昔話
しばらくアステルに引っ張られるままにセイラは走った。
「何処まで、走るの。」
曲がりなりにもセイラは令嬢でアル。
あまり走り続ける事はできない。
「あ、すまない。」
アステルは急に立ち止まるの。
更にはパッと手を離した。
バランスを崩すセイラ。
アステルは慌ててセイラを支えて、体に触れている事に気づいて、またパッと手を離した。
気まずい空気が流れる。
セイラはおずおずと
「あの・・・ありがとう。」
と、礼を言った。
実態アステルを見つめていると
長い前髪に隠れた顔でも、焦った表情。
特に両目が落ち尽きなく動いているのがわかる。
天才と呼ばれていた彼。
ケインと同じ年でありながら優秀すぎて飛び級していた。
コミュ障で、口が悪くて皆に敬遠されていた。
でも、その分、男性クラスで浮いていたセイラと組む事が多くて。
ぶっきらぼうでも、やるべきことはやる姿勢を見せてくれた彼にセイラは助けられていたのだ。
「店主・・・。あなただったのね。やっぱり。」
「いや、ちが・・。」
今更、否定しようとする彼がおかしくてセイラは笑った。
「だって、字があなたの字だったもの。」
気づいていたとセイラは告げる。
「うそだ!字は変えていた!」
アステルはハッとした顔をする。
「そうそう。字を変えた時のあなたの字。」
セイラの言葉に、アステルはあからさまに顔を顰める。
「・・・そんな、くだらないこと。良く覚えてたな。」
ボソッ。
呟くのも相変わらず。
「覚えているわよ。」
フフフ。
セイラは笑った。
「だって、あなた。魔術理論のレポート。」
フフッとセイラの思い出し笑いが止まらない。
心当たりがあるのか、アステルは
「うるさいな!」
と、怒る。
「仕方ないじゃないか!」
「そうね。仕方ないわね。研究資金が必要だったんだものね。」
かつてアステルはレポートを書くバイトをしていた。
正規のバイトでは無い。
「人助けだったんだ。」
「でも、結局は皆でペナルティ受けちゃったのよね。」
落第寸前のお坊ちゃんから、謝礼を受け取って、しかもその人っぽい感じに少しレベルを落とした内容で、レポートを仕上げていた。
ご丁寧に文字まで変えて。
「わざと誤字脱字したりして、教授に無駄に芸が細かいって・・・。ふふふふっ。その頃から観察力があったわよね。」
「笑いすぎだ。」
アステルの言葉にもセイラの笑いは止まらない。
「結局、レポートからあなたの魔術痕が漏れて、無駄になっちゃったわね。」
最初は上手に誤魔化していたが数が増えると少し粗が出てしまったのだ。
逆に、途中までバレなかったのが凄い。
「本当に、余計なことを覚えている。」
アステルの顔は前髪で隠れている。
なのに思いっきりしかめ面になっているだろう事がセイラには良く分かった。




