人の部屋》で、ここへ訪れる《訪問者の部屋》は、また別にある。
わたしたちは《番人の部屋》にあるモニターで、常に《訪問者の部屋》を監視している。
「新しい訪問者が2人・・・制服を着てるから、13歳〜18歳ぐらいですかね。」
- 子どもですわね。すぐに解決しそうじゃありません? -
アイリスさんの声が弾む。さっさと役目を終わらせたいのだろう。
「どうですかね・・・最近の子は、本音を話すのも人と接するのも苦手な子が多いですから。」
- そうなんですの?日本人というのは、本当に厄介ですわね。
子どもは子どもらしく、素直でいたらよろしいのに。-
「あはは・・・とりあえず《訪問者の部屋》に行きましょうか。」
わたしは《番人の部屋》の扉を開ける。
今までの中で、最も若い訪問者。
世代が違うと、もう違う生き物と言っても過言ではないとわたしは思っている。
重い足取りで《訪問者の部屋》へと、歩みを進めた。
《番人の部屋》を出ると、廊下のような何もない真っ白な一本道が5メートルほどあり、その突き当たりに《訪問者の部屋》はある。
今回の訪問者はすでにかなり不安な気持ちになっているようなので、慎重に接してあげなければと扉の前で立ち止まって考えていると、頭の中にアイリスさんの声が響く。
- 何をぼんやりしていますの?
どうせまたゴチャゴチャと、訪問者たちの反応を気にしているのだと思いますけど。
何にせよ話をしなければならないのだから、さっさと扉を開けなさい。-
「それはそうなんですけど・・・
まぁ、そうですね。」
わたしは、扉をノックした。
中からは短い叫び声が聞こえ、その後に内容まではわからないが何かを相談するような声がしばらく続いて無音になり、こちらへの呼びかけはなかった。
それはそうだ。気がついたら知らない場所にいて、自分たち以外の存在がどのようなものかもわからないで、コミュニケーションを取ろうという勇気はなかなか出せない。
わたしは、なるべくゆっくりと扉を開けた。
初連載、第1話の目撃者になってくださり、ありがとうございます。
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9/4(金)20:00〜と9/5(土)20:00〜
2話連続更新をさせていただきます。
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