第十二話:純愛の守護者現る
■お母さん視点■
……聞いてください……。私の精神世界に住む皆様……。
……山田さん、田中さん、橋本さん、ジョエル……。
——うちの息子に彼女が出来ました!——
しかもめっちゃ可愛いじゃない。何この子。連れて帰りたいんだけど。っていうか。
「あれ? このコ、お隣の白雪さんじゃん?」
私がそう聞くとあっさり白状する我が息子。
「……。うん……。っていうかなんで毎回ランダムな時間に帰ってくるんだよ!」
「あ!? 良いじゃない! てゆーか私はメッセージ送ってますけど!?」
「本当に!?」
部屋に戻り、速攻でスマホを手に持って戻ってきた我が息子。そんで直ぐにメッセージを確認する。
「本当だ……。朝6時に帰ります……。いや早すぎでしょ……。」
「そうよ。まああんたの顔をチラと見にね。はあ……」
しかし紡、やることやってんのね。まっっっっっじで意外な相手だが。
「まあとりま、一応ご飯炊いてるし。おかずも適当に作ってあるから。顔洗って歯ぁ磨いてきなさい」
■ママン、調査を開始する■
二人がご飯を食べ終わるのを仁王立ちで見届けた私。
掛けてけ、圧力を。この後の調書取りを、成功させるための確率を上げるために!
さあ。作戦実行よ。
「ちょっと、紡……。こっちに来なさい」
「……はい……なんでしょう。」
取り敢えず調査。この二人は絶対に怪しい。
息子を引っ張り、ベランダに連れ出して、尋問開始。
「被告」
「はい! ひ、被告!? (実の息子に被告って言った!?)」
「あんた達は付き合っているの?」
「え!? なんで!?」
「いや。なんでも何も、一緒に男女が眠るなんて普通やんないでしょ。狂ってるわよ」
「いや……。でも本当に付き合ってなんて無いよ。そんな恐れ多いし」
怪しいわね。真っ黒にしか見えないんだけど。ならもう最終手段を使うしか無いわ。
お 母 さ ん セ ン サ ー を 発 動 !
表情と声紋を分析。ピロピロピーン☆ 結果が出ました。
付き合っていないのは本当のようね。でも明らかに溺れています。底なしの愛に。うちの息子は。
「……。帰ってよろしい。た・だ・し! 今の内容は絶対に白雪ちゃんに伝えたら駄目。伝えたらあんたの眼球えぐるから」
「は、はい……(怖い……)」
「あ! その前に! あんた。まだ小説書いてるの?」
「う、うん。勿論」
「楽しい? 楽しく書けてる?」
楽しいのなら、別に良い。でも、辛いのであれば無理しないでほしい。少しでも疑わしかったら、私がストップを促そう。
まあそんな事は杞憂だったわ。
「うん! 楽しいよ! 最近特に楽しいんだ!」
「……そう、なら良かった。でも辛くなったら直ぐに言いなさいよ」
「うん分かった」
「それとあんた。もしや白雪ちゃんと、本の趣味があったから仲良くなったとかあんの?」
「……。鋭いね。まあでも、それは彼女の口から聞いてみると良いよ。一応プライバシーに関することだし」
……。本当に配慮ができる、いい男ね。本当は抱きしめたいけど。高校生だもんね、もう。
よし。次の調査を開始します。
「次は白雪ちゃんを呼んできなさい。あんたはあっちでくつろいでて」
■ママン、白雪さんの調査を開始する■
「……。はじめまして! 白雪ちゃん。下の名前はなんていうの?」
「う、詩歩って言います!」
「なら詩歩ちゃんって呼ばせてもらうわね。よろしく」
……何この子のヒロインとしてのポテンシャル……。
——可愛すぎない……!?——
顔が小さい。そして胴が短く、足が長い。ほぼ足じゃない。そんなに、足、いる? 必要?
私? 別に私はこの足で不便してませんけど?
これが大陸の血でしょうか。羨ましいですね。
今、私は彼女と対面しているわけだが……。
なんか背が高く見えるんだけど、並ぶとそうでもないのね。まあ紡の方がちょっと大きいもんね。見た感じ。座高と頭蓋骨のでかさが。いやうちの息子も男前よ? そりゃそうよ。おしゃれを知らないだけで。世界一男前。
彼女の髪。黄金? 白金? なんて言えば良いのかしら。でも、陽の光に当たる部分が白金。影は黄金ね。売ったら金になりそう。
次は眼を見ましょう。眼を見りゃ大体のことは分かるから。
……めっちゃ碧眼ね。しかも透き通っているわ。
曇りなき眼に嘘も偽りも無い。よし。
つまり、お嫁さん検定は合格。後は……。
「詩歩ちゃん?」
「は、はい! なんでしょう!」
「紡とは付き合っている……?」
「えいええええええええ!? つ付き合ってません! 付き合ってなんていませんよ!」
「……! 本当!?」
なんかめっちゃ怪しいのよ。二人とも。
いや怪しいっていうか寝てたんでしょ? 一緒のベットで?
それもう本来は、行き過ぎた愛の果てに行うことでしょ。
でもお母さんセンサーは反応しないのよね。付き合ってはいないと。
「詩歩ちゃんはそもそも、付き合うの定義ってなんだと思ってる?!」
そう。彼女の豪州の文化が、何かしらの基準を狂わせている可能性もあるわ。
「えーっと、一緒に手を繋いだり、キスをしたり、一緒にお風呂を入ったり……?」
「……。それはまだやってないのね……!?」
「まだもなにも……。やってません」
ここもお母さんセンサーは反応しない……。本当にやってないのかしら。一緒に寝てんのに? 手も繋いでないの? 意味わからんくない?
それほんっっっッとうに血に塗れた喩えで申し訳ないけど、『狩りでマンモス殺した事あるけど、まだネズミ殺したことありません』みたいなことでしょ? 普通先にネズミ殺さない? ステップアップとかしない?
私が物騒なことを考えていると、詩歩ちゃんが突然「あ」と短く、何か思い出したかのように声を出す。
なに? なによ? 『あ』から始まる言葉言おうとしてた? 『愛してはいます』とか? キャー!
まあそんなこともなく、またも死ぬほど焦れったい事を言い出す彼女。
「……男の子が『好きです。付き合ってください』って伝えて『はい。良いですよ』と、女の子が伝える。これが付き合うということの定義であり、交際の始まりです。」
「なるほど……」
結構和風で古風で乙女な考えしてんのね。先に寝ようが何しようが、先に意思表示をしろと。そうしないと付き合ってることにはなりませんと。
ますます撫で撫でしたくなっちゃう。お母さん。
しかし私は流石に彼女の頭は撫でない。代わりに自分の頭を撫でる。てゆーか抱える。はあ……。
……あのヘタレな紡に、そんな事出来るのかしら……?
あの子は確かにとってもいい子。一人にさせてほんっとうに申し訳ない。だから金銭的には絶対に何不自由無いように死ぬ気で働いてる。その結果、たくましい子に育ってくれた。学業だって順調だし。
でもね。それとコレとは話が別。
無理でしょ。てゆーか恋愛の作法すら知らないでしょ。あの子、今まで浮いた話なんて一つも無いもん。告白とか知ってるの?
考えたって仕方がないわ。くっ……。
……えええい! もうまどろっこしい!
直球でいかせてもらうわ!
「……なら紡のことは好き……?」
しかと見よ。彼女の表情を。
耳を澄ませ。彼女の心拍を。
捉えなさい! 彼女の機微のすべてを!
先ず、表情。
完全に恋する乙女です。はい。寝間着の裾の部分を持って左右にもじもじ身を揺らしています。ぴょこっと跳ねた寝癖も一緒に揺れてます。可愛いです。こちらからの報告は以上。次。
血圧。常時200を越えています。ジジイならここで血管がちぎれて死んでいます。しかし彼女は生きています。何故なら身を窶す恋心に耐えるだけの若い身体があるからです。
そんな恋する証拠にまみれた彼女の証言がこちらです。
「よくわかりません……」
「………………!」
——お母さんセンサーがビクンビクン反応している……!——
いや絶対に嘘でしょ! 間違いないでしょ!
本当は気づいてるんでしょ!? 自分のほんとうの気持ちに!
でもここ、冷静に考えたら
『分からないと嘘をついた。』
『恋とは何なのかよく分からない』
『リアルにマジで好きじゃないからガチで今困っている』
のパターンがあるのよね。まあ、お母さんセンサーなんて私が勝手に言ってるだけだし。こんなもんなーんも当てにならん。
最後の質問をしよう。コレだけは聞いておきたい。
「白雪ちゃん」
「はい。なんでしょう」
「二人は何がきっかけで仲良くなったの?」
「本です!」
「へー。何の本がきっかけ? 恋愛系?」
「いいえ違います」
「……じゃあ何系?」
「読む方じゃなくて、お互いに書く方だったから仲良くなったんです」
そう言うと、彼女は腕いっぱいに両手を広げて、小さな風を一心に受け止めるような素振りを見せる。
なるほどね。納得した。
コレで心置き無く私は読者に徹することが出来る。
それに。
さっきまでの私はちょっと視野が狭かったわね。
二人がお互いを好いていようがいまいがどうだって良いじゃない。
無粋なレビューを書くような厄介な読者になっちゃ駄目。
取り敢えず応援しといて、んで星五だけ渡しとけば良い。それくらいの魅力が、この二人にはある。
作者の書く、二人の物語を信じてれば結局、それが一番の最高傑作になるんだし。
どーせこの世界はこれから、二人を中心に回っていく。
ならもうぱらぱらとページでも捲る歯車にでもなっておこう。
■また、日常に戻る■
私は二人をエントランスで見送る。
「じゃあ行ってらっしゃい」
「……お母さんは、いつまでいるの?」
「すぐ戻るわよ、金稼ぐんだから。しこたま」
「……わかった、じゃあね」
「……じゃあね……」
「白雪ちゃんも、いってらっしゃい」
「はい! 行ってきます! お母様!」
(やばい。可愛い。母乳が出そう)
二人の背中が見えなくなるまで私は二人を見送る。
見届けた後、エレベーターに乗る。上昇する。降りる。
部屋に入る。ベランダに出る。
外に出て陽の光を浴びる。
天に向かって感謝を伝えた後、思いっきりのファッキューを向ける。
「なんでこの世界の創作者は、あんなに素敵な友達を私に授けてくれなかったのかしらね?」
お母さんはね、一応書籍化作家。
純文学を書いて書籍化されても売れず、舐めてかかったエンタメラノベになびき、三年掛けてやっと書籍化が出来た。
でもそれすら売れず、跳ねず。媚びて書いた二作目も直ぐに打ち切られて異世界直行便。
これ以上書く気力もない。書店を見ると、成功者がズラッと私を見下す。
それは錯覚だと分かっていても、思考は堕ちるところまで堕ちた。
小説をこれ以上嫌いになりたくないとし、もう書くことを完全に止めた今。もう未練はないけど。
でもさー。
「いいなー。私もあんなふうに、誰かと一緒だったら、今も楽しく小説書いてたりしたのかしら」
まあ私なんて良いのよ。たまに帰って彼の顔を見て、ンでいずれクオーターの子の顔とか見れたら最高。ってこれは高望みかな?
「……どうかな?」
適当に掃除して、また現実に戻るか。はーいいもんみた。




