第四話:お隣の同級生と初登校
◇次の日の朝◇
いつもの目覚ましではなく、着信音で目が覚める珍しい朝。
「……なんだよー……。誰が僕なんかに電話を……って! 白雪さん!?」
朝、一番から白雪さんが鳴らした着信音で目覚める!? 幸福の鐘の音じゃん!
「もしもし! おはようございます! 高槻です!」
『先生! 白雪です! ごめんなさい、寝てましたか?』
「寝てたけど……。いいんだよ。どうしたの?」
『あの、もしよかったら一緒に登校しませんか?』
一 緒 に 登 校 !
なんて甘美な響なんだ。しかもお隣さんと。こんなもの、返答は決まってる!
「はい! ぜひお願いします!」
『……よかったー。』
「よかった? 何が?」
『……断られたらどうしようかなって。ドキドキしながら電話しました』
そんな事するわけ無いのに……。やっぱりちょっと自己評価が低いよな。
「断るわけないよ! じゃあ8時でいい!?」
『はい! 私も準備してきます!』
◇ノックの音◇
コンコンっと彼女の知らせが扉の向こうから。
ガチャリと扉を開ける。
制服姿の白雪さんだ。
(……何着ても尊い……)
「あ、えーっと」「うう……えーっと」
「「おはようございます」」
二人同時に戸惑って、二人同時にペコリと挨拶をする。そして二人同時に顔を上げて「なんか変だね。」「そうですね」と笑い合う。
(……これからは独りじゃなくて良いんだな……)
そんな幸福を実感させられる。
「高槻先生、おまたせしました。」
「うん、じゃあ行こう」
◇通学路◇
「先生、先生」
「ん? なあに?」
「そう言えば、先生のご家庭って門限等は厳しくないのでしょうか?」
「いや。そもそも僕のお母さんは単身赴任で、お父さんはもう亡くなってるんだ」
「……ごめんなさい」
朝に言うことではなかったかも。気を遣わせちゃったな。
「いやいや、気にしないで気にしないで。お母さんが頑張って働いてくれてるから、なんの問題もなく生活できてるし。たまにお母さんが帰ってきてくれるしね。白雪さんは?」
そう言えば彼女の家からはご両親を見かけたことはない。なんでだろう。
「私の両親は海外を拠点に働いています。豪州で」
「……それも結構珍しいよね。二人ともだなんて」
「……二人にも事情があるんです。」
彼女はオーストラリア人と日本人のハーフ。多国籍文化の国ならではのあるあるなのかも知れない。
「そうですね。生活は勿論出来るのですが……。やっぱりどうしても独りだとちょっとさみしかったり……」
物憂げな表情で、寂しさを隠そうとしているけれど。両親が恋しいんだな。
「僕も似たような環境だから分かる。それで最初、僕は独りで寂しくてどうしようもなくて、ネットの海を彷徨っていたらなろうとカクヨムに出会ったんだ」
「では、そこから執筆活動を開始されたんですか?」
「ううん、最初はロム専。そこから段々自分でも書いてみたいな―ってことで書き始めた。」
そうだそうだ。死んでも、異世界っていうのがあれば怖くない。なんてことも考えてたっけ。割と危ない考えだよね。これ。
「白雪さんはなんで書き始めたの?」
横目で見えた彼女の表情は、ちょっといたずらっ子な笑みを、僕に向かって見せびらかす。
「……なんでだと思います?」
「……え? それって当てられる問題?」
「はい。難易度はそんなに高くはないと思います」
……。なんだろう。
「僕と同じ理由だから? とか?」
「ぶー。違います」
彼女のニヤニヤは止まらない。
「じゃあ……。自身の書き手の才能に生まれながらに気づいていた?」
僕はもう知っているけど。僕とは比べ物にならないくらいに輝いている君の才能に。
「なんですかその自惚れすぎた理由……。違いますよー。私を何だと思ってるんですか。」
「あはは。ごめんごめん。でも本当にわかんないや。なんで?」
「……はあ。なら保留です。また時が来たら教えてあげます」
「えー! 殺生な!」
「……逆になんで分からないんですか……」
そんな悪態を付いている間も、彼女はニヤニヤを隠さないでいた。
◆白雪さん目線◆
「えー! 殺生な!」
「……逆になんで分からないんですか……」
本当になんで分かってくれないんでしょうか……。こんなこと、女の子から言わせたら駄目ですよ……?
ヒントはあなたの処女作です。
それはあなたが『†沈む月クロノス・アルテミス†』を名乗っていた、痛々しくも今よりさらに青々しい中学生時代の物語。
誰が見ても分かる、拙い文章で書かれたそのお話には、孤独な男の子と女の子が主人公のバディ物でした。
あなたは難しい構成を選んでいましたが、二人の視点が交互に描かれた作品は、二人のそれぞれの孤独から来る苦しみを、辛くも描ききっていました。
そんなあなたの作品に、影響されて、私は小説を書き始めたのです。
「……白雪さん。お願いだから答えを教えて……!」
両手をあわせて拝む高槻くん。
二人でいる時だけは、人見知りの仮面が剥がれる。
わたしの心の壁を暖かく溶かしてくれる。ただの同い年の男の子。
今思うと、その男の子はあなたに似ていて優しい口調で、女の子はなんとなーく、私と同じ種類の苦悩を抱えているように思えます。それは偶然なんでしょうか。それとも運命なんでしょうか。
「高槻先生?」
「教えてくれるの? 白雪さん?」
私は立ち止まります。あなたもそれに気づいて立ち止まります。
私はあなたの顔をじーっと、勇気を出して見つめてみます。
あなたは赤面し、顔をそらします。恐らく、私もあなたと同じ色彩を帯びて顔色を紅く染めます。
あなたは「……なに? 教えてくれるんじゃないの?」と、かろうじて返事をします。
教えてあげるわけではありません。いつか、あなたがフッと「あ、あのことだ」って一人で思い当たる時を、私は楽しみにしたい。
なので、結局私は、あなたに少しだけ顔を近づけて、精一杯の笑顔を見せながら
「教えません!」
と、いたずらっ子のように秘匿しました。




