棚の後ろで
本来なら気づかなかったのだが、セイラにとって良く知った声だったからだ。
そう、セイラの婚約者。
ケインの声。
声は一人だけではなかった。
女性の声が二人。
セイラはその場に立ちすくむしかなかった。
気づかれたくない。
不思議な事に、セイラの背を隠すように棚が出来た。
店主は店の中をコントロール出来る。
客は予約制。
だから、これは、店主の采配ということになる。
じっと堪えているセイラの耳に、ケインと女性二人の会話が入ってきた。
ちょうど真後ろに出来た棚を見ているようだ。
セイラにしてみれば後ろから声をかけられているのと同じような状況だ。
女性達はケインをチヤホヤと褒め。
ケインも女性達に甘い言葉をかける。
そのまま三人はアクセサリーを見て、楽しそうな会話をしている。
楽しそうな会話は何ともいえない方向に進む。
美しく派手なアクセサリは二人に似合う。
あの地味な婚約者は足らない。
こき下ろされていると言うのに、ケインは特に庇う様子もなく、なんなら同調までしている。
セイラは情け無い気持ちになった。
落ち込むセイラに対して、ケインは得意げな声で二人に髪飾りを買ってやると言った。
セイラの横にある姿見にその光景が映される。
さっき、セイラが買おうと思って躊躇した派手やかな髪飾り。
陳列棚がカウンターに変わった。
その上に代金を置くと、煙を立てて釣り銭が現れる。
髪飾りもポンっと音をたてて袋の中に収められていた。
三人が出て行って、セイラの後ろの棚は消えた。
振り替えると、セイラがさっき読んでいた新刊が一冊、宙に浮かんでいる。
それがポンと煙を立て袋に包まれた状態になっている。
メッセージカードが一枚。
「こちらの不手際のお詫びです。」
それと、次回の予約券が入っていた。
予約券は、『お客様の望まれた時』と書かれている。
過度のサービスだ。
でも、もう今日は欲しいものはない。
セイラは店から出た。




