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俺が危険人物扱いって本当ですか?

星系代表になってから彼の周りで次々と事件が起きます。

1. 情報部の困惑

テラ中央政府庁舎植民統括省植民地情報分析室。

「以上が、アヴァロン星系代議員と代表選出に関する報告です」

若い分析官が、資料を読み上げ終えて一礼した。


室内には、数名の高官が渋い顔で座っている。

「初当選、無名の無所属議員が、両党の妥協案として代表に選ばれた、と」


「はい。加えて、選出のきっかけになった配信が、


テラでもかなりの再生数を記録しておりまして……」

「その人物についての情報は」


分析官は、一枚の資料を差し出した。

「これが全てです」


高官の一人が資料に目を通し、眉をひそめた。

「……薄いな」


「はい。地方のグルメ配信者で、これまで政治的な発言はほぼ皆無。

 議員選挙も酒気帯びでの立候補だったという未確認情報もあります。

 公的な経歴としては、中央大学卒業という一点のみが目立っております」


「中央大学卒?」

高官の声が、わずかに鋭くなった。


「植民地出身者が中央大学に進んで、卒業後に故郷へ戻り、

 定職につかず配信者をやっていて、いきなり議員になり、代表になる。

 この経歴だけ見ると、いささか不自然です」


「不自然、というと」


「中央大学卒であれば、

 本来なら中央省庁か軍のどこかに引き抜かれていておかしくない。

 それが辺境に戻り、無名の配信者として燻っていた。

 しかも今回、あれよあれよという間に星系代表にまで担ぎ上げられている。

 我々のあずかり知らぬところで力を蓄えていた可能性は?

 計算ずくの雌伏だった可能性は、ないか」


室内に、微妙な緊張が走った。

「調べろ。あと中央大学時代の記録と、

 当時の関係者を探して、彼の人となりを探るぞ」


2.同期

「チェン・オードリー補佐官。少々、お伺いしたいことが」


植民統括省の一室に呼び出されたオードリーは、

突然差し出された資料を見て、やはりという顔になって即答した。

「想定はしていましたが、レイモンド・クラークの件ですね」

写真の気の抜けた笑顔は、間違いなく知っている顔だった。


「彼のこと、ご存知ですね。中央大学時代の同期だったと記録にありますが」


「……はい。同じゼミでした」


「彼について、印象を伺いたい。優秀な人物でしたか」


オードリーは少し考えてから、正直に答えた。

「優秀、というのとは違います。授業は最低限、

 討論も面倒くさがるタイプでした。単位もぎりぎりで卒業したはずです」


「では、危険視するほどの人物ではない、と」


「……いえ」

オードリーは即座に首を振った。

「彼は、興味を持った対象に対してだけ、異常な集中力を見せるんです」


「具体例は」


オードリーは一瞬、言葉に詰まった。

あまり思い出したくない記憶だったからだ。

「私、本格麻婆豆腐について三時間語られたことがあります」


「麻婆豆腐?」


「私の家系のルーツに関わる料理だからと言って、

 強烈な花椒を限界まで効かせたものを作って、私に食べさせました。

 舌が痺れて、半日、味覚が戻りませんでした」

高官の一人が、微妙な顔で口を挟んだ。

「それは……単に、料理が好きだった、ということでは」

「違います」

オードリーは即座に否定した。

「彼は、料理の話から、歴史、移民の経緯、植民地の食料政策、

 標準化がもたらす弊害まで、一気に話を広げました。

 本人は雑談のつもりだったはずです。

 でも、視点のつなぎ方は正直危険です。

 彼は、興味の赴くままに、

 私たちが意図的に切り離している論点同士を、

 無邪気に繋げてしまう」


室内が静まり返った。

「つまり」

高官が資料を指で叩いた。

「本人に自覚はなくとも、結果的に、

 我々の統治の論理に穴を見出しやすい人物、ということですね」


「……そう、なるかもしれません」

オードリーの脳裏に、当時の記憶が蘇る。

あの時は単に中央になじめていない料理好きとしてしか見てなかった。

だが今、こうして彼の資料として読み上げてみると、あの雑談は、

思いのほか筋が通っていたようにも思える。

テラにとっての危険人物なのか、単に花椒で舌がしびれた私怨か、

それについての明確な答えがどちらなのかオードリー自身わかりかねていた


3. テラにも広がる飯の話

官僚が分析したように、

レイモンドの両党を脂っこいものと酸っぱいものでたとえ、

二つの星系の食材を組み合わせた料理で

「間に立つものがあれば、両方活きる」と語った回の配信は評判になっていた。


テラの食堂の片隅で、労働者たちが動画を見ながら話していた。

「これ、アヴァロン星系の飯だってさ。旨そうじゃねえか」

「うちらの標準食と、えらい違いだな……」

「なあ、俺たちの飯も、こんな風に選べたらいいのにな」


そんな声が、SNS上でも広がっていた。

〈中央標準食、味気なくない?〉

〈アヴァロンの人たち、羨ましいな〉

〈辺境から搾り取っておいて、こっちの飯もまずいってどういうこと〉


分析室に、新たな報告が上がった。

「……テラ市民の間で、アヴァロン産食材への関心が高まっています。

中央標準食への批判的な声も、一部で見られます」


高官の顔から、血の気が引いた。

「まずいな」


「まずい、とは」


「辺境の自治運動だけなら正直大きな脅威ではない。

 だが、これが中央市民の生活不満と結びつくと話がだいぶ大きくなる。

 特に中央標準食批判は、統一規格への信頼低下に直結する。

 未認可食材の流通は検疫秩序を崩す。

 輸送税への批判は、連邦財政への攻撃と同義だ」

一つ一つ、高官は指を折りながら数え上げていく。

「そしてこれら全てが、たった一人の、地方の配信者から始まっている

 逆に言えば、その一人をつぶせば、問題は小さく収まる」


4. 査察決定

会議室に、重い沈黙が落ちた。

やがて、上座に座っていた最高幹部の一人が、意を決したように口を開いた。

「査察団を送りましょう」


「査察、ですか」


「アヴァロン星系代表、レイモンド・クラーク。

彼の思想と、周辺の実態を正確に把握する必要がある。それに」

幹部は、資料の写真に目を落とした。

「万が一、彼が本当に、

 計算ずくで統治の綻びを突いてくる人物であるなら今のうちに、

 芽を摘んでおくべきです」


オードリーは、その言葉に何も言い返せなかった。

(レイモンド……あんた、一体、何を考えてるんだよ)

彼女の脳裏に浮かんでいたのは、あの日、

真顔で花椒だらけの麻婆豆腐を差し出してきた男の、

屈託のない笑顔だった。


(あんたは単に料理バカか、反逆者かどっちなんだ?)

彼女が悩んでいる中、査察団派遣の決定だけが、

静かに議事録に刻まれていった。

今回はレイモンド不在回でした。

本人の与り知らないところで、着々と話が進んでいきます。

査察団、次回はどうなることやら……。

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