第十六話:【承】今度は書店に誘導です!後編
気合い入れて行きましょう。他にも今の私の作戦にふさわしいラブコメがあるはずです。
できれば、可愛い女子高生と、男子高校生の甘酸っぱいお話を共有したい。
「ねね、紡くん。他の、ちゃんと高校生同士のお話を知りたいです。何か他に無いですか?」
「……実は、ちょっとだけ僕というか、詩歩さんっぽい子がヒロインのお話があるんだ」
「ほう! いいじゃないですか。そーいうのを教えてください」
彼が書棚に手を伸ばします。あそこ、私ギリギリ届かないかも。
「えーっとね。……これこれ。」
『塩対応の飯島さんが俺にだけ甘い』
「コレはどういったお話で?」
「……なんか言うの恥ずかしいな」
「えー! そこまで言うんだったら教えてくださいよー!」
「……えーっとね……。」
「ほら。早く早く」
「……誰に対してもそっけない塩対応の女の子が、主人公にだけ限界突破で甘えてくるっていう……」
「……あれ?」
ちょっと片足突っ込んでませんか……? 私。
「……なんでこの女の子は塩対応なんでしょうか?」
「ネタバレになるから言わないけど、多分詩歩さんとは違うよ」
「と言うと?」
「詩歩さんは、多分、趣味が合わないであろう男の人にアプローチされ続けることが嫌だったんだよね?」
「……よく分かりましたね」
「まあ、陽キャたちに絡まれた時になんとなく分かった」
「そうです。私の見た目だけを好いて絡んでくる人たちのことが、正直あまり好きではありません。」
「うん。そんな感じがするね」
紡くんの声は優しい。私の鼓膜を舐めるように刺激します。そのせいか、私はまたも愚痴のような事を続けてしまいました。
「そのまま付き合ったとしましょう。それで何をするのでしょうか。」
デート? 私が好きなものは本と、執筆です。
彼らは? 本はまだしも、執筆なんてしているとは思えません。
「そうだよね……。趣味が合わない人と仲良くなる方法も、そもそも付き合う方法も分からないよ……」
今、私達二人はいい感じです。でも、告白のことより、今聞いておきたいことがあります。
「紡くんは、好きな人が出来たら、何をしたいですか?」
彼がうーんとちょっと考える素振りを見せます。その後私の方を見て、彼がやりたいことを羅列していきます。
「僕は、好きな人が出来たら、お付き合いをして、一緒に本を読んだり、好きな本の事を語ったり、書店に行ったり、一緒にプロットを練ったり、苦しみや喜びを共有したい」
私の顔が綻んだことが分かりました。
やっぱりそうだ。彼がお隣さんで良かった。
「詩歩さんはどう?」
そんなの答えは決まってます。
私は、校舎裏でやったように「えい」と肩を彼にぶつけて寄り添います。
彼が小さな声で「……『えい』って可愛いね」と言ってくれます。
私も「可愛いですよね」と目をつぶって答えます。
お店の中であるにも関わらず、数分この状態を維持。その間、私は彼の体温を摂取します。
店内に人が来店してきた頃、このままだとお店の人に迷惑をかけてしまうな―なんて考えました。
だったら今のうちに、彼の気持ちを絶対に射抜いてやる。そう決心して私は彼の方を見て、必殺の上目遣いでこう言ってやりました。
「私も一緒」
◆紡くん◆
私たちは一冊の本を購入した後、二人で公園に来た。
「暑いですね。私、制汗剤があるので使います?」
「シートのスースーする奴?」
「はい」
「じゃあ一枚いただくね」
彼が私の一枚を指先で摘んで取りました。私も自分の汗を拭きます。
先ず首元。ここを拭くと、風があたった時に気持ちいいのです。
そしてうなじも拭きましょう。
一枚では足りないので、二枚目を取り出します。
「つ、紡くん」
「なに? 詩歩さん」
「ちょっと後ろ向いててください!」
「……! 分かった」
ちょっと恥ずかしいけど……。服の下へとシャツをくぐらせます。
そこから脇の下を拭いて、持ち替えて反対側の脇も拭きます。
その後もう一枚を取り出して、今度は鎖骨あたりとお腹を拭きます。
最後に……胸のボタンを開けて……。
胸の谷間にもシートをすべらせて……。
ここが汗疹になるのです。トイレの中で拭いておけばよかった。
……やってることが痴女過ぎて恥ずかしい……。
「いいですよ」
「う、うん」
紡君がこちらを振り向いてくれます。そして何故か……。
私の胸を凝視してません……?
……今までそんな事無かったのに?
「う、詩歩さん!」
「なんですか?」
「ボタンが開いてるよ!」
「え!? み、見ないでください!」
私は急いでボタンを締めます。
はあ……。何をしているのでしょうか。
公園で胸の谷間に手を突っ込んで汗を拭いたかと思えば、ボタンを締め忘れて谷間を晒す。
「……もう大丈夫です。すみませんでした……」
「いや……。僕は別に」
「……変なこと考えてないですよね……?」
「うう……。ごめんちょっとだけ考えちゃった」
あんまり嫌な気がしないのは何故なんでしょうか。
「……エッチ」
「えー……。でも、ボタンを締め忘れていたのは詩歩さんじゃん……」
「……それはそうですね。ねえ。紡くん」
「……なに?」
「紡くんはちょっとだけ何を、変なことを考えていたのですか?」
「意地悪しないでよ……」
私には少し、エスっ気があるようです。居心地悪そうにキョロキョロする彼を見て、可愛いと思ってしまいます。
「詩歩さん……。今日、なんだか変だね」
「……そもそも出会ってまだ三日しか経過していません」
「……でもなんだか、変な気がする」
だって、今日、告白して欲しいんですもの。
それは変にもなるし、積極的にもなります。
「紡君……。何か私に言うことがあるんじゃないですか……?」
私は彼の太ももの上に手を置きます。ちょっとだけ撫でます。
彼の目を見ます。無意識に目を潤ませます。
今ですよ。紡君。今日何度も逃した、最後のチャンスですよ。
私はじーっと見つめます。伝われ。
しかし彼は全く私の想定通りに動かず、先程買った本を取り出し、装丁のビニールを破いた後、ペラペラと捲り
「そう言えばこれ見なきゃね! せっかく二人で見るために買ったんだし」
と言いました。
違うよ……。そうじゃないよ。紡君。
視界が涙でぼやけます。
もしかしたら本当に彼は、私のことが好きなわけじゃないのかも知れません。
まさか大好きな本に、負けるとは思いませんでした。
「詩歩さん……。泣いているの……?」
今日の一連の流れ全ては、私の独り相撲だったのでしょうか……?
両手で目を抑えて涙を隠します。しかし掌を伝い腕に沿って、地面にポロポロと流れ落ちる涙は隠しきれません。
それでも傲慢な私は、最後まで虚栄を張ることを諦めませんでした。
「泣いてません……。泣いてなんて、いないですから……」




