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底辺配信者を星系議員にしたの、あたしたちだって本当か?

今回はなぜレイモンドが勝ったかの種明かしです。

1. 上前をハネられる稼業

あたしの名前はウラガ・シノ。

自由商人、って聞こえはいいが、

要するに小型艦一隻で星系間をちょこまか動き回って、

荷物を運んで小銭を稼いでるだけだ。

載せている荷は多岐に及ぶ。

アヴァロンとヴォルテックスの間の食材を運んでいることが多いが、

時々遠くまで出かけてちょっとやばい荷物を運んだりもする。

テラとの取引は額もでかいが、

アンティカ経由の「輸送税」とかいう名目でごっそり持ってかれる。

テラはもともと人類発祥の地だってだけで、

まるであたしの稼いだ金を自分の財布みたいな顔して上前をハネやがる。

ヴォルテックスで新しい食材を見つけた採集者たちと組んで、

意気揚々とテラに売るための登録申請を出したこともあった。

返ってきたのは、審査基準がどうとか、

安全性の確認がどうとか、御託を並べた却下通知。

そんな無駄になった努力の痕が何枚あるかわからない。

あたしはその通知をわざわざ紙に印刷して艦の壁に貼ってある。

ムカつく時に見て、やる気を出すためにな。


そんなあたしが、ある男の配信にハマったのは数か月前のことだった。

レイモンド・クラーク。はっきり言ってぱっとしない。

登録者数から見れば底辺グルメ配信者。

ただ、あいつはただのグルメ配信者じゃない。あたしにはわかる。

あいつがヴォルテックスの海洋生物を使った寿司を配信した回、

あたしは涙が出た。

好き嫌いのはっきりする、あの魚の癖の強さを、

ちゃんと美味い美味いって食ってくれた。

ちゃんと現地のことが分かっている配信者はそうそういねえ。


2. モニター前の震え

その日、あたしはアヴァロンの宇宙港で整備をしながら

あいつの配信をリアルタイム視聴していた。

ヴォルテックスのスパイスカレー回。

いつも通りうまそうに食っていたあいつが、

コメント欄に反応して、急に喋りだした。


「テラが欲しいのは効率重視のプランテーションみたいな

 単一品種だけなんですよ」


あたしは整備の手を止めた。こいつ、分かってる。

あたしがずっと腹の中でグルグルさせてた不満を、

そのまま言葉にしてくれやがった。

その夜遅く、あいつのSNSに一つの投稿が上がった。


『自治政府代議員選挙 立候補いたしました!

 アヴァロンの豊かな食卓を守る! 画一的なプランテーション化にNO!

 中央のまずい飯にNO!』


「は?」

あたしは誰もいない艦の中で声を出してしまった。

「マジかよ、あの野郎……」

あいつはこれまでの配信でずっと飯の話しかしてこず、

政治なんてこれっぽっちも語らなかった。

それなのに、ここに来て動き出した。

今がその機会と見たのだろう。


「ヴォルテックスの寒暖差の話も、

プランテーション政策の弊害も……全部こいつなら代弁してくれるかも‼」


あたしはその場で、艦の壁に貼ってた却下通知を剥がした。

「よし。あたしがやってやる」

ムカついている場合じゃない、今こそ変える時だ。

なぜかそう直感した。


3. 口説き

翌日から、あたしは動いた。

まず声をかけたのは、あたしと一緒になって

ヴォルテックスの新食材申請を却下された農業や漁業採集船の連中。

体内時計がバグる環境で一獲千金を夢見ている奴ら。


「なあ、聞いたか。あのレイモンド・クラークが選挙に出た」

「お前がやけに執着しているあの配信者か? 何の冗談だ。

 飯しか語れないあいつが政治なんて」

「確かにあいつは飯の話しかしねえ。でもそれでいいんだ。

 あたしらが欲しいのは、自由に商売ができて、

 まずい飯に文句が言える生活だろ。

 あいつはそれを、代わりに言ってくれる男なんだよ」


半信半疑の顔をされたが、あたしは構わず続けた。

「新食材の申請、何回却下された。

 それだけじゃねぇ。テラから輸入税、ずっと上がりっぱなしじゃないか。

 テラの言いなりの代議員なんて要らねえ。

 でも、自治拡大派もなんかいけすかねぇ。

 だったら、自由な飯にだけこだわる馬鹿を一人

 送り込んでやろうじゃねえか」


一人、また一人。市場の連中、酒場のツケがたまってる若い衆、

輸送税に苦しんでる小型艦乗りの仲間たち。

あたしは片っ端から口説いて回った。

まだ組織なんて呼べる代物じゃなかった。

でも、確実に人の輪は膨らんでった。


4. 煽り

立候補から一週間経った次の配信日、

あいつの海鮮特集の配信を覗いたら、案の定、

当選する気なんてないみたいな弱気なことを喋ってた。


「最近、登録者数が増えてきています。

 ご登録ありがとうございます。

 これも立候補のおかげだとは思いますが、

 私みたいな底辺配信者がまさか当選しないと思うんですけど」


あたしはカチンときた。

こっちは忙しい中、お前を当選させようと勝手にだが必死にやってんだ。

当の本人がそんな弱気でどうする。だったら発破をかけてやる。

あたしはハンドルネームShivraで、コメント欄に殴り込んだ。


『そんな自信がないってことはグルメも本当はわかってないんじゃないっすか。

 じゃあ聞きますけど、アヴァロン星系のブリとヴォルテックス星系のブリ、

 握りで食べ比べたらどっちが上か、ちゃんと言えます?

 言えないなら、その程度の配信者ってことですよね』


我ながら性格の悪い挑発だと思う。

でも、あいつがどう出るか、見てみたかった。

案の定、あいつは食いついきて、両者の違いを熱く語りだし、

しかもその場で食べ比べを始めやがった。


あいつの語りを聞きながら、あたしはモニターの前で一人でニヤついてていた。


「どっちが上とかじゃなくて、両方あるから俺たちの食卓は豊かなんです」


そうだよ、それだよ。

あんたに言ってほしかったのは、そういうことだ。

あたしが切り抜いた配信は瞬く間に広がった。

その手ごたえを感じて、あたしは一人画面の前でガッツポーズをしてしまった。


5. 秘密

正直に言うとあいつはShivraが何者かわかってない。

勝手にやつを支持して、街で横断幕を掲げて、

農家を口説いて回ってるのが、コメント欄で喧嘩を売ってきたあのShivraだって、

これっぽっちも思ってねえだろう。

言うつもりもない。言ったら、なんか、負けた気がするから。


徐々に成果が見えてきたと思った告示日から三週間目、

あいつがキッチンスタジオを借りて、

投げやり飯と中央標準食を食べ比べる回をやった時も、

あたしは仲間たちと一緒に画面にかじりついてた。


「効率だけ求めた先に、これしか残らないっていうのが、

 俺はちょっと嫌なんです

 投げやりでもうまくやれば標準食よりはるかにうまいんです!」


「聞いたかよ、今の」

隣にいた若い衆に肩を叩く。

「あいつ、政策なんて一言も言ってねえ。

 でも、あたしらが欲しかったもんを、全部言ってくれてるじゃねえか」


この頃には、

あたしらの動きはもう一人二人でどうこうできる規模じゃなくなってた。

ヴォルテックスの食材を活かした料理屋連中、

輸送税に苦しむ乗組員仲間、

テラで差別され出世できず出戻ってきた留学帰りまで、

いろんな連中が勝手にあいつに乗っかってきた。

あたしが始めたことのはずなのに、

いつの間にか、あたしですら全体像が見えなくなってた。


6. 開票日

開票日の夜。

あたしは仲間たちを連れて、レイモンドの家の近くの居酒屋に陣取ってた。

「当選するかな、シノさん」

「するに決まってるだろうが。あたしらがここまでやったんだ」

強がって言ったが、内心は分からなかった。

頑張ったといっても所詮は素人。

相手は本職の政治屋だ。あいつはただの飯食い配信者。

勝てる保証なんて、あるはずなかった。


開票速報が流れる。

『当選確実:レイモンド・クラーク(3位)』


「は?」

あたしの間抜けな声は、周りの歓声にかき消された。

仲間たちが飛び跳ねて抱き合っている。涙ぐんでる奴までいる。

あたしは、いきなりマスコミの前に立たされて

間の抜けた顔でインタビューを受けている奴をモニター越しに見て、

笑いが込み上げてきた。


「行くぞ、お前ら」

いてもたってもいられなくなり、あたしは家の前に押しかけた。


「レイモンド先生! テラの野郎どもに一泡吹かせてやってくださいね!」

自分で叫んでおいてなんだが、あいつはあたしが誰だかまだ知らないはずだ。

あいつにとっては青天の霹靂だろうよ。で

も構わない、あいつなら何かやってくれる、

期待が確信に変わった瞬間だった。

レイモンドの当選までの軌跡いかがだったでしょうか。

もし今後の彼の活躍に興味を持っていただけるなら、

応援などいただけると励みになります。

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