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第5話 観戦白雪姫

「時間がありません。起きてください、魔女様」


 ヒーラに頬をビンタされ、魔女は目を開けた。


「あら、ヒーラ、お久しぶり。私死んだの?」

「不吉なことを言わないでください、まだ、死んでいませんよ」


「まだ、なのね」


「そうです、まだ、です。もう時間がありません。右足に魔薬があります。使ってください」


「ねえ、あなた、いったいどうなったの?」

「最後に挨拶できて良かった」 

『魔女様』

「ねえ、待って」

「鏡にログを渡しておきますね」

『魔女様!』


 魔女が目を覚ますと、前の前にはミイラ化したヒーラがかぼちゃの蔓からぶら下がっていた。


「うぎゃあ」


 数十年ぶりに魔女は悲鳴を上げた。


『大丈夫ですか魔女様』

「ここは?」

『旧市街と新市街の間の道です』

「魔力が切れると余裕がなくなるわね」


 魔女はあたりを見渡す。

 大きなかぼちゃの蔓にパラシュートが引っかかっていた。

 新市街の方から重量物同士がぶつかり合う衝撃音が聞こえてくる。


「確か右足だったわね」


 魔女はヒーラのスカートをめくった。


『何してるんです! 破廉恥な』

「違うわよ」


 太もものホルスターにアンプルが一本刺さっていた。


「ないよりはましね」


 アンプルを折り、一気に飲み干す。


「にがぁ」


 顔を歪めた魔女は空のアンプルを放り投げた。


「状況は?」

『シンデレラが圧倒的です』


 魔女の所からは新市街の闘いがよく見えた。

 白雪姫がシンデレラの拳を受けて仰け反った。

 戻って来たところにハイキック。

 肘を入れて、頭を抱えてニーキック。

 最後は両手で手刀を肩に落とす。


「ニギャア」


 白雪の両手が切断され、甲高い悲鳴が上がる。

 肩口から煙を上げて、再生が始まる。


「白雪姫の再生が明らかに落ちているわね」


『ヒーラ様が残したログを確認しました。大変、興味深い内容です』

「どんな?」

『シンデレラと白雪姫は姉妹です』

「嘘でしょ?」

『勿論、比喩的な意味としてです。「魔女に与える鉄槌」をご存知ですよね?』


 魔女は眉を吊り上げ、吐き捨てるように続けた。


「忌々しい本だわ」

『その中で小人たちは魔力に関する仮説を発表しています』


「魔力が魂の業(カルマ)の二乗に比例するってやつね。人間が魔法を使おうなんておこがましい」

『魔女様は彼らを森に追放されましたが、そこで廃棄されていた『生命の鍋』を見つけたようです』


「生命の鍋? ああ、死者を煮体を煮込むと蘇る神話時代の欠陥魔道具ね。蘇るけどゾンビになるから使えないのよね。ん、白雪姫が復活したのって?」

『そうです、彼らは白雪姫が殺害される度に鍋を使っていました。ある工夫を続けながら』


 魔女はかぼちゃの残骸と巨大化したシンデレラを交互に見つめた。

 鏡が言わんとしていることが何となく分かってきて、魔女は頭を抱えた。


「もしかして、生きている人間を一緒に煮込むと、その魂が入るとか?」

『その通りです。本来、一つの体に一つしか入らない魂を、生命の鍋の不正利用で無理やり複数入れているようです』

「やっぱりー」


『副作用として、増えた魂の分だけ体が大きくなりますが、余剰の魂を丸ごと魔力として使えるというわけです』

「それがあの阿保みたいな回復能力ってわけね。じゃあこの状況って」

『魔女様が招いた結果ともいえますね』

「……いや、私は悪くない。技術を悪用する奴が悪い」


 魔女は自分を納得させるように、強く何度も頷いた。


「みたところ、シンデレラも同じ技術を使っているみたいだけど、なぜ?」

『小人たちが特許出願したからです』

「そういうところは研究者らしいわね」


『ヒーラ様は小人たちの特許技術を盗んで――参考にして、旧市街の魂をまるごとシンデレラの中にねじ込んだようです』

「だから、圧倒的……逆に、シンデレラをどうするって話だけど……ヒーラが夢の中で、何か重要な事を言っていた気がする」


 魔女は腕組みをして考える。

 その時だった、新市街の大きな時計台が十二時を告げる最初の鐘を鳴らした。


「時間。そうよ、時間がない!」

『魔女様?』

「鏡、私、どれくらい寝ていた?」

『十分ほどです』


 ゴーン。

 二回目の鐘。


「まずいわ。鏡、ヒーラの会話ログを見て」

『検索中。あ、これですね――


 この魔法は十二時を過ぎると元に戻ってしまう


 鐘は三十秒おきに一回。合計で十二回鳴ります。既に二回鳴っているので、残り五分です」


 魔女は箒に飛び乗った。


『どうされるつもりです』


 ゴーン。

 三回目の鐘が鳴る。


「十二時の鐘が鳴り終わればシンデレラは活動を停止する。それまでに決着をつける。箒! 早く動け!」


 箒は小さな音を発するものの、なかなか浮遊しようとしない。


「お願いしますよ箒さん」


 撫でたり、さすったり、揉んでみても状況に変化がない。

 悪戦苦闘の最中に四回目の鐘が鳴った。

 白雪姫を圧倒していたシンデレラの動きが明らかに悪くなった。

 白雪姫の攻撃を被弾する回数が増えている。


『シンデレラの胸の宝石を見て下さい』


 それまで明るく輝いていた宝石が明滅を繰り返すようになった。


「クソ箒! これ以上抵抗するなら叩き折って、薪にするぞ!」


 魔女の脅しが効いたのか、バスンという大きな音を立てて、箒が浮いた。


「よし、これが終わったら、私の部屋の掃除をさせてあげるからね」


 箒は嬉しそうに震えた。

 五回目の鐘が鳴る。


「アイデアがある。うまくいくか分からないけど」


 魔女は箒を滑らせるように発進させた。


「最後の魔力を使ってシンデレラの真上に飛ぶ」

『待って下さい。魔女様が上空にいったら、DWARFに狙い撃ちされますよ、あっ!』

「そうよ、DWARFのレーザーを誘発して、シンデレラに落とす」


 六回目の鐘。残り三分。

 白雪姫が口を大きく開けた。

 もはや、自分の最後が近い事を悟っているのだろう。

 その口から怪光線を狙いも付けずに吐き出し始めた。


「なんつーエグい攻撃」


 光線が一閃する。

 それを受けたビルが一瞬遅れて倒壊、爆発する。

 シンデレラにも光線が当たる。

 しかし、ガラスの体は光を透過させた。

 中で拡散して周囲のビルや建物にばら撒く。

 爆発と炎上が広がる。


 七回目の鐘。


「要は、今の要領よ。できそう?」


 Thinking……


『結論から言うと可能です。でも明確な問題もある。かなり深刻な問題です』

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