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第6話 決戦白雪姫

「言って」

『いいのですか?』

「いいわ、もう分かっていることだもの」

『どう計算しても、魔女様の犠牲が必要です』

「でしょうね」

『そんな! ここから逃げるという方法もありますよ。逃げて魔力を補充すれば、白雪姫にリベンジできます』

「駄目よ!」


 八回目の鐘。


「これは魔女としてのプライドの問題」

『そんな。死んだら終わりじゃないですか』

()()()()()()()()


 魔女はウインクして見せた。


『分かりました。最後までお付き合いします。私にだってプライドがあります』

「よし、高度を上げるわ」


 九回目の鐘が鳴り響く。


 シンデレラの中に残る「シンデレラ」の記憶が門限の時間を呼び起こしたのか、その行動は一層苛烈になった。

 白雪姫を蹴り飛ばし、後ろに飛び退く。

 白雪姫は悲鳴とも、うめき声ともつかない高周波を発してゆるゆると立ち上がる。

 もはや体の大半が再生中で原型を留めていない。

 シンデレラは胸の前で腕を十字に組んだ。


「デュワ!」


 裂帛の気合が空気を震わせる。

 腕が眩い光を放ち始める。


 十回目の鐘。


 箒が速度を上げた。


『魔女様! しっかりおつかまり下さい』

「分かったわ」


 魔女が柄を握る手に力を込める。

 最後の魔力を穂に流し込んだのだ。

 もう逆立ちしても魔力は出てこない。

 体を支えるのは自分の筋力しかない。


『行きます!』


 鏡がそう告げると、箒の柄と穂が切り離された。


「え? 鏡、何をする気!」


 魔女の魔力が注入された穂は一気に加速して宙を駆け上る。

 柄を握ったままの魔女は公園の池の中に落下した。


『最後まで戦うのが魔女様のプライドなら、魔女様をお守りするのが鏡のプライドです』


 シンデレラの上空三百メートルまで一気に上昇した鏡は、これまでの魔女の行動を記録したアーカイブを検索した。


『本当に、倫理的にダメなことばかりやっていましたね。楽しい時間でした魔女様。お前も付き合わせてしまって悪かったね』


 箒がフルフルと震えた。


 十一回目の鐘が鳴り響く。


 シンデレラは動きを止めた。

 時間が来たのだ。

 腕の光は次第に弱くなる。

 白雪姫が再生しきらない体を無理やり動かした。

 怪光線で焼け爛れた顔を歪めて嗤い、シンデレラに突進を始める。


 上空で様子を見ていていた鏡はホログラムのスイッチを入れた。


『さあ、鏡4Pro、一世一代の呪文プロンプトをとくとご覧あれ!』


 動画を生成しています……

『箒に跨った魔女。ブロンドの美女。高精細。空に向かってあっかんべーをしている』


 十二回目の鐘が鳴り響いた。


 シンデレラの胸の赤い宝石が砕け散った。

 白雪姫が肉片を飛び散らせてシンデレラにとびかかる。


「鏡……」


 池から這い出た魔女は空を睨みつけた。


 空が光った。

 DWARFから蒼い光が撃ち下ろされた。

 光が鏡と穂を貫く。

 魔女のホログラムが消える。

 光が、シンデレラに吸い込まれる。

 シンデレラのガラスの体の中で幾重にも反射した光は十字に組んだ腕に集約して白雪姫に向かって放射された。


 金色の鎧が弾け飛ぶ。

 咄嗟に胸を押さえた白雪姫の体が瞬時に沸騰して水蒸気爆発を引き起こした。

 シンデレラのガラスの体がその衝撃を受けて粉砕された。


 爆風を頬に受けながら魔女は笑った。

 声を出して笑った。


 爆散した白雪姫の破片が黒い煙を上げて舞い散る。

 まるで黒い雪が降っているようだった。

 灰燼と化した新市街の中、シンデレラはガラスの足を残して消えた。


「鏡よ鏡」


 返事はない。

 それでも魔女は、もう一度呼びかけてみた。


「鏡よ、鏡、鏡さん。この世で一番美しいのは誰?」


「お答えします、魔女様」


 突如、魔女は強い力で地面に組み伏せられた。


「くそ、誰?!」

「やあ、初めましてかな。隣の国の王子様だよ」


 AIで生成したみたいな美青年がしゃがみこんで魔女に言った。

 いかついフルプレートアーマーを装着し、差し色に赤色を使っているのがいかにもイケメン王子っぽい。


「美味しいところはいつも王子様が最後にかっさらって行くものだろう」


 上段から見下すような物言いがいちいち癪に障ると魔女は思う。


『A班制覇圧完了。光学迷彩魔法を解除。B班は引き続き周囲の警戒を続行せよ』


 青い鎧を装着した武装兵士が姿を現すと、それをきっかけにガスマスクをした武装兵士たちが次々と姿を現した。


「いつの間に」

「いやーなかなか楽しい戦いだったね。こんなにワクワクしたのは久しぶりだよ」

「どういたしまして。愉しんだならどきなさいよ」

「君は本当によくやってくれたから、お礼に僕の結婚式に招待するよ。来てくれるよね」


 王子が顎で指示を出した。

 魔女の首筋に何かが注射された。


「まあ、嫌と言っても連れて行くけどね」


 王子は手の甲で魔女の頬を軽く二回叩はたいた。

 魔女の応答はない。


「よし、連れて行け。くれぐれも丁重にな」


 王子はクレーターに立つシンデレラの残骸を指差した。


「それから、あのガラスの足。あれは素晴らしい。必ず持って帰るように」


 黒い灰が舞い散る新市街に、トラックの轍だけが跡を残した。

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