査察艦隊が妨害されているって本当ですか?
民間船で頑張っています。
1. 中継星系
テラとアヴァロンの間には惑星に定住人口がない
アヴァロン直轄の中継星系がいくつかあった。
ただ、そんな星系でも燃料補給ドックと整備施設を備えた
宇宙ステーションは整備されていた。
いつも交易に使っているシノたちにとっては、
勝手知ったる庭のような場所である。
「補給申請、来てるか」
ドックの管理事務所で、シノは顔なじみの受付係に声をかけた。
「ああ、査察艦隊とかいうやつだろ。もう届いてる。
優先度最上位で、って書いてあるぜ」
「そうかい。じゃあ、悪いけど」
シノは、書類を一枚、机の上に滑らせた。
「今週は、定期整備が立て込んでたんじゃなかったっけ。
ドックの空きが、思ったより少ないようなきがするなあ」
受付係は、書類にざっと目を通し、にやりと笑った。
「……ああ、そういや今週、うちの定期整備、
えらい混んでるんだったな。すっかり忘れてたよ」
「だろ?」
「燃料の在庫も、実はちょっと心もとなくてなあ。
次の補給船が来るまで、待ってもらうことになるかもしれん」
二人の間に、言葉にならない了解が交わされる。
テラの査察艦隊に対する態度としては、拒否ではない。
ただ、あらゆる手続きが、ほんの少しずつ、遅くなるだけだった。
2. 妨害工作
査察艦隊の補給担当士官は、書類を前に苛立ちを隠せずにいた。
「どういうことだ。優先度最上位で申請しているんだぞ」
「申し訳ございません。もちろん、優先度は上げております。
ただ、すでにドックに入っているものをでていけとも言い難く」
窓口の担当者は、終始丁寧な口調を崩さなかった。
規則違反は何一つない。
ただ、あらゆる対応が、判で押したように「規則通り」であり、
そしてその「規則」は、なぜか査察艦隊にとって、常に不利な方向に働いた。
「燃料の補給量は、いつ確保できる」
「現在、在庫確認中です。今しばらくお待ちください」
そのころ、査察艦隊にSOSが飛び込んできた。
「民間輸送船からの救難信号を受信。
エンジントラブルにより航行不能とのことです」
「位置は」
「本隊の予定航路から、外れた宙域です」
ベッツリーニは、迷わず判断した。
「向かえ。民間船を見捨てるわけにはいかん」
巡洋艦一隻が本隊を離れ、救難信号の発信元へと向かう。
だが、到着した現場には、輸送船の影も形もなかった。
「どこにもいないぞ。」
「信号の発信源は……この付近のはずですが」
しばらく周辺を捜索したものの、何も見つからないまま、
時間だけが過ぎていった。
結局、救助に向かった艦が本隊に合流できたのは、
半日以上経ってからのことだった。
同じような救難信号はその後も艦隊の進路上でたびたび発生した。
そのたびに、救助のために一隻が艦隊を離れ捜索に時間を費やす。
そのようなことが続き、艦隊の中にいら立ちがたまっていった。
3. ベッリーニの苛立ち
「なぜ、こうも遅れが続くのだ」
査察艦隊旗艦の艦隊司令部で、
ベッリーニは届けられた進捗報告に露骨に不機嫌な顔をしていた。
「補給の手続きが、想定より大幅に遅れています。
また救難信号への対応が複数回発生しております」
「そんな偶然が、何度も重なるものか」
「そのような意見も出ており、調査は行っておりますが、
いずれも明確な証拠がない限り、
規則の範囲内で対応せざるを得ません。
明確な妨害と断定できる証拠は……」
「証拠がなければ、妨害ではないとでも言うつもりか」
ベッリーニは、机を軽く叩いた。
「アヴァロンの関係者が、我々の進軍を意図的に遅らせている。
そう考えるのが自然だろう」
副官は、慎重に言葉を選んだ。
「仮にそうだとしても、相手は正規の武装勢力ではありません。
規則の隙間を突く、非正規の妨害です。
こちらから強硬な対応を取れば、
それこそこちらが先に手を出したことになりかねません」
「では、指をくわえて見ていろと言うのか」
ベッリーニの苛立ちは、日に日に募っていった。
経歴に箔をつけるためのはずだった任務が、
想定を大きく超えて長引いている。
それだけでも、彼のプライドには、十分すぎるほどの傷だった。
事態が動いたのは、艦隊が三つ目の中継星系を通過しようとしていた時だった。
進路の安全航路上に、正体不明の小型艦の集団が展開している、との報告が入る。
「何者だ」
「反応から見て、民間の小型艦、複数です。
武装の有無は不明ですが、
明らかにこちらの進路を塞ぐような配置になっています」
ベッリーニの中で、これまで積もり続けてきた苛立ちが、限界に達した。
「威嚇射撃を許可する。艦隊の進路を確保しろ」
「し、しかし、相手が民間船であれば……」
「進路を空けさせるだけだ。絶対に命中させるな。十分な安全マージンを取れ」
発砲命令が下り、査察艦隊の巡洋艦から放たれたビームが、
小型艦の集団の脇を掠めていった。
だが、宙域を一瞬照らし出したその光は、
威嚇として十分すぎる効果を持っていた。
小型艦の集団は、蜘蛛の子を散らすように、四方へと散開していく。
「進路、確保できました」
「よし。進軍を続行しろ」
ベッリーニは厄介ごとが消えたことに安堵していた。
だがその散開していった小型艦の中に、
SOSを発信した船が含まれていたことに、彼はまだ気づいていなかった。
4. シノ、退きながら笑う
「っと、危ねえ危ねえ」
散開した先で、シノは艦の外部映像を再確認しながら、口の端を吊り上げていた。
「ついに撃ってきやがった。あいつら、意外と我慢弱いな」
仲間の一人が、通信越しに緊張した声を上げる。
「シノさん、これ以上は危ないんじゃ……」
「分かってるよ、正面切ってやり合うなんて絶対にしないようにな」
シノは、艦のセンサーに映る査察艦隊の動きを確認しながら、続けた。
「でも見ろよ。あれだけ焦って威嚇してくるってことは、
向こうも相当苛立ってるってことだ。
進軍、予定よりだいぶ遅れてるはずだぜ」
「それは、そうかもしれませんけど」
「上等じゃねえか。あたしらの狙いは、最初から一つだけだ。
あいつらが、アヴァロンに辿り着くのを、
できる限り遅らせること。
それさえできりゃ、それでいい」
シノは、艦を反転させながら、ふと真顔になった。
「……先生には直接迷惑が掛からなければいいが」
その一言だけは、いつもの威勢の良さとは違う、静かな声だった。
5. 警告
数日後、アヴァロン星系代表執務室に、
テラ中央政府から一通の通信が届いた。
「代表。査察艦隊への妨害行動について正式な抗議が届いています」
秘書官の声に、レイモンドは椅子から飛び上がりそうになった。
「抗議? な、何のですか? 俺、何もしてませんよ!?」
「文面によりますと、査察艦隊の進路において、
正体不明の民間武装勢力による妨害行為が複数回確認された、と。
アヴァロン星系政府に対し、この件についての説明と、
関係者の取り締まりを要求する内容です」
「は……?」
レイモンドは、文字通り、言葉を失った。
「い、妨害って、誰が……俺、そんなの、
指示した覚えなんて全くないですよ!?」
「存じております。
ですが、テラ側は我々の組織的な妨害の可能性を疑っているようです。
補給遅延や偽装SOSなどの疑いもあるので、
状況を説明してもらいたいとも続いております。」
「い、いや待って、俺、査察艦隊が来るってこと自体、
震え上がってただけで、何も動いてないですよ!
議会だって何も決められてないし!
誰なんですか、そんなことしてるの!?」
秘書官は、即座に首を振った。
「分かりません。こちらとして把握している範囲では、
政府として組織した動きは一切ございません。
どうも民間の中で自発的な動きはあるようですが。」
レイモンドは、頭を抱えて机に突っ伏した。
(な、なんだよそれ。
俺の知らないところで、誰かが勝手に艦隊の邪魔してるってことか?
誰だよ、そんな度胸あるやつ……)
「と、とにかく、抗議には、誠実に対応してください。
自治政府として組織的な関与は一切ないと、はっきり伝えて……」
「承知しました。ただ」
秘書官が、少し言いにくそうに続けた。
「テラ側の文面には、こうもあります。
『貴星系の対応いかんによっては、追加の措置を検討せざるを得ない』」
「追加の措置って」
レイモンドの顔から、また血の気が引いていく。
(無制限臨検とか通商の禁止?いや、惑星への武力行使?
もしかして、これ以上ないくらい、話がややこしくなってきてないか?)
窓の外、夕暮れのアヴァロンの空を見上げながら、レイモンドは深いため息をついた。
相も変わらず主人公が蚊帳の外で事態が動きます。
ろくに戦力もない中どうやってこの艦隊を退けるのか。
そこに興味のある方はぜひ次回もお越しください。




