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査察艦隊が右往左往しているって本当ですか?

1. タッチダウンポイント、その手前で

査察艦隊が、ついに隣の星系からワープアウトし、

アヴァロン星系のタッチダウンポイントに到達した。

そこは、アヴァロン本星から半日ほどの距離にある。

テラ方面からだと大型艦はここにしかワープアウトできない。

逆に言えば、ここさえ押さえれば、大型艦の進路を塞ぐことができる。

そこで、タッチダウンポイントとアヴァロン本星の間、

狭い航路の要所にシノたちは仲間の宇宙船二百隻近くを展開させた。


「これで、本星に直接行かせはしない」

シノは、艦のブリッジで、

正面に浮かぶ査察艦隊のシルエットを睨みつけていた。

旧式とはいえ、戦艦と巡洋艦で編成された20隻からなる艦隊の威容は、

民間船の群れとは比較にならない。


「シノさん、正直、これ以上は分が悪すぎます。

 向こうが本気で撃ってきたら……」


「分かってる」

シノは、短く答えた。

「でも、退けねえ。ここを抜かれたら、本星まで抜かれる。

 少しでも長く止めないと」


2. 執務室からの直談判

「代表、お待ちください! さすがに、そこまでするのは!」


「いや、行きます。俺が行かなきゃ、誰も止められない」


アヴァロン星系代表執務室で、

レイモンドは震える手で防護服の留め具を締めていた。

タッチダウンポイント付近に、

野良艦隊と呼ばれる正体不明の船舶軍が展開している、

との報告を受けた瞬間、レイモンドの頭に浮かんだのは、ただ一つだった。


(戦争になる。俺の星系で、本当の戦争が始まる)


「俺が直接、査察艦隊の司令官と話します。

 降伏でも何でもするから、

 とにかく、撃ち合いだけは止めてもらわないと」


「代表が自ら乗り込まなくても」


「いや、俺が行けばいいんです。

 俺が人質になれば、査察艦隊は少なくとも、

 住民には手を出さないでしょう」

その悲壮な決意は、勇気というより、

ほとんど恐怖からくる自暴自棄に近かった。

だが、周囲には、それが「代表自らが矢面に立つ覚悟」に見えていた。

小型の連絡艇に乗り込み、

レイモンドはタッチダウンポイント方面へと向かった。


3. 膠着

連絡艇がタッチダウンポイントに近づくにつれ、

レイモンドの目に、異様な光景が飛び込んできた。

正面に、査察艦隊の巨大な影。

その手前に、まるで壁のように展開する、無数の小型艦の群れ。

「な……これ、何隻いるんですか」


「識別できているだけで、二百隻近くかと」


「誰が、こんな」


答えは、誰にも分からなかった。

シノたちの艦の艦籍情報などはすべて欺瞞されていたからだ。


査察艦隊旗艦司令官室では、

ベッリーニが険しい顔で戦況表示を睨んでいた。

「いつまで居座るつもりだ、こいつらは」


「司令官。相手の艦隊規模は、

 ある程度確認できていますが、

 正規の武装勢力とは考えにくい構成です。

 とはいえ、この数を強行突破するとなれば、

 相手に被害が……そうなれば民衆の感情が」


「星系代表の連絡艇が接近中との報告です」


「ちょうどいい。代表自らが出てくるなら、話は早い」


ベッリーニは、苛立ちを隠さないまま、

通信を開かせた。

一触即発。誰かが一発でも撃てば、その瞬間に、

この場は本物の戦場になる。シノも、ベッリーニも、

そしてレイモンドも、その空気を痛いほど感じていた。


4. 割り込む通信

「クラーク代表。単刀直入に申し上げる」

ベッリーニの声が、連絡艇のスピーカーから響いた。

「貴星系の関係者と思われる勢力が、

 我が艦隊の進路を妨害している。

 これが貴殿の指示によるものかどうか、まず明確にしてもらいたい」


「ち、違います! 俺、本当に何も指示してません!

 ただ、これ以上、揉め事になる前に、俺がそちらに」


その時だった。

通信画面の隅、緊急回線を示すランプが、けたたましく点滅し始めた。


「司令官! 緊急通信です! 発信元、テラ方面!」


「何だと」


ベッリーニの表情が変わった。

「クラーク代表しばらくお待ちください。」

そういって、通信を一時中断した。


「読み上げろ」

通信士官の声が、震えていた。

「『ヴァリアント星系軍による、

 首都圏及び主要航路の封鎖を確認……

 状況が落ち着くまで現状を維持せよ』。

 以上の打電のあと、テラ方面とは通信途絶。」


「は?」

ベッリーニは、思わず声を漏らした。

「もう一度、読め」


「同詳細は不明ですが、ヴァリアント星系がテラに対し、

 大規模な軍事行動を起こしたものと見られます」

司令官室が、一瞬で静まり返った。


「なんとか連絡は取れないのか」


「必死に応答を求めていますが、軍政官、すべて応答なしです」


ベッリーニの手から、握っていた資料が滑り落ちた。

「馬鹿な。ヴァリアントだと? あんな、痩せた星系が……」


「司令官、いかがいたしましょう。

 命令系統が、本国と繋がらない状態では」


「……分からん」

ベッリーニは、司令官とは失格と気づきながら、

再度その言葉を口にした。

「私も、分からん」


レイモンドも、同じ情報をほぼ同時に手に入れた。

彼も全く状況が飲み込めないまま、目の前の光景を見つめていた。

恐る恐るレイモンドは査察艦隊に通信をつなぎ、口を開いた。

「……あの、司令官。今の、その、テラが、

 なんか大変なことになってるって話、本当なんですか」


「隠しても仕方あるまい。ただ細かいことは確認中だ」

ベッリーニは、答えなかった。

答えられなかった、というのが正しい。

「えっと、もし、それが本当だとしたら……

 その、査察艦隊の、俺への用件って、

 もう、なくなったってことですか?」


その、あまりにも間の抜けた問いかけに、

通信の向こうで、ベッリーニは、しばらく何も言えずにいた。

自分がここまで来た理由。任務。命令。

その全ての大元であったはずのテラ中央政府が、

今どうなっているかわからない。

だとすれば、自分は今、

何のために艦隊をここに留めているのか。

「……それも含めて、これから検討させていただく。」

ベッリーニに今応えられるのはここまでであった。


5. 静まり返る場

タッチダウンポイントに漂う、査察艦隊と野良艦隊、そしてレイモンド。

三者とも、攻撃の意志も、撤退の判断も、誰一人として下せずにいた。

シノ達にはテラ方面の騒動について、

民間回線を通じて遅れて情報が届いた。

シノは正面の査察艦隊を見つめながら、小さく呟いた。

「……戦わずに、終わるのかもな、これ」

その声には、安堵とも、拍子抜けとも取れる、複雑な響きがあった。



連絡艇の中で、レイモンドは、誰にも届かない胸の内で、

ただ一つのことを考えていた。

(俺、降伏する準備までしてきたのに……

なんか、その必要、なくなった気がするんですけど……)

答えを持つ者は、この場に、誰一人としていなかった。


いきなり、テラが大変なことになっています。

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