奪還の正当性を配信するって本当ですか?
1. 作戦会議、招集
アンティカの最終ステーションの一室が
作戦司令本部として使用され、ベッリーニ、シノ、ラングレー、
そしてオブザーバーとしてレイモンドが顔を揃えていた。
壁面には、テラ星系の宙域図が投影されている。
「基本の形は、アンティカと同じだ」
シノが、宙域図の一点を指した。
「大型艦は正規のタッチダウンポイント以外から入りようがない。
ベッリーニの艦隊二十隻は、そこから正面へ。
あたしらの小型艦隊は、それとは別の複数地点に、
同時多発でタッチダウンする」
ベッリーニはその意図をつかみ取った。
「通信網の攪乱と、監視衛星への工作。
陽動として、敵の戦力を分散させる、というわけだな」
「ああ。アンティカでやったことを、
規模でかくしてもう一回やるだけだ」
シノの声には、迷いのない自信があった。
2. 指揮系統を巡る軋みと、配信作戦
一通りの布陣が固まったところで、
ラングレーが争論となりそうな話題の口火を切った。
「今回の作戦、最終的な判断は、
亡命政府側で預からせていただきたい」
シノの眉が、ぴくりと動いた。
「は?」
「正統なるテラ中央政府としての体裁を整える意味でも、
指揮系統は一本化しておくべきかと」
「あたしらは、雇われたわけじゃねえぞ。
指図されるいわれはねえ」
シノが鼻を鳴らす。
だが、ベッリーニはあっさりと同意した。
「もちろんです。亡命政府がある以上、それが本来の筋だ」
テラ軍人としての矜持が、その判断を後押ししていた。
シノは、ベッリーニのその態度に、
微かな苛立ちを覚えたが、それ以上は言わなかった。
「まあ、いいさ。実務は、結局こっちがやるんだからな」
ラングレーは、如才なく話を進めた。
「もう一点、加えたいことがある。
タッチダウンと同時に亡命政府名義で、
星系内全域へ発信を行ってもらいたい」
用意していた原稿を、厳かに読み上げる。
「我々は正統なるテラ中央政府であり、
ヴァリアントの簒奪からの解放のために来た」
丁寧に、格調高く、一言一句練り込まれた演説文だった。
(この人、言葉の使い方、うますぎるだろ。
俺と、全然違う)
レイモンドは、その滑らかな語り口に、
内心少し気圧されていた。
3. 途切れない情報と、レイモンドの違和感
「航路の件も、目処が立ってる」
シノが、宙域図に新たな印をいくつも書き加えていった。
「アンティカへの亡命ルート、今も途切れてねえ。
一日に何隻も新顔が来て、
その都度、最新のテラの状況を聞き出してる。
事前偵察ができない分はこれで十分埋め合わせできる。
何せついさっきまで、あっちの星系にいた連中の話だ。
古い情報じゃねえ」
「小型艦が抜けられそうな航路の穴、この辺と、この辺。
あと、ここも、まだ手薄なはずだ」
シノの指が、迷いなく宙域図の上を滑っていく。
「あと、連絡手段の確認だ」
シノが宙域図の脇に、
六つのタッチダウンポイントを示す光点を並べた。
「言っとくが、この六箇所は、どれも正規の航路じゃねえ。
中継設備なんてもんは、当然ない」
「では、連絡はどうする」
ベッリーニが尋ねる。
「正規のタッチダウンポイントなら、
ワープ回路使った中継設備があるから、
そこを経由して超光速で連絡が取れる。
だが、あたしらが使う抜け穴には、
そんな上等なもんはねえよ。
星系内で艦載機器から直接超光速通信を飛ばそうにも、
出力が全然足りねえしな。」
「つまり、六箇所の間や我々とでは、
普通の通信に頼るしかない、ということか」
「そういうことだ。多少の遅れは、覚悟しといてくれ」
すべてが自分たちにとってうまくいく
という自信に満ちた口調を聞きながら、
レイモンドはうまく言葉にできない違和感を覚えていた。
理由は分からない。
ただ、シノの自信が、
いつもより根拠の薄い場所に立っているような、
そんな感覚だった。
「シノさん。今回、本当に大丈夫なんですか。
アンティカの時と、根本的に違う気がして」
「何だよ、今更。怖気づいたのかよ、先生」
「……怖気づいてるのは、俺だけなんですかね」
シノは笑い飛ばして、それ以上取り合わなかった。
レイモンドも、それ以上は何も言えなかった。
4. レイモンドの制約条件と、商人たちの熱狂
作戦会議の締めくくりに、レイモンドは、
戦術には一切口を挟まず、
いつも通り生活者としての要望だけを付け加えた。
「テラの住民区画は、絶対に巻き込まないでください」
「投降した敵兵、ちゃんと飯食わせるんですよね」
「それと……分が悪くなったら、
意地張らずに、退いてください」
その最後の一言に、誰も、特別な重みを感じてはいなかった。
一方、シノたち野良艦隊の間では、
すでにテラ解放後を見越した皮算用が始まっていた。
「テラが取り戻せりゃ、うちの流通網、一気に広げられるな」
「向こうの旧市場、押さえた者勝ちだぞ」
「レアメタルの値、今のうちに決めとくか」
まだ何一つ取り戻していないというのに、
商機を前にした現場は、
すでに勝った後の話で盛り上がっていた。
5. 出撃前夜
アンティカの補給ドックに、出撃を控えた艦艇の明かりが並ぶ。
ベッリーニは、旗艦のブリッジで静かにその光景を眺めていた。
(以前は地方の代議員一人を黙らせるだけの任務だと、
侮っていた。
それが今は、本国奪還の指揮官として、
艦隊を率いようとしている)
誇りと微かな重圧が、同時に胸の内にあった。
仮設庁舎の一室では、ラングレーが、演説文の最終調整を続けていた。
一語一語、丁寧に手を入れるその姿には、迷いがなかった。
その様子を、少し離れた場所から、レイモンドは眺めていた。
(みんな、自信満々なんだよな。
俺だけ、なんか、落ち着かないっていうか……)
理由の分からない不安を、
レイモンドは言葉にできないまま、胸の内に抱えていた。
6. 締め
翌朝、ベッリーニの艦隊二十隻、
そしてシノの小型艦隊が、次々とワープアウトしていく。
テラ方面へ向かう航跡が、宙域図の上に、幾筋も伸びていった。
その光景を、アヴァロンの代表執務室から、レイモンドはただ見つめていた。
(今度も大丈夫なんですよね?)
その問いに、答える者は、誰もいなかった。




