4、酷くなる婚約者
自分に相応しい女性は華やかな、誰からも認められる女性でないといけないと言い出した。
セイラは最初は笑って聞き流していたのだが、段々、できなくなっていく。
ケインは任務で褒賞が出る旅に、セイラに様々なものをプレゼントしてくれるようになった。
ただし、セイラの好みではないものを。
セイラとしては困ってしまうだけだ。
なのに、ケインは自分に合わせるのが当然とばかりに、身につけないセイラを責めた。
更に困ったことに、それに同調する人も現れた。
ケインの取り巻きだ。
人気者のケインの周りには女性が群がっていた。
熱量の激しい人たちもいた。
中には、攻撃的な人も。
彼女達は、セイラがケインに相応しくないと非難してくるようになったのだ。
それをケインは諫めない。
言われても仕方が無いとセイラを責める。
ケインに相応しくないから、皆が注意してくれているんだ。
ありがたいと思わないと。
なんて言ってくる。
ケインの両親も同調してくる始末。
二つ年上だしね。
他に嫁ぎ先もないし、行き先がないのだから。
こんな事言いたくないけど、共同事業の収益分配もそちらが多めに受け取っているのだから。
その分、あなたが労働で支えてくれないと。
いずれ、あなたの家になる訳だし。
なんて言ってきたのだ。
ケインの両親は、かつてはセイラに優しかった。
気遣ってくれた。
幼い頃はセイラに婚約を解消されては困る気持ちがあったのだろう。
そんな打算のあるケインの両親に対して、セイラは、ただ小さい子供が独りぼっちで病気に耐えているのをかわいそうに思ったのだ。
それで出来ることをしてあげようと思っただけだったのだ。
その気持ちを利用したあげくに立場が変われば冷たくされる。
今となっては、子供の頃に結んだ婚約の条件書まで見直さなくてはなんて言ってくる。
そもそもセイラとの婚約時にセイラの家に有利な条件を提示してきたのはレグナート家のほうなのに。
でも今は、ケインの方がもっと条件の良いお嬢さんを選べる立場になった。
逆にセイラは婚約を破棄されたら困るようになった。
今更、婚約破棄・・・解消だったとしても、されてしまえばセイラに何か痂皮があると思われる。
既に一緒に暮らしているという事実もある。
そんな娘が婚約解消されて、新しい相手が現れるとは当然思えない。
セイラの両親もそれをわかっているのだろう。
セイラに、言うことを聞けと言うばかりだ。
セイラは、自分の好まない色味のドレスを選び、アクセサリー、化粧をし、そして差し入れをしたりして過ごす羽目になった。
だからと言って、努力を認められる訳ではない。
何をしても文句を言われるのだ。
恐らく、不満の捌け口にされているのではないだろうか。
と、セイラは思う。
思い出されたことを振り払うように軽く首を振る。
乱れた髪を直そうと目を開け、また鏡が目に入った。
再び、鏡が目に入る。
また映った自分と対峙する。
冷静になって見ると、似合わないドレスを着て、厚化粧をした自分がいた。
頑張ってはいるが、無理をしているのが良くわかる。
恥ずかしい。
思わず口から漏れた言葉。
そう、自分は今、恥ずかしい。
全然、自分に合っていない。
気づくと目の前から派手な装飾品は消え、曾てセイラが好んで着ていた淡い色のドレス。
シンプルで上品な髪飾り。
そして、セイラが読みたかった本の新刊が現れた。
思わず、本を手に取り、ページをめくる。
立ち読みなんてはしたない。
そんな気持ちも少しよぎった。
けれどもセイラの手は止まらなかった。
一ページ。
一ページだけ。
いえ、この段落だけ。
あと、もう一行。
そんな風に欲が出てしまって、予約の時間が過ぎているのに気づかなかったセイラは背後から別の客の声がして我に返った。




