第十七話:【転】暴走する高槻くん
◇高槻紡くん目線
「泣いてません……。泣いてなんていないですから……」
「ご、ごめん! ど、どうしたの?」
取り敢えず僕は、鞄に入れていたタオルを取り出して詩歩さんに渡す。
「ねえ……。詩歩さん? もしかして何かあった?」
彼女は嗚咽混じりに涙を流す。何か言おうとしていることは分かるけど、聞き取ることが出来ない。
コレが数分続く。その後彼女が「……落ち着きたいので、帰りましょう」
と、腫れた目のことも気にせず提案する。
◇二人の家の前
お互いが、お互いの家の前の扉の前に立つ。
「詩歩さん……。今日は多分、一人になりたいよね……?」
すると彼女がまた泣き出しそうな顔。
「……はい! 今日は執筆をしなければ! だって昨日なんて一文字も書いていません!」
「……たしかに!」
「では。また明日」
「う、うん。また明日」
ガチャンと強い音が響く。彼女は手を振ってはくれなかった。
あれ……? 怒ってるよね……?
僕……。何をやらかしたんだ……!?
いやそんなことはないだろう! と自分を納得させる。
取り敢えず家に帰る。昨日は彼女と一緒に食べたご飯を今日は一人で食べる。
ぼーっと魂が抜けた状態のまま、僕はスマホ片手になろうのページを開く。
なんとなく、詩歩さんが今まで投稿してきた作品を眺める。
「……やっぱり良いよな。彼女の作品。」
自然と焦りが出てくる。僕は、彼女のことが好きなのだ。
そして今日は慎重に行き過ぎてしまった。
その割に彼女の様子はおかしかった。
あれは、もしかしたら彼女なりのシグナルだったのかも知れない。
——告白してください。紡くん。
っていう。
「……どうしよう。これ。恋心っていつまで続くんだろう……?」
僕の恋心は別にいい。どうせヨボヨボになっても続く。
これは仮定だけど。仮定だけど。彼女が僕のことが好きだと仮定したうえで。
彼女の恋心は? いつまで続いてくれる?
僕より背が高くてイケメンで、めっちゃ書籍化してるやつとかと彼女が知り合ったら?
『俺様のプロットの筋書きはこうだ。【起】お前と出会う。【承】お前のことを知る。【転】二人に苦難が訪れる』
『……教えてください……。あなたの結びを』
『【結】……。最後に二人は【結】ばれる……』
『素敵! 抱いてください!』
「絶対嫌だ! こんなの!」
何? この人いきなり登場してきて『最後に二人は【結】ばれる……』?
図々しいにも程があるよ!
大体セリフがクサすぎるんだよ!
下痢か!?
そんな事リアルで言う人居る!?
いやでもめっちゃセンスいいなこいつ! 僕も言おうかな!?
序破急で! 『僕と【急】いで付き合ってください!』って!
「はあ……。はあ……。はあ……」
一旦保留だ。まず先に分析をしよう。
まず、思い切って、彼女が僕のことを好きだと断定しよう。
一つ、把握すべきことがある。
その『好きって気持ち』って、いつまで続くんだろう?
調べてみよう。
ここはもう、AIに聞いちゃえ。
「恋心っていつまで続くの?」
『恋心のドキドキや情熱的な持続期間は、脳科学的に約3年です』
へー。じゃあ猶予があるんだな。
だからって引き伸ばしにするのってどうなんだ?
告白って早いほうが良いのかな?
……これも聞いちゃえ!
「お互いが好きあっていると仮定した場合、告白って早いほうが良いの? 僕じゃなくて友人の話なんだけどさ。」
いや本当はめっちゃ僕のことだけど。なんか小っ恥ずかしいんだよ。生きている人に聞いているみたいで。
即座に生成。前置きに『ご友人のことなんですね!』とある。
AIって良いやつだよな。普通に。AI自体は。
『最も成功率が高いのは、知り合ってから3ヶ月以内です。』
『逆に1年以上経過すると、成功率はガクンと下がります。』
『長引くと関係が「安定した友人」として固定され、恋愛対象としてのドキドキ感が薄れてしまうためです。』
『それに、外的要因として、ご友人の好きな人にライバルが現れる可能性もあります。そのライバルに心を奪われる可能性を考慮すると、今のうちに告白をしたほうが良いよ、とアドバイスをしてあげることをおすすめします』
ふーん。なら早ければ早いほど良いんだね。把握した。
ならばやることは一つ……。
告白までのプロット作成だ!
◇
さあ。起承転迄は整った。後は、最後の結。
告白の言葉だ。
コレはどうだろう
『君を、額縁に飾りたい。そして僕のモナリザになってくれ』
いやいや。臭すぎだろ。うんちか?
なんていうか、これって僕っぽくないんだよな。貴族の末裔とかが言って初めて成立することじゃない?
つまり僕にふさわしくない。却下。
僕……。僕っぽいと言ったら本とかかな……? 本ぽい告白。
そこで僕は思い出したように、詩歩さんの作品をもう一度読み返す。
そういえばあっただろ!
告白のシーン!
取り敢えず必死でスクロール。
これだ! 二つとも見つけたぞ!
『君という本の1ページに成りたい。僕の栞になってくれ』
『俺が一ページ目なら、お前は二ページ目だ。いつまでも一緒にいよう』
僕は思考する。なるほどね。理解理解。
——コレは彼女の願望だ……!——
つまり彼女はこんな感じで、本に例えて告白されたいってことだ! そうに違いない!
だから、コレを僕なりに煮詰めれば良い。
◇数分後
「出来た!」
『本の1ページと2ページのように、閉じられた世界の中、私達で見つめ合うことから、僕は始めたい。僕と付き合ってください』
……あれこれ、めっちゃ良いのでは……?
整理します。はい。
先ず、本の中。閉じていた場合、ページはくっつき合っています。
まるで昨日の、僕と詩歩さんのように。
そして閉じられた世界。毛布の中の僕たちです。はい。
ここでもページ合わせになっていることが分かります。
そして一ページ目は物語の始まりです。
僕と、詩歩さん、二人の物語が始まることを意味します。
つまりこの一文だけで、二人の関係性が分かるということです。
——天才かな……!?——
「これだ! これしかない! このセリフを【結】とし! プロットを煮詰めるぞ!」
よし。なら詩歩さんの作品をさらに読んでいこう。
そうすると、詩歩さんの願望が現れているであろうシーンが幾つか出てきた。
・主人公がヒロインをハニーと呼びがち。
・壁ドンがある。
・ちょくちょくあーんするシーンが有る。
・キスのシーンがとっても濃厚
『私達は舌を絡め合わせ、唾液を交換しました。肢体を絡ませて、隅々まで舐められて。でも彼は、私の一番感じるところをわざと避けます。私は我慢できなくなり………………』
……ちょっとエロすぎるな……。
「……。まあ、キスのところは良いか……」
まあ要は、明日彼女をハニー呼びして、壁ドンして、あ、あーんすれば良いんでしょ?
「……結構ハードル高いな……。まあ頑張るか」
こんな感じでこれらの要素を兼ね備えた究極の計画を組み立てていく。
◇1時間後。
「……よし……。出来た……!」
壮大な巻物に、プロットを書き上げた僕は、それを机いっぱいに広げて一人、感動する。
「完璧だ……。隙がないぞ!」
何度見返しても良い。コレなら行ける!
その巻物を僕は鞄に詰め込む。頭がちょっと出てるけどまあ良いだろ。
僕は明日、このプロットを実行する。
そして詩歩さんと! 晴れて恋人になるんだ!




