第五話:お隣の同級生と読書タイム。
◇校門直前◇
白雪さんが「教えません!」と上機嫌に言い、数分歩いた後……。
過去一天使な彼女を見た僕の心臓。バクバクで死にそうです……。
あんな短い登校時間の間でもこんなに天使なのか。この子は……。
「あ、そういえば先生」と思い出したように言う彼女。
「何?」
「……。私、学校だと恐らく冷徹モードが発動することが有ると思うので、私のことを嫌いにならないでくださいね……?」
なるわけないだろう。嫌いになる方法が分からない。いきなり顔面殴られて財布を盗まれたとしても許してしまう自信がある。
でも冷徹モードってなんだ?
「ああ。あのなんていうか……。何者も寄せ付けない壁を発動するスキルのことだね」
「なんでちょっと私の特殊技能風に言うんですか」
彼女がくすりと笑うと、僕の自尊心が満たされる。
「まあ把握した。取り敢えず教室まで行こうか」
「はーい」
学校に近づけば近づくほど周りの目線が痛い……。分かるよ。君たちの言いたいこと。
——なんでお前なんかが白雪さんと一緒に登校してんだ……!?——
でしょ? はあ。こまったこまった。
そんな僕を見た白雪さんが、僕に耳打ちをしてくる。
「ねね。先生。気にしないでくださいね。周りのことなんか気にせず、楽しい話をしましょう。」
校門を通り過ぎた段階で彼女からの可愛い提案。
「……こんな刺すような視線を感じながら、何の話をすれば良いの?」
「ふっふっふ……。それはズバリ」
……ズバリ……!?
「読書タイムに読む本の話です!」
「……読書タイムに読む本の話だって……!?」
うちの高校では実施されている、読書タイム。長文読解力の育成とかが理由らしい。
「……私、好きな本の話を友達としたかったんです……! やっとその憧れが叶います!」
「……同意です!」
カフェのときはマニアックな話とか、星乞食とかの話に終始してたからな。これはまた別のウキウキだ。
二人で顔を見合わせた後、少し小走りになる。早く教室に行きたい。後そもそもそんなに時間がない。
学校の玄関を通り過ぎる。階段を上り、四階の自分たちの教室に着く。
周りがざわつくがそんな事は関係ない。誰がいようとも、教室の最後列、窓際とその隣の二席は僕たちだけの世界だ。
座り、さっと机を寄せ合い、鞄をガバっと開いて本を取り出す。
先手は白雪さん。
これはまたいたずらっ子な表情だ。早く見せたくて仕方がないらしい。
「白雪さんは何を読む予定なの?」
「私はですね……。こちらです!」
『誰が勇者を殺したんや』
「だれゆうだ!」
「そうです!」
関西人のおっさん勇者が主人公の物語。インタビュー形式で徐々に明かされていく真実を追う、なろうっぽくない名作。でもとっても読みやすい。
「いやー。インタビュー形式の作品って外れがほんっとうに無いよね!」
「そうですね! しかも、全編が関西弁だから、ヤクザの尋問みたいでとっても凄みがあって……。迫力満点です!」
「あとさー。この作品って表紙がエモーショナルだから、学校に持っていっても恥ずかしくないんだよねー」
「分かります……! それもあってだれゆうにしたんです!」
語るとキリがない。令和の名作です。
「では……。あ、どうしよう」と、白雪さん。
「何? なんかあったの?」
「あ、あの……。学校では流石に高槻君って呼んだほうが良いでしょうか?」
いやむしろずっとそう呼んでほしいんだが。
まあでも彼女が僕のことを先生と呼びたいのならそれでいいし、高槻君って呼びたいならそれでも構わない。
「うん。じゃあそれでお願い! ありがとう。配慮してくれて」
「いえいえ! ただでさえ高槻せ……じゃない。高槻君が注目を浴びているのに……先生なんて私が呼んだら、私達の関係性が訳分からない方向に解釈されますからね」
そうだね……。注目は浴びてるよね……。殺意も一緒にね……。
「じゃあそれはさておいて。僕のターンだね!」
「はい!」
「じゃあ僕が最近読んでいるのは……」
『クラスで2番目に可愛い女の子の内臓と僕の内臓を毎日交換することになった』
「くらにかですね!」
「そう!」
この話はクラスで一番可愛い女の子の心臓を教壇に捧げた後、巻き起こった謎の呪いによって、主人公と二番目の女の子の内臓を毎日交換することになった、青春ラブコメディだ。
全世界で三千万部も売れた、日本のスタンダードラブコメディの座に君臨した令和の覇権と言っても過言ではないだろう。
「二番目だからこその甘酸っぱさがあるんだよ……。この作品には……」
「そうですよね……。一番目じゃ、駄目なんです。二番目の子の内臓だから良いんです!」
「だれゆうにも言えることだけど……。タイトルがもう素晴らしい! どんな話か期待して読むのに! 期待以上に面白い!」
「そうなんですよ! 二番目とは? と思い読むと刷り込まれる、二番目という言葉に含まれるニュアンスの多さ……。なんとなく健気、姉御肌っぽい……。そんな言葉にできないイメージを体現してくれています!」
ちゃんとアニメ化もされており、内臓の交換シーンがやけにリアルで死ぬほど評判が良かった。
と、ここで白雪さんに一つの疑問。
「あの、くらにかの表紙って、クール系美女とは言え、一応は可愛すぎる女の子の表紙じゃないですか。学校には持って行きづらくはないですか?」
「うん。そうだけど? なにか問題でも」
「……『なにか問題でも』……?」
「あのね……。なあんにも分かってないね。白雪さんは。いい……?」
「……はい」
「僕はもう既に、可愛い二次元の女の子が好きな限界オタクとして、周囲に認知されているからなんの問題もないのさ!」
「……つまり開き直っているんですね」
「そういう事!」
涙が止まらない。僕はクラスで二番どころか一番キモいオタクとして、この学校に君臨している事実を白状しなければならないことが、とても苦しい。
チャイムの音が鳴り響く。一旦席を離す。
お互いのページを捲る音が開始する。
ちらと白雪さんの方を見る。
あの感じだと……。160ページ目くらいか。
関西人のおっさんが飲んだくれて『おれが……。俺が勇者をやったんや……』って白状するシーンかな。その後の展開も良いんだよ。
僧侶が『いやあんたいい加減に法螺吹くのやめんさい!』っていうシーン……。その後二人は熱いキスをするんだ……。
今度は彼女が僕の方を見て、微笑む。
僕は現在……。二人が内臓を交換し終えた後の水着回を見ています……。なんて恥ずかしくて伝えられない……。ちょっとエッチなイラストもあるし。ブリブリに血に塗れてるけど。
ダメダ集中集中……。読書に集中しなきゃ……。
それにこれは執筆の一環だ。面白い作品を読んで、勉強するんだ。
ページをつまむ、捲る、次のシーンは海の上、二人は水着を着て、ふたりして浮き輪にプカプカ運ばれて。そして主人公がヒロインの内臓を摘んで
『ぼくにとっては、君が一番可愛いです!』
と言い切るシーン。
……。やっぱり重ねちゃうよなー。このヒロインと、白雪さん。
学校で魅せる一面と二人でいる時のギャップの違いとか、とっても似ている。
そしてもう一つ。
クラスで一番可愛いと、主人公が思っているところも一緒。
「……早く学校終わらないかな」
とぼそっと呟く僕だった。
読書タイムは村上春樹 キノの旅 イキってドストエフスキーを読んでたり。




