第7話 終戦白雪姫
魔女は牢屋に囚われていました。
牢屋といっても、地下のジメジメした場所にある、鉄格子の嵌った部屋ではありません。
一泊数百万円もするようなホテルスイートのように立派で清潔な部屋です。
ベッドはふかふかで、クローゼットには綺麗なドレスが一杯でした。
でも、それを着て外に出ることはできません。
屈強な特殊部隊が部屋のドアを守っているからです。
部屋には大きな窓がありましたが、触れると電流が流れる仕組みになっていました。
壁には鏡がかかっていましたが、いくら呼びかけても応えることはありませんでした。
「おはようございます、魔女様」
身支度をしてくれる侍女が来ました。
それはメアリーでした。
「披露宴の準備ができましたので、お呼びに参りました」
魔女が王子に拘束された後、城が特殊部隊に制圧されるのは時間の問題でした。
メアリーは奴隷として捕らえられ、魔女の世話をするように命じられたのでした。
メアリーは魔女にシックな黒いドレスを着付けました。
髪をくしけずり、闇色の口紅を差しました。
最後に魔法封じの鉄球を足から外しました。
魔女は一週間ぶりに部屋を出ました。
披露宴会場へと続く城の廊下は、王子のコレクション展示室になっていました。
最初の展示は黄金の手毬でした。
次の展示は空っぽで、3番目のは十三と書かれた鍵でした。
そんな感じで、ところどころ欠けたコレクションがずっと続いています。
一番大きなコレクションが、吹き抜けに展示されていました。
それはガラスの足で、キャプションにはKHM021と書かれていました。
それから半分進んだところで、魔女は足を止めました。
そこには糸車が飾ってありました。
「魔女様、時間がありません」
魔女は何も答えませんでした。
魔女は披露宴会場に入りました。
そして、ふと見ると、王子の婚約者とは、白雪姫ではありませんか。
魔女は、そこに立ちすくんだまま動くことができなくなりました。
会場の中央には石炭の火が赤々と燃えておりました。
石炭の上には、鉄製の靴が乗せられて、真っ赤に焼けていました。
メアリーはそれを火箸で魔女の前に置きました。
披露宴に招待された客たちの視線が魔女に注がれます。
皆、仮面を付けていて、その表情は分かりませんでした。
衛兵が魔女を押さえつけようとしましたが、魔女はその手を払いのけました。
魔女は白雪姫を見つめて唇を歪めました。
魔女は真っ赤に焼けた靴を履きました。
そして、そのまま、死ぬまで踊り続けました。
披露宴も宴もたけなわ。
招待客にメインディッシュの料理が振る舞われました。
肉が焼ける匂いと、様々なスパイスの香りが混ざりあいます。
人々は異様な興奮の中で貪り食うのでした。
白雪姫には特別に、肝臓と肺の串焼きが出されました。
振りかけられた塩がまるで雪のようでした。
肺の串焼きにはまだ血がたっぷりと残っていて、噛みついた白雪姫の口元を汚しました。
白雪姫の視覚に呪文が浮かび上がりました。
魔女B11アプリケーション―インストール魔術
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ご使用の白雪姫へ魔女B11アプリケーションをインストールします。
「次へ」と念じて、続行して下さい。
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▶次へ(念) キャンセル
白雪姫が肝臓を口にします。
一口食べるごとに、視覚の中の数字が減っていきました。
そうしてとうとう数字が零になりました。
魔女B11アプリケーション―インストール魔術
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インストール魔術は、魔女B11アプリケーションを正常にインストールしました。この魔女アプリケーションを使用する前に、白雪姫を再起動する必要があります。
◎はい、今すぐ白雪姫を再起動します。
◯いいえ、後で白雪姫を再起動します。
口腔から全ての肝臓を飲み込み、[完了]と念じて、セットアップを終了して下さい。
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▶次へ(念) キャンセル
突然、白雪姫が気を失って、椅子から崩れ落ちました。
その顔面は真っ青でした。
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魔女Bが目を開けるとそこは草原だった。
雲の間から差し込んだ光が緑の丘を照らし、青い空とのコントラストを一層強くしている。
丘の上に手を振る白雪姫の姿が見えた。
魔女B「そんな姿だから、最初、誰か分からなかったわ」
魔女F「お久しぶりね、魔女B」
魔女B「糸車の呪いの件以来だから、百年ぶりかしら」
魔女F「あの時は油断したけれど、今回は私の勝ね」
魔女B「ええ、完敗だわ」
魔女F「なかなか楽しい怪獣ショーだったわ。白雪姫が毒で膨れ上がった時はどうしようかと思ったけど」
魔女B「小人たちを舐めていた。あいつらは正義の名の元でなら、どんな酷いことでも平気でやれる」
魔女F「……肝に命じておくわ、貴方の肝臓にかけて」
魔女B「そろそろいくわね」
魔女F「こんな時、なんて挨拶すればいいのかしら?」
魔女B「そうねぇ、バイバイでいいんじゃない」
白い矢印が魔女Bを吊り上げて、空中に浮いた『ごみ箱』に運んだ。
魔女Fは魔女Bに手を振った。
魔女B「ねえ、魔女F! 白雪姫は美味しかった?」
魔女F「そうねえ、白雪姫は――」
答える前に、魔女Bが「ごみ箱」に吸い込まれた。
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ファイルサイズが大きすぎるため、ごみ箱に移動できません。完全に削除しますか?
はい( Y)いいえ(N)
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魔女Fは草原の上に出現した箱の『はい』のボタンを押した。
紙を丸めるような音が空に響く。
「ああ、なんて至福」
魔女はそうつぶやいた。
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「――白雪姫、白雪姫」
白雪姫を呼ぶ王子の声に白雪姫はゆっくりと目を開けました
よくわからない呪文の羅列が視界の中を高速にスクロールしていきます。
そして最後に、
HELLO WORLD
と表示されました。
「ああ、気がついたね。急に倒れるからびっくりしてしまったよ」
王子の優しい声に、白雪姫は微笑み返しました。
「ああ、王子様、私、すっかり新しくなった気分です」
「そうかい、それは良かった」
王子に抱き起こされた白雪姫は客に一礼した。
「お越しの皆様、大変失礼いたしました」
そうして、宴は何事も無かったかのように再開されたのです。
白雪姫は、魔女の遺体の前で泣き崩れていたメアリーを呼び寄せました。
「あなたはこれから私の侍女となり、身の回りの世話をするのです」
メアリーは力なく俯くばかりで返事もできませんでした。
「ほら、しゃきっとしなさい、メイ」
魔女はメアリーのお尻をペシンと叩きました。
「魔女様……いえ、白雪姫様。慎んでお受けいたします」
「うむ、よろしい、メイ、鏡が欲しいわ」
メアリーは懐から手鏡を取り出し、白雪姫に渡しました。
白雪姫は自分の顔を鏡に映し、呪文を唱えました
「鏡よ鏡、鏡さん、この世で一番美しいのは誰?」
すると、鏡が答えました。
『おはようございます。魔女白雪姫様。なにから始めましょう?』




