第三話:カフェ回・お隣の同級生となろうあるある『コメント』について語る
◇切り合いの後◇
お互いの黒歴史を晒しあった後、僕たちはちょっと深い創作論を語り合った。そして次の話題へ。
「ところで白雪さん」
「なんでしょう?」
もう、先程あった緊張感は一ミリもない。お互いになんの障害もなしにスムーズに会話が進む予感。
「たぶん、書籍化を狙っているよね?」
「はい! 勿論です! 先生もですよね?」
瞳がキラキラ。目が綺麗過ぎる。
——一息するのも少し飽きたから、呼吸をする代わりにいつまでも見つめていたい。
「……先生……?」
「……なんでもないです……」
取り敢えず質問に応えよう。
「うん。僕も書籍化を狙っているよ。できればファンタジー系で」
「なら先生……。読み合いってどう思いますか……?」
読み合いとは、作者がお互いの作品を読み合うこと。なんだけど……。
「白雪さんの言う読み合いって、『その後ポイントを入れ合う前提の、作者同士の交流のこと』だよね?」
「はい……。そのとおりです。普通の読み合いに関してではありません。」
書籍化される条件は勿論わからない。なので、作者同士グループを作り、取り敢えず高ポイントを得て、ランキングに載る。ランキングに乗ると、出版社の人間に発見されやすくなる。
だからこういった方法を取るユーザーが後を絶たない。
「私は以前、そういったポイント互助会にもなんとなく参加していたのですが。正直気疲れしてしまって……」
「……分かる!」
「分かってくれますか?!」
「うん! 僕も苦手……。正直、それって正当な評価ではないと思っているんだ。だから、今は普通に読んで楽しんでるだけにしてる。」
白雪さんは、僕の作品だからって脳死でポイントを入れない。彼女は僕のファンである以前に、一人の読者だから。面白かったら入れてくれる。それだけだ。
僕も少しだけ熱が入り、語る口を止められなくなる。
「ただの読み合いの文化は素晴らしいと思う。作者同士の交流って意味でも。」
「私もそう思います。実際に私達は交流をしていますし」
と言う白雪さんの言葉は力強い。そのまま言葉を紡ぐ。
「それより、私が本当に嫌悪しているものはそれではなくて……。恐らく、その評価ポイントが欲しいと思うあまりに出てしまった行動だと思うのですが……。」
「うん」
「長文のコメントが来て嬉しいなーと思ったら、最後の一文に
『もしよろしければ、お時間のある時にでもご一読いただき、星やレビューなどで応援していただけますと今後の執筆の励みになります! お互い頑張りましょう!』
とかって書いてあったりするじゃないですか?」
「あるね」
「……それを見ると、純粋に楽しんでくれてた訳じゃなかったんだねって……。悲しくなるんです……」
白雪さんの本当に悲しそうな表情。わかる。あれは本当に白雪さんのような真摯に作品に向き合っているような作者を馬鹿にしている。あんな事、真剣に書いている人は望んでいないんだ。
「分かる! あれ構成がすっごい、いやらしくてさ……、前後半で分けるとね」
「ふむふむ……。」
・前半部分
「他の作品にも使い回せるような『どの作品にでも当てはまる当たり障りのないテンプレ長文(例:世界観がすごい、キャラが魅力的など)』を褒めがち」
・後半部分はさっきのこれ。『もしよろしければ~~』
「な、なるほど……。前半で応援コメントとして擬態、後半に乞食をすると……」
「そうそう。最近はAIを使って、代わりに褒める文章を作ってもらうんだって。」
白雪さんが首を傾げる。
「そこまでして星がほしいのであれば、もう自分の作品のためにこっそりAIを使ったほうが良いのでは? だって書籍化がしたくて、ポイントという名の☆を集めてるんですよね? 手段と目的がごっちゃになっています。乞食魂がすごいですね……」
彼女の選ぶ言葉はいちいち面白い。乞食魂って。意外と結構辛辣なのでは?
「う、うん確かにね。乞食って面白いね……。今度から彼らの事を『星乞食』と呼ぼう」
星乞食。この単語を聞いた白雪さんが突然笑い出す。
「ほ、星乞食……。あははは! あ、ごめんなさい……。大きい声で笑っちゃって……」
「ああ、全然気にしないで……。そんな風に笑うんだね。白雪さんは」
「えー……だって……。必死に星を拾い集める妖怪を想像したらとっても健気で面白くって……」
「……羅生門の老婆みたいに『この星を集めてな、書籍化を狙うんじゃ……』みたいな?」
「そ、それ止めてください……、死んじゃう……」
いや大爆笑だな。お腹を抱えて涙まで垂らして。
死にそうじゃん。こんなに自尊心が満たされる殺害方法ってある?
「……。結構笑い上戸なんだね……」
彼女が死の淵から生還し、涙目でこちらにスンッと向く。表情がコロッコロ変わるな。
「……変でした……?」
「う、ううん! 全然変じゃないよ! むしろ……。」
「寧ろ……?」
「むしろ……。なんでも無いです」
我ながら男らしくないな。言い切ることもできず、頬が熱を感じながら下を向く僕。ダサ過ぎる。
そんな僕を見た彼女がちょんちょんと指先で、僕の頭を突く。
「……『むしろ』まで言ったのなら、もう続く言葉は決まってますよ。高槻先生」
顔を上げると満面の、にへらと微笑む白雪さんがいた。
これみよがしに見せつける彼女の笑顔は、僕の考えを見透かしている証明らしい。
「むしろ……なんですか?」と尋問する彼女。
「むしろ……。良かったです……。はい」と白状する僕。
「えへへ……。素直に嬉しいです……。先生」と笑う彼女。
白雪さんとここまで仲良くなれたのは、意外と星乞食達のおかげだったのかもしれない。そう考えると彼らの存在もありがたいな。
◇カフェの閉店時間◇
おっと。もうこんな時間か。そろそろ帰らなければ。
「ドリンク三杯も飲んじゃった。カフェで千円も使うなんて、高校生にとっては痛手だよ」
なんて言いながら、カフェの外に出る。
「そうですね。ならいつか、私のお部屋か、先生のお部屋で一緒に作業をしても良いかも知れませんね」
「え! いいの!?」
彼女がじろりと僕を見る。でも全く怖くはない。可愛い。
「先生……。変なこと考えてないですよね……?」
「変なことは考えてないけど……、やっぱり嬉しかったんだよ。こんな素敵な創作仲間ができて」
「……。先生は正直者なんですね」
ちょっとだけ下を向いて微笑む白雪さん。何をしても絵になるんだな。この子は。
「でも良かったです……。同じ学校の、まさか隣の高槻君が『ドラセナ』先生だったなんて」
「うん……。僕もとっても嬉しい。Waさんがまさか、白雪さんで良かった」
「あ、あの。高槻先生?」
「……?」
駅の方向に進んでいく僕たちだったが、彼女は唐突に立ち止まる。
数秒後、意を決したように僕の肩を掴む。
「せ、先生!」
「な、なんでしょう!?」
「ま、また会ってくれますか……?」
「……はい……。」
——勿論です……!——
欲を出すな。僕。本当は『はいいいいい! 勿論ですうううう!』って気持ちだけど。これは絶対におくびにも出しちゃいけない。引かれる。間違いなく。
それにしても。
「ま、また会ってくれますか……?」だなんて……。
さっきお部屋で作業する話もしたのに。不思議だな。
もしかしたら、彼女は自己評価が低いのかもしれない。たとえ容姿が良くても、勉強ができても、それは彼女を形容しない。
書いた小説がモノにならない限り、彼女の渇望が満たされることは無いんだ。
なら僕だけでも、彼女を内から、そして外からも肯定しよう。
「し、白雪さん!」
「は、はい! な、何でしょう……?」
「絶対にまた会いましょう!」
「はい! ぜひお願いします!」
初めての創作仲間が出来た。これから、一人で悩まなくても良いんだ。
なにか思いついたら共有して、なにか嫌なことがあったら慰め合う。
こんなに素敵な女の子となんて。罰が当たりそうなくらい幸せだ。
彼女がスッとスマフォを出す。コレは……。インスタのID交換の流れだ……。
と思いきや。シンプルなメッセンジャーアプリを開く彼女。
「では先生。idを交換しましょう」
「うん! あれ? インスタとかは?」
「あー。私、SNSはやらないって決めてるんです。人付き合いも得意ではないですし。それに執筆に集中したいので」
「ストイックなんだね……」
「これくらい当然です!」
彼女の熱量が伝わってくる。僕も頑張らなきゃな。
スマホを取り出し、お互いのQRコードを読み取る。
こうして、連絡先を交換した。初めてだ。女の子との連絡先。
「こういうのって、メッセージを送らないと駄目なんでしたっけ……?」
「うん……。多分? じゃあ……」
「あ、私もう送ってますよ。」
ピロン♪
「本当だ……。可愛いスタンプだね」
「……私だって、可愛いものが好きなんですから」
可愛いスタンプ、とともに彼女のメッセージ。
『先生の言葉でスカッとしました。(o゜Д゜)=◯)`3゜)∵ 星乞食☆ ありがとうございました』
僕も返信をする。直接伝えればいいのにね。
『こちらこそありがとうございました。最後に。僕はあなたの純粋な読者であり、ファンです。一緒に書籍化目指して頑張りましょう』
ピロン♪ と音が鳴る。彼女が僕のメッセージを読む。彼女が僕を無言で見つめる。
「一緒に頑張りましょう♪ 先生♪」
この後僕らは改札をくぐり、電車に揺られ、一緒の家路につく。
これからは二人いっしょの家路に。
◇玄関前◇
二人で並んでお互いの家の扉を開ける。
「高槻先生……」
「白雪さん……」
「「じゃあね。また明日」」
彼女が扉の向こうに一歩踏み出して、扉が閉まる直前。少しだけ覗いた顔が、こちらを向いて、微笑んでいた。
小さく手を振りながら。
パタンと扉が閉まる。はあ……。
可愛い……。
そんなのずるいだろ。最後まで僕の姿を視界に入れたかったのかな。それとも警戒心? まあなんで僕も突っ立ってんだって話だよね。
今日は本当に楽しかった。でも一つだけ心残りがある。でも、それはいずれ叶える、僕のもう一つの目標。
「いつか彼女の、敬語以外の言葉遣いが聞きたいな」
そんな日は来るんだろうか。もうこの関係ってだけで、僕は満足するべきなのかな。
この後僕はいつものルーティーンを独りで過ごす。だけど。
ご飯が喉を通らなかった。
執筆も捗らなかった。でも幸せだった。
彼女の笑顔と作品を脳裏に浮かべて、僕は眠った。
コメントには救われがちなんですけどね。ふふふ……




