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アンティカはどうしたらいいんですか?

1. 報告書、議会へ

臨時議会に、一枚の報告書が回覧された。

「アンティカ資源星系の現況について、報告いたします」

情報担当の議会職員が、淡々と読み上げる。

「アンティカは、

 これまでテラの出先機関が管理する形で運用されてきましたが、

 今はヴァリアントの艦隊が進出しているそうです」


議場がざわついた。

「ご存知の通り、アンティカは大規模な定住人口こそありませんが、

 採掘施設、精錬プラント、補給ドックを備えた、

 この方面における最大の交易拠点です。

 艦艇建造に不可欠なレアメタルの主要産地でもあります」


職員は、資料の一点を指し示した。

「加えてアンティカはテラの隣になります。

 そのため、この宙域を経由しなければ、

 当星系からテラへの効率的な航路は成立しません。

 つまり、アンティカを押さえられることは、

 単なる資源確保にとどまらず、

 この方面全体の交通の要衝を押さえられることを意味します」


レイモンドは、資料に目を落としながら、内心で唸っていた。

(要するに、あそこを取られたら、詰むってことか)


2. 共和党の主張

真っ先に立ち上がったのは、モリタだった。

「これは、放置してよい問題ではありません」

普段の穏やかな口調とは違う、切迫した声だった。

「アンティカがヴァリアントに接収されたら、

 奴らが交通と資源を丸ごと手中に収めることになる」


「だから、どうしろと」

デュボワは不満げな声を出した。

「アンティカを、うちが押さえろとでも?」


「その通りです」

モリタは、まっすぐにデュボワを見た。


「今のうちに、アンティカへの艦隊派遣を要請し、

 確保すべきです。放置すれば、

 後で取り返しのつかないことになる」


3. 自由党の主張

デュボワは、鼻で笑った。

「馬鹿げてるわ」


「馬鹿げている、とは」


「アンティカは、元々テラの出先機関よ。

 これは、テラの内輪の話。

 うちが首を突っ込む理由なんて、どこにもない」


デュボワは、議場を見回した。

「うちは、ようやくテラの締め付けから解放されたのよ。

 それを、また別の火種に首を突っ込む。

 艦隊出撃を要請したら、責任はこちら?

  ヴァリアントを刺激するだけじゃない。

 テラの残り火に足を突っ込むのも、

 ヴァリアントに睨まれるのも、両方御免よ」


「刺激するも何も、放っておけば、

 いずれこちらに直接影響が及びます」


「それは、いずれの話でしょう。

 今、確定していない脅威のために、

 艦隊に動いてもらうリスクの方が大きいわ」


4. 決められない議会、再び

「だから、この星系は、いつも何も決められないんだ」

苛立った声が、議場のどこかから漏れた。

賛否は、これまでと同じように真っ二つに割れた。

自治拡大派は「余計な干渉は避けるべきだ」、

中央もはや中央とも呼べなくなった旧共和党勢力は

「今動かねば手遅れになる」と、それぞれ譲らない。


代表であるレイモンドに発言が求められても、

彼にできることは、何もなかった。

「あ、あの、俺は……その、どっちの言い分も、正直……」

その曖昧な発言は、どちらの陣営からも

「回答になっていない」と一蹴された。


議会は、この日も、何も決められないまま散会した。

(……また、これかよ。アンティカがどうなろうと、

 俺には決められないってことなのか)

執務室に戻ったレイモンドは、天井を見上げた。


5. 業者たちの焦り

議会が空転している間にも、現場では、切実な問題が広がっていた。

アンティカのドックや精錬施設に出入りする、

自由商人や小型艦乗りたちの間で、動揺が広がっていた。


「アンティカ、どうなるんだよ、これ」

「議会は決められない、

 ヴァリアントが完全に支配した

 俺たちどうやって稼げばいいんだよ」


彼らにとってアンティカは、単なる資源星系ではなかった。

レアメタルの取引、補給、中継。

日々の稼ぎの、少なからぬ部分が、

あの星系を経由する物流に依存していた。

もしあそこが完全にヴァリアントの管理下で

厳格に管理されるようになれば

彼らの商売の多くは立ち行かなくなる。


6. シノたちの内緒話

その夜、シノの艦のブリッジには、

いつもの仲間たちが集まっていた。

「で、どうすんだよ、シノさん」

若い衆の一人が、不安げに尋ねた。

「アンティカが締め付けられたら、

 俺たちの商売、半分近く飛ぶんじゃねえか」


シノはしばらく黙っていたのち、口を開いた。

「……半分どころじゃねえよ」

その声には、いつもの威勢の良さがなかった。

「お前ら、忘れてねえだろうな。

 あたしらが、あそこを経由して、

 さらに普通なら使わない変光星越しにどこに荷を運んでたか」


場の空気が、一瞬で張り詰めた。

一人が、恐る恐る口を開く。

「ヴァリアン……ですよね」


「ああ」

シノは、短く肯定した。

「テラの目が届かない航路だったからこそ、

 あたしらは、あそこを通って、ヴァリアントにも荷を流してた。

 正規ルートじゃ手に入らないもんをこっそりな。

 あたしらにとっちゃ、ただの商売相手の一つだった」


「でも、それ……今、口が裂けても言えねえやつじゃないですか。

 ヴァリアントは、もう、うちの星系を脅かしてる相手ですよ」


「分かってるよ、そんなこと」

シノは、苦い顔をした。

「先生にも、議会にも、口が裂けても言えねえ。

 あたしらがあの変光星越しの航路をこれまでどう使ってきたか。」

沈黙が、ブリッジに満ちた。


「とにかく、今は、動くに動けねえ。

 議会が決めるのを、待つしかねえのか」


「いや」

シノは、正面の宙域図を睨みながら、低く呟いた。

「議会が決めるまで待ってたら、

 いつまで経っても、何も決まらねえよ。」

仲間たちは、誰も、その言葉を否定できなかった。


7. 締め

その頃、レイモンドは、執務室で一人、資料を見つめながら、頭を抱えていた。

(アンティカ、放っておいていいのかどうか、

 俺にも分かんない。

 デュボワさんの言うことも、モリタさんの言うことも、

 両方分かる気がするし。アンティカどうすりゃいいんだよ。)

窓の外、夕暮れのアヴァロンの空を見上げる。

議会でも、代表室でも、答えは出ないままだった。

だが、その埒外でシノたち野良艦隊の中だけに、

もう一つの誰にも言えない事情が、陰で燻り続けていた。

シノたちが何を運んでいてどうなるのか。

ぜひこれからもお楽しみに

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