第十四話:【起】挙動が怪しい詩歩さん
◇高槻紡くん。お昼時◇
恋心を自覚した僕は、彼女と会話が出来ずにいた。
読書タイム。授業。教科書。
活字なんて頭に入るわけがない。
完全に詩歩さんに脳が寄生されているのだ。
先生に名指しで当てられる。するとわかりやすく動揺した僕が訳のわからないことを口走る。クラスの皆と、詩歩さんに笑われながら席に座る。
さっきは恥かいたなーなんて一人で座って反省していると……
「高槻君。一緒に御飯を食べましょう」
トコトコ歩いて寄ってきた、詩歩さんが僕に話しかけてくれる。
若干見下ろした状態の彼女。下から見ても可愛い。
いやまあそれは良いとして。
どうなのかな。
彼女は僕のことをどう思っているのだろうか。
彼女の様子を見るといつもと変わらないようにも見えるけど。
(あれ……? もしや僕ってただの毛布兼湯たんぽの代わり……?)
確かに、オキシトシンがどうとか言っていたし。
毛布というより、脳内物質分泌係みたいなものなのかも知れない。マリファナみたいだな、僕って。
「白雪さん、そう言えば僕たち、お弁当作ってないね」
「そうですねー……チラ。どうしましょうか……チラ」
……なんかチラチラ見てくるな。なんだ? 試されてる?
シンプルにお腹空いてるだけ?
「なら。食堂に行こう、あそこのカレーが美味しいんだよねー」
「……正気ですか……!?」
「え? なにが? カレー好きじゃないの?」
「いや……。そうじゃなくて……。そこは購買に誘うところでしょう!?」
「え! でもパンより定食とかのほうが体に良さそうだし、ソッチのほうが良いんじゃないの?」
「何を言っているのですか!? 食堂に行くくらいなら餓死したほうがマシです!」
「そんなに!?」
なんか不自然だな。死にたいのかな?
餓死で?
いやいやそんなトリッキーな自殺方法を選ぶような子じゃないだろ。
「とにかく! 今日は購買に行きましょう!」
……何だこの購買への熱量は……!?
◆詩歩さんの作戦決行◆
一階にある、食堂と併設してある購買コーナー。
生徒たちがごった返している中、私達は適当にパンを選んでいる所です。
「高槻くん。選び終わりましたか?」
「うん。焼きそばパンにたくわんが乗ってるやつと、カレーパンにした。たくわんあげるね」
「良いですよそこまで私の腸内環境に気を使わなくても。それは高槻くんが食べてください」
やっぱり紡君は面白い。私はくすりと笑うことを止められませんでした。
本当は、冷徹な冷めた表情を維持したかったのですが。彼と居る時はどうにも頬が緩みます。
私は正直、人目につくことはあまり好きではありません。
周りの目線は相変わらず好奇に満ちていて、私達を色物のように見ています。それに、紡くんの肩身が狭そうですし。
私は彼に耳打ちをします。
「高槻くん」
「なに?」
「はやく二人きりになりましょう」
そう言って、私達はレジに並び、校舎裏で食べる予定を立てました。
◆校舎裏◆
日陰に満ちた、校舎裏。
私の待ち望んだシチュエーションです。
周囲には誰もいません。何故なら暑いので。
二人で校舎の縁と言えば良いのでしょうか。同じ体育座りのような体勢で腰掛けます。
その後、私達は並んで、美味しそうなパンを食べ始めます。
すると彼が唐突に周囲を見渡して、誰もいないことを確認し始めます。
「ね、ねえ。白雪さん」
「どうされました?」
「……ここなら、詩歩さんって呼んで良い?」
「……はい。呼んでください」
……紡くん。それは反則です。
まるでずぅーっと、私のことを下の名前で呼びたかったみたいじゃないですか。
そんなふうに聞こえるじゃないですか。
「ねえ、高槻くん」
「なあに? 詩歩さん」
「私も、紡くんって呼んじゃいますね……」
「……。うん。」
私は嬉しくなって、彼の肩に「えい!」と言いつつ、少しだけ勢いをつけて、寄り添いました。
「『えい!』だって。可愛いね」
「……可愛いって言わないでください。勘違いしてしまいますので」
「ご、ごめん」
「違いますよ」
「……?」
「……勘違いさせてほしいんです」
顔から火が出るほどに恥ずかしいです。
コレは夏の日差しのせいでしょうか。それとも熱を持って暴走する、私の恋心のせいでしょうか。
「……ねえ、紡くん」
「……はい」
「私達って、もう既に、起承転結の【転】までは終わっていると思うのです」
「出会って、仲良くなって、色々あって?」
「……はい」
その色々の中に、一緒に抱き合って眠ったことも含まれているんですよ?
「……そうなると、私達の【結】ってどうなるんでしょうか?」
はい。ここです。
私の完璧なプロットでは、紡くんはここで私に愛を伝えます。
私は彼を真剣に見つめます。彼が顔を逸らそうとも、私が顔を逸らしたくなっても、じーっと私は彼のことを見つめます。
頭皮から流れる汗が、私の首筋を伝い、私の制服や、肢体に浸潤します。
熱中症に浮かされた脳は、あなたへの思いが発端して発熱しています。
私の目の前に居るあなたはどうでしょう。本当に私のことが好きですか?
今がチャンスですよ?
「詩歩さん」
「……はい。なんでしょう」
「顔が真っ赤だね」
「当たり前です。暑いので」
彼はそのまま、たくあんの乗った焼きそばパンをポリポリ食べ始めました。
「……美味しいね」
「……そうですね」
あれ? コレもしや私の勘違い?
わたし。めちゃめちゃ良いパスを出したと思っていたのですが?
なんなら隙だらけですよ。戦場なら心臓剥き出しで「さあ! やれい!」って言ってる信長ですよ。
……。本当に彼は私のことが好きなんでしょうか……?
ならば、何故彼は二人きりになった途端、『詩歩』と下の名前で呼んだんですか?
本当にただ私のことを下の名前で呼びたかっただけ? 呼びやすいから?
……。いやいや、そんな馬鹿な。
「……もー。まあいいです」
「詩歩さん? どうしたの?」
「私には次の作戦がありますので!」
「……本当にどうしたの?」
私は彼のほっぺたをぷにぷに、恨めしく突くことにしました。
「えい。えい」
「……本当にどうしたの?」
……鈍すぎませんかね……?
まあ良いです!
絶対に! 今日!
あなたに告白してもらいます!




