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第4話 対戦白雪姫

「もしもーし」


『どうされました』

「ヒーラとの念話、切れちゃった」

『嫌われているんじゃないですか~』

「お酒に誘ったんだけど、ごめんて」


 普段見せない心配そうな魔女の表情を見て『鏡』は直ぐにフォローを入れた。


『ヒーラ様が好きそうな、美味しいお店をリストアップしておきます』

「ああ、頼むよ」


 上空三百メートル。

 魔女は真・白雪姫の様子を観察している。

 今の所、大きな動きはない。

 ずっと魔女を睨んでいること以外は。


『注意して下さい。城の方角から高エネルギー反応』


 城の尖塔が光ったと思った瞬間、一条の光が白雪姫を貫いた。

 白雪姫が大きく仰け反る。

 貫通した光が背後の森に直撃して爆発。樹木を吹き飛ばした。


「な、なんだ?」

『検索中……ヒーラ様が起動されたシンデレラの攻撃のようです』

「ヒーラめ、なにを起動させたのよ」


 魔女は嬉々とした表情を浮かべて、白雪姫の胸に開いた大きな穴を観察している。


「待って、なんか動いている」


 白雪姫の胸の穴――傷の端から赤黒い肉腫が湧き出し、穴はすぐに埋め戻された。

 同時に皮膚も増殖して傷を塞ぎ、数秒後には元の綺麗な肌に戻っていた。


「どっちも想定以上のバケモノじゃない」


 魔女は生唾を飲み込んだ。


 白雪姫が天空を見上げた。

 左手を大きく回し、しゃがみ込み、また立ち上がった時に右腕を掲げた。

 白雪姫がまばゆい光を放つ。


「眩し」


 光が消えると、そこには金色の鎧を身に纏った白雪姫がショートソードを構えた姿があった。


「何、あの破廉恥な面積」


 Thinking……


『マイナーな学会誌に、鎧に関する記述を発見しました。結論から言うと、あの鎧は放熱用のデバイスです。著者は白雪姫に七人の小人です』

「悪趣味なデザインね」


『白雪姫のあの形質は大量の魔力を消費するようです』

「まあ、そうでしょうね。あの巨体であの再生速度なら」

『その分発生する熱量も大きいため、専用の放熱デバイスが開発されたようです。逆に、あの鎧を破壊すれば、自分の熱で焼け死ぬ可能性があります』

「それは弱点になりそうだけど……その魔力はどこから」


『装着プロセスを解析します』


 魔女の脳内に『鏡』が解析した映像が流れこんだ。


『ここです。軌道上の人工衛星DWARFから大量のデータストリームが白雪姫に赤射されています』

「人工衛星? 誰よそんな打ち上げ許可したのは」


 検索中――

『魔女様が許可されたようです』

「えー?」


『半年前、ちょうど、白雪姫の最初の殺害直後ですね』


「思いだしたわ。確か、他国の攻撃をレーザーで迎撃する兵器ってことで許可したはずだけど」


 検索中――

『確かに、城の稟議書には決戦兵器《Decisive Weapon》絶対報復施設 《

 Absolute Retaliation Facility》と記載されていますね』


「まさかと思うけど、報復って」

『その、まさかのようです、軌道上に高エネルギー反応。狙われています!』


「まずい。緊急降下!」


 魔女は箒を錐揉み状態で降下させた。


『来ます!』


 樹冠ギリギリで箒を引き起こす。

 魔女のすぐ横を青白い光線が掠める。

 森に落ちた光は地面を数千度にまで一気に加熱し、大爆発を引き起こす。

 爆風にバランスを崩しかけた魔女だったが、なんとか立て直す。


「シンデレラのところまで行く。このまま城まで低く飛ぶわよ」

『今度は、白雪姫が追いかけてきます!』


 片手上段にショートソードを構えた白雪姫が木々を吹き飛ばしながら迫り来る。


「熱出した時に見る夢じゃん!」


 それはまるで暴走する機関車。


「ブレイク、ブレイク!」


 振り下ろされた剣を急制動でかわした魔女は、そのままの勢いで森の中に突っ込んだ。

 木々の間を高速で通り抜ける。


「城壁よ!アフターバーナー」


 箒の穂が全開し、青白く輝く。

 箒の急激な垂直上昇。

 魔法なんか間に合わない。

 呼吸を止める。

 猛烈なGで脳から血液が抜け出さないように筋肉で押さえ込む。

 視界の端が赤く歪む。


『気をつけて! 高度が上がり過ぎるとDWARFに狙われます』


 八十メートル余りを一気に昇る。


 一瞬の無重力。


 旧市街の様子が魔女の目に飛び込んできた。


「うわお」


 目抜き通りの奥の巨大なカボチャ。

 街並みには血管のように伸びた蔓。

 それはまるで解剖された人体のようだった。


「かぼちゃの中身はどこへ?」


 新市街で光が反射した。

 ビルの谷間からゆっくりと姿を現すガラスの巨人。


『危ない!』


 魔女を追いかけて城壁に向かって突進した白雪姫は直前でしゃがみこみ、大きく力を蓄えた。


「あの図体よ、ここまで高くは跳べないはず――」


 いくら魔法のアシストがあるとはいえ、30メートルもある城壁を飛び越えることはできないだろうと魔女は踏んでいた。

 ブチブチと筋線維が破断する音を残して白雪姫が跳躍する。


 20メートルほど跳んだ白雪姫は、伸ばした手を城壁のヘリにかけて、体を持ち上げた。

 跳び箱のように城壁の上に飛び乗った白雪姫はそこからさらに跳躍する。


 城壁30メートル

 跳躍20メートル

 白雪姫30メートル


 合計80メートル


「奴の再生能力を侮っていたわ」


 魔女のすぐ横に白雪姫の顔が迫る。

 その唇が歪に歪んだ。

 白雪姫の左手が魔女を捕らえる。


 城壁を飛び越えた白雪姫が新市街の公園に着地した。

 腰椎が潰れ、破断した大腿骨が太ももを突き破る。

 衝撃で公園の池から水柱が高く上がった。


 しかし、白雪姫は何事もなかったかのように、クレーターの真ん中で立ち上がり、獲物を誇示するかのように左手を掲げた。


「うおおおおお」


 魔女が咄嗟に展開した結界に亀裂が走る。


『このままだと握り潰されます』

「分かってるわよ! 応援ぐらいしなさよ」

『音楽を生成しています――フレーフレー魔女様。頑張れ頑張れ魔女様』


 ピシピシと音を立ててひびが伸びていく。


「在庫一斉処分よ、ゲート解放! 喰らいなさい」


 何もない空間から、大量の手榴弾が出現し一斉に落下した。

 魔女が指を鳴らす。


 立て続けの爆発が表情筋を爆砕するが、白雪姫は怯まない。


「効いてない!?」

『再生速度が落ちています。このまま続ければ』

「だめ、もう魔力が」


 魔女は空間から対戦車ライフルを引きずり出した。

 腕よりも太い弾丸を装填すると、狙いもそこそこに引き金を引き絞る。


 空気を震わせて弾が発射され、白雪姫の瞳に吸い込まれた。


 白雪姫の動きが一瞬止まる。

 炸薬が目の中で爆ぜて、顔の半分を吹き飛ばした。


「やったか?」

『駄目です、その言葉は!』


 白雪姫は魔女を離さなかった。

 白煙を上げて白雪姫の顔面が修復されていく。


 結界が限界に達して音を立てて割れた。

 魔力をオーバーロードしていた魔女に抗う術は残されていなかった。


 白雪姫の真っ白な指が魔女の体を握りしめる。




 シュバババババ




 新市街から放たれた蒼い光が、白雪姫の腕を蒸発させた。

 魔女の体が宙を舞った。

 意識を失った魔女が落下する。


『緊急プロトコル発動』


 魔女の服に仕込まれた落下傘が展開した。


 ビルの合間からガラスの巨人がゆっくりと姿を現す。

 腕を再生させた白雪姫がシンデレラと対峙する。


 その間を滑るように降下する魔女を追って、鏡は箒を旧市街に向けた。


 新市街地の大きな時計台が11時45分を知らせる鐘を鳴らした。

 それを合図に二人の巨人は間合いを詰める。

 拳と拳がぶつかり合い、その衝撃波でビルのガラスが砕け散った。

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