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ヴァリアントへの配信を考えろって本当ですか?

1. シノの無茶振り

「先生。配信の中身、あんたが考えろ」

アンティカの指令室での作戦会議でシノが唐突に言った。


「は?」


「変光星ルート使って、ヴァリアントの通信網に流し込む中身だよ。

 あたしらは、ハッキングの手筈は整えられる。

 だが、飯の話は、あたしらの専門じゃねえ」


「い、いや、俺、ヴァリアントの食材とか、詳しく知らないですよ。

 向こうがどんなもん食ってるかも……」


「だから、教えてやるって言ってんだよ」

シノは、前を見据えて、少し不敵に笑った。

「密輸業者を舐めるな。

 あの星系の胃袋の中身くらいとっくに把握してる」


2. 材料の情報

シノは、宙域図の脇に、簡単な資料を広げた。

「ヴァリアントは、環境は厳しいが、根菜だけは、

 そこそこ採れる星系だ。

 じゃがいもに似た芋、にんじん、玉ねぎ。

 寒冷地向けの家畜保存の利く塩漬け肉もちゃんとある」


「じゃあ、材料自体は、そんなに悪くないってことですか」


「ああ。だが、配給に回ると、その全部が、

 あの灰色のペーストに潰されちまう。

 効率優先で、根菜も肉も、まとめてすり潰して、

 味付けも最低限。栄養価だけ揃えて、

 味は最初から諦めてる」


「それだけあれば、普通に、

 美味い煮込み、作れるじゃないですか」


「だろ。だから、あんたに頼んでる」


3. 試作

補給ドックの片隅、簡易の厨房で、レイモンドは腕まくりをした。

用意されたのは、シノたちが密輸ルートで仕入れていた

ヴァリアント産の根菜と、塩漬け肉のサンプルだった。


塩漬け肉を、まず丁寧に塩抜きする。

根菜は、大きめに切って、じっくりと炒める。

玉ねぎの甘みを引き出してから、肉と一緒に、

じっくり煮込んでいく。

湯気とともに、素朴だが、じんわりと沁みるような匂いが、

厨房に広がっていった。


出来上がった一皿を、シノの仲間たちに配る。

恐る恐る口をつけた一人が、目を見開いた。

「うまい……。これ、ほんとに、

 あそこの配給と同じ材料なのかよ」


「同じですよ。手間かけただけです」


4. 収録開始

「じゃあ、これで、本番の収録、始めるぞ」

シノの合図で、小型カメラが起動する。


レイモンドは、湯気の立つ鍋の前に立った。

「こんにちは。アヴァロン星系の、グルメ配信やってた、

 星系代表のレイモンドです。

 今日は、ヴァリアントの皆さんに向けて、一品、作りました」

出来上がった煮込みを、カメラに向けて見せる。

「これ、じゃがいもに似た根菜と、

 にんじん、玉ねぎ、それと、寒冷地向けの塩漬け肉。全部、

 皆さんの星系で採れるものだけで作ってます。

 特別な食材、一個も使ってません」

一口分をすくって、カメラに近づける。

「皆さんが食べている配給ペースト。

 あれ、実は、これと同じ材料なんです。

 すり潰して、固めて、時間かけずに処理してるだけで。

 ちゃんと手間かけて、煮込めば、これだけ変わるんですよ」


5. シノの告白

カメラが、シノの方へ向く。

シノは、一瞬、息を吸ってから、まっすぐにレンズを見据えた。

「ついでに、一個、白状しとく」

その声には、いつもの威勢の良さとは違う、硬さがあった。

「あんたらが、その配給のペーストしか食えなくなった理由、

 あたしらにも責任がある。

 あたしらは、アヴァロンの自由商人だ。

 何年も前から、アンティカの裏ルートで、

 高密度レアメタルを掘り出して、闇市場経由で、

 あんたらの国に流し込んできた」


シノは、拳を握りしめた。

「そのレアメタル、あんたらの戦艦の主砲に使われてる。

 総統一族が、三代がかりで秘密ドックに注ぎ込んできた金の出所、

 あたしらが、もらってたんだよ」


一拍置いて、続けた。

「その金が、艦隊に化ける裏で、

 あんたらの農地も、漁場も、ずっと後回しにされてきた。

 根菜と、寒冷地向けの肉くらいしか、まともに作れなくなった。

 せっかく採れたそれも、効率優先で、あの灰色のペーストに潰されてる」


シノは、深く息を吐いた。

「あたしらが運んだ金属が、あんたらの艦隊になって、

 あたしらを脅かしてきた。それだけじゃねえ。

 あの金属が、あんたら自身の食卓からも、

 豊かさを奪ってたんだよ」


6. 呼びかけ

レイモンドが、再びカメラの前に立つ。

「だから、皆さんに言いたいのは、

 『美味しいでしょう、羨ましいでしょう』

 ってことじゃないんです」


湯気の立つ鍋を、もう一度、指し示す。

「皆さんの土地でも、同じ材料で、

 これだけの飯が作れるはずなんです。

 それを、配給とか、艦隊優先とか、

 そういう都合が、潰してきただけなんですよ。

 俺たちも、その片棒を担いでました。

 それは、今、はっきり認めます」

一呼吸置いて、締めくくる。

「皆さんがもっと豊かな食卓を取り戻せる余地は、

 まだあると思います。

 それだけ、伝えたくて、この放送を作りました」

カメラが止まる。収録は、それで終わりだった。


出来上がった配信データを確認しながら、

シノは、しばらく無言だった。

「言っちまったな、全部」


「言ってよかったんですか」


「隠したまま、知らん顔してる方が、

 もっと胸糞悪いからな」


その内容を見ていたベッリーニが、

画面越しに、小さく息を吐いた。

「査察に来た時を思い出すな。

 私も、貴殿の作ったピザとパスタで、

 随分と、態度を軟化させられたものだ」


「ベッリーニさんも、あれで陥落したんですもんね」


「否定はしない」

完成した配信データは、シノたちの手で、

変光星ルート経由での「デリバリー」準備に回されていった。

自分の作った一皿とシノの告白が、

これから見知らぬ人々の元へ届く。

その実感は、レイモンドにとって、

これまでのどの配信とも違う、奇妙な重みを持っていた。

(ちゃんと、届くといいんですけど)

窓の外、音もなく広がる宙域を眺めながら、

レイモンドは、そう小さく呟いた。

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