第十一話:朝おきたらお隣さんがいる幸せ。
◇朝と夜の間、二人毛布にくるまって◇
夢の中で見るのは、実は白雪さんの姿じゃなくて、何かが僕に訴えかけてくる所。
『今一瞬でも起きなきゃ、死ぬまで後悔するぞ』
目が覚める。目を開ける。
胸の中に、すやすや眠る詩歩さんがいる。
「……良かった……。間に合った」
これか。謎の夢の、正体は。
寝ている彼女を目に収めた方が良いよっていう。
「……目を閉じてても可愛いな」
小さな口が息を吸う。肺が胸を押し上げる。吐く。胸が沈む。
彼女が生きている事を実感し、安堵する。
「……おやすみ……。詩歩さん……」
◆より、朝に近づいた夜◆
私は誰かの優しい声で、目が覚めます。
目の前にある胸が、紡君の物であると判明するまで、少し時間が掛かります。
少し目線を上に向けると、スヤスヤ眠る、紡君がいました。
既にいつの間にか、ボサッとした寝癖を付けた彼。
いつも真面目な彼の、誰も知らない無防備な顔。
彼の胸郭が呼吸に合わせて膨らみます。私が吐いた二酸化炭素の一部を吸って、彼の吐いた二酸化炭素の一部を今度は私が受け取ります。
耳を寄せるとちょっとだけ心臓の、トクンという少女漫画の一コマのような、弁が開いたり閉じたりする音が聞こえます。
「……私の胸からも、同じ音が聞こえるのでしょうか……」
そんな事を考えても睡眠圧には抗えません。
私はもう一度、目を瞑り、今度は夢の中の紡君に会いに行きます。
◇朝七時◇
朝の日差しが窓から差し込む。僕の目が覚める。
彼女の方を見る。彼女も目覚める。
「おはようございます……。紡君」
「……おはよう。詩歩さん」
時計を見てまだ七時。どうしよう……。
「紡君。」
「なぁに? 詩歩さん」
「……後五分だけ、このままでいてください」
「……それは悪魔の誘惑だね」
毛布で外界をもう一度遮断し、閉じた二人だけの世界を創り出す。
「紡君。私は途中で起きました。」
「そうなの? 僕も起きたよ」
「……なら、私の寝顔を見たんですか?」
「……うん、見ることが出来た」
「……なんですか……。出来たって……」
くすりと笑う彼女の声が、僕の胸に響く。
「僕たち、すれ違ったんだね」
「そうですね。」
毛布から二人して顔を出す。楽しい五分が経過しているところを確認する。
「……はー。学校嫌だなー。」
「……ですね。もう今、行く理由なんて無いですよ」
「そうだね……。詩歩さんもここにいるし」
「そうです。わざわざ紡君に会いに学校にかなくても良いんです。ここにいるのですから」
まあそんな事言いつつも、働いて学費を出してくれる親に申し訳ないので、取り敢えず起き上がる。
「私、今日初めて寝坊しました」
「寝坊? いつも何時に起きているの?」
「私6時に起きてます」
「……部活もないのに!? なんで?」
「はい。朝走ったり、エアロバイクを漕いだり」
「それも執筆のため?」
「当たり前でしょう。朝日を浴びて、リズム運動で、セロトニンを分泌。有酸素運動で血流を改善。たまにダッシュを入れてテストステロンもブーストさせます。こんなきついこと、好きな執筆のためにしか出来ませんよ」
「頻度は……?」
「週に6日、たまに夕方にも行います。まあ今日は出来ないので、別の休みの日に代替して行いましょう」
「すごいな……。だからそんなに引き締まってるところは引き締まってるんだね」
「それ……。ちょっとセクハラ入ってますよ」
ほんとうだ……。
なら出てるところは出てるよねって言ってるようなもんじゃん……。
「すみません……。失言してしまいました……」
「……。先生なら良いでしょう。許してあげます」
以前の仲だったらどうなってたんだろう。普通にキモがられて、侮蔑の目で見られたのかもな。
でも今は笑って許してくれる。僕たちの距離が、物理的にも精神的にも近づいた証拠だ。
「僕、いつもなら起きてすぐpv見たりしてたけど、今はなんだろう。満ち足りてるからか、確認する気もおきない」
「私もです」
まあコレが良いことなのか、悪いことなのかは分からない。
でも、アクセス数の確認という、呪縛から解き放たれた僕は本当に自由だ。今日だけでもその恩恵を受けよう。
「よし。じゃあ準備しようか」
名残惜しいけど……、毛布から出て、いつもの日常に戻るための作業を開始するために扉を開ける。
「あ」と僕。
「あ」と詩歩さん。
「あ」と僕のお母さん。その後「久しぶりねあんた。その子彼女? ……え!? 彼女!?」と僕に聞く。僕の部屋の前で。対面して。




