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笑う事を禁じられた令嬢は婚約破棄される(連載版)  作者: おかき


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4話 クレメンの失態

イザベルの思考は纏まらない。


(彼は想い人も婚約者もいないと言っていたわ。では、私は何の為に連れて行かれるのかしら……)


イザベルはクレメンの中の自分の位置づけが解らずにいた。


クレメンはイザベルを婚約者として、未来の皇太子妃として連れて行くのだが肝心なそれを伝えていなかった。


平民となったイザベルは、自身の今の立場を十分理解している。

公爵令嬢でもない自分が、クレメンの婚約者になるなど頭の中にないのだ。



(愛妾か愛人か、良くて側室。それでも今の私には十分な贅沢なのかもしれない。

平民となった私の扱いはそれ以下かもしれない。でも、この国から出れるのであれば、私の今の立ち位置などどうでも良い気もする⋯⋯)



イザベルの思考は昨夜からの疲労で上手く働かないでいる。



静かに窓の外を眺めるイザベルを見て、疲れ果てているであろうと勘違いをしたままクレメンは見守る事にした。


この時にクレメンがイザベルを問い詰めていればすれ違う事もなく、道中も穏やかに過ごせたのかもしれない。


国を出て最初の街に到着した。

この街はエイザエル帝国とアイマー国を結ぶ交易が盛んな街で、とても賑わっていた。


「宿に着いたら街に出てみましょう」


クレメンの誘いに、初めて街歩きをするイザベルは楽しみだと嬉しそうに笑顔を返した。

クレメンはイザベルの笑顔を直視してよろめいた。

騎士や執事は冷徹な皇太子の姿を見てきた。一人の女性の側に寄り添い感情を出す姿を初めて見たのだった。

この令嬢が未来の皇太子妃だと、正しく理解した。


クレメンが「迷子にならないように」

と手を差し出すと、イザベラは一瞬戸惑うも断る不敬は出来ないとおずおずと手を繋いだ。

クレメンは初めての想い人とのデートに浮かれていた。

屋台で串肉を食べ、お菓子を買い小物をイザベルに贈った。

クレメンはイザベルの心の負担にならないように、安価な物を選んで贈った。

贈られたイザベルはお礼をのべるも

(皇太子殿下も息が詰まるのね。街歩きする事が発散する事なのでしょう)とクレメンの思いとは違う解釈をしていた。


イザベルから笑顔でお礼を言われたクレメンは上機嫌になるも、イザベルは街歩きが楽しかったならば良かったと、またすれ違ってしまう。


イザベルにはデートをしていると言う考えはない。街に出たこともデートもした事がないため、クレメントの街歩きが世間のデートの一つだとは気が付いていない。

イザベルの世間知らずが、二人の距離を離していくことになる。



帝国に帰るまで幾日も一緒に過ごしたが、クレメンはイザベルの心を掴む事が出来なかった。

街に数日滞在し、観劇や食事に誘ったりとデートを重ねていた。

デートを重ねていると考えているのはクレメンだけで、イザベルは距離が近くなるクレメンに対して節度ある距離感と会話を心掛けた。


イザベルは少しだけクレメンから距離を置き、クレメンが抱き寄せると体を強張らせる。

クレメンはイザベルの態度に焦りと、小さな怒りを心に浮かべながら帝城へと着いたのだった。




皇城に着きイザベルを馬車から降ろしエスコートするが、やはり少しの距離を取られる。

苛立ちを抑える事に限界を迎えていたクレメンは、イザベルのエスコートする手を離すといきなり抱きかかえた。


「なっ!お、降ろして下さい!」


ジタバタ暴れるイザベルを強く抱きしめ、


「暴れると落ちますよ?」


それだけを伝え、抱きかかえたまま皇帝との謁見に向かう。


イザベルはどこに連れて行かれるのか解らず、オロオロするしかなかった。

まさか着いて早々に皇帝と皇后に謁見するとは思う筈もなかった。


クレメンの進む先を見ていると、豪奢な扉が見えて来た。

その扉には帝国の紋章が大きく刻まれている。


イザベルは顔を青褪めさせながら、「まさか⋯⋯」

ポツリと呟いた。


「そのまさかですよ」


クレメンがイザベルの呟きに答えた。

イザベルがより一層暴れ、逃げようとする。

が、そのような事を許すはずもなく、扉は開きクレメンはイザベルを皇帝と皇后の前に連れて行った。


前を見ると壇上には皇帝と皇后が座り、こちらを見ている。

イザベルは意識を失いそうな程、顔色が悪い。皇帝や皇后に、きちんと礼をとる事も出来ないからだ。


「皇帝陛下、並びに皇后陛下。ただいま戻りました」


クレメンが挨拶をする。

イザベルはどうして良いか解らず、両陛下を顔色悪いまま見つめる事しか出来なかった⋯⋯。


「無事の帰国、喜ばしいが。クレメンよ。抱える令嬢が今にも気を失いそうだが?」


皇帝の言葉にクレメンがイザベルを見ると、顔色がとても白く視線が合わない。


「イザベル嬢。大丈夫ですか?」


クレメンがイザベルの瞳を覗き込むが、焦点が合わない。


ヤバい!


クレメンがそう思った時には遅く、イザベルは自身の不敬と緊張の余り意識を手放した。

クレメンは膝を突き、イザベルの名を何度も呼ぶ。


従者が侍女を連れてきて「令嬢を別室に運び休ませましょう」

そう説明するが、クレメンは誰一人としてイザベルに指一本触れる事を許さずに拒んだ。


「クレメンよ。令嬢を無理矢理連れてきたのですか?」


皇后は側近に指示を出しながら、クレメンに問いかける。


「国に連れ帰る事は伝えています。私の身分も話しました」


息子の答えに皇后は眉を上げた。


(皇帝もクレメンも、急ぐ余り肝心な事を伝えない事が多い。ならば、この令嬢は自分がなぜ私達の前に連れて来られたのか、理解出来ていないのかもしれない⋯⋯)


「令嬢を休ませる為の部屋を用意させました。そこで話を聞きましょう」


皇后の言葉に、謁見の間を出ると別室に向かった。


部屋に皇帝と皇后が入り、ソファーに座る。対面にクレメンが座るが令嬢を抱えたままだ。

膝に乗せたまま、イザベルが寝やすいように体制を変えている⋯⋯。


「ベッドで休ませなさい」


皇后が扇子でベッドを指すが、クレメンはそんな母親を無視しニッコリ微笑んだ。


「はぁー」


皇后がため息を大きく吐く。


「令嬢には何と言って連れて来たのです?きちんと婚約者として、未来の皇太子妃として我が国に来て欲しいと伝えたのですよね?!」


皇后の強い口調に、クレメンがハッとなり自身がイザベルに伝えた言葉を思い出す。


(そのような言葉を伝えていない⋯⋯)


クレメンの様子を見て伝えていないと察した皇后は、


「令嬢の事は、先に来た文にて理解していますよ。王太子妃の教育も終え、王太子の執務までも執り行っていた。ならば、未来の皇后としての資質は十分であり、為人も先程の対面で十分解りました。

挨拶する事も出来ず自身の不敬を恥じ、極度の緊張で倒れたのでしょうね」


皇后の言葉に、クレメンが強張った表情を浮かべる。


「それに、令嬢を見る限り婚約者として来たのではない。と、理解もしました。

きっと彼女はクレメンとの婚約など頭に無かった筈です。

令嬢から断られる事も覚悟なさい!」


皇后の言葉を聞き、イザベルが何故あんなにも道中ずっと距離を取っていたのかを理解した。


「彼女にはきちんと説明します」


クレメンの言葉に皇后は呆れた顔をする。


「私達にきちんと礼をとる事も出来ず、面前で気を失う失態をしてしまった彼女が、クレメン如きの説明で納得するとでも?

彼女は筆頭公爵家の令嬢であり、王太子の婚約者だったのです。誇りを傷付けたお前の説明で納得するのかしらね?!」


皇后の話す内容は最もであり、自身が失態をしてしまった事をクレメンは自覚する。

彼女をこの様な姿にしてしまったのは、クレメンなのだと。

イザベルに対する申し訳なさに、胸が潰れそうだった……。


腕に抱えるイザベルをクレメンは泣きそうな顔で見つめ続ける。


((この令嬢を正しく愛した(のね)か⋯⋯))


皇帝と皇后はクレメンの姿に、本気で彼女を愛しているのだと感じとった。


「クレメンよ。令嬢にきちんと詫び、言葉を惜しまず伝えなさい。わたしも言葉や説明が足りぬと皇后によく叱られるのだよ?」


皇帝は苦笑いでクレメンに伝えた。


「本当にそっくりです事。」


皇后は呆れた顔と声で二人に言葉を放った。


「クレメン。貴方は彼女を愛していますか?」


皇后の問いに、クレメンは深く頷いた。


「彼女を愛しています。出会って間もないのは解っています。ですが、手放したくありません。

彼女の瞳を見た時には、もう彼女に溺れていました。こんな感情は生まれて初めてです。私だけのものであって欲しいと⋯⋯」


クレメンは正直に皇帝と皇后に胸のうちを話した。


「解りました。暫く二人を見守る事にしましょう。彼女には礼を尽くし、正直に気持ちを伝えなさい。彼女はきっとクレメンの気持ちを理解してくれます。

ですが⋯⋯。理解する事と受け入れる事は違う事を覚えおきなさい」


皇后がそれだけ伝えると、皇帝を連れ部屋を出て行った。


皇后はきつい口調で息子を問い詰めてはいたが、イザベルを皇太子妃にするには覚悟を持っているのか、いないのかを確かめなければならなかった。


「皇后よ、辛かったな」


皇帝は皇后の肩を抱き寄せ、皇后の行いを労った。


「クレメンがようやく見付けた最愛です。クレメン自身の失態で失わせるわけにはいきませんから」


皇后は皇帝に甘えるように寄り添い、ゆっくりと回廊を歩いて行った。




皇后に叱責されたクレメンは、自身の失態に地に埋まる程に落ち込んでいた。


(受け入れてもらえるまで、気持ちを伝え続けよう⋯⋯)


クレメンは腕の中で眠るイザベルを暫く眺めると、ベッドに運び眠らせた。


気を失い眠るイザベルは、目覚めて早々にクレメンから謝罪をされ沢山の愛の言葉を伝えられる事をまだ知らない⋯⋯。



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