第二話
仕事帰りのサラリーマンと学生でごった返す夕方の電車は、頭上に隕石があっても本数を減らすことは無かった。
12月になれば、とうとうクリスマスに浮かれ出す始末で、さすがにどうにも違和感が拭えないものだった。
流星かミサイルか、今もどこか遠くで幼い少女は祈っているのだろうかと、空を照らすあの炎を見て思う。
確かに、人の死のニュースは爆発的に増えたし、戦争が今もどこかで起こっている。
どこかの国が地球以外に居住可能な惑星を発見しただとか、宇宙船を開発しただとか。
東京は星が見えないと、現代の詩歌は多く歌ってきたが、その点でいえば今や対等に、空を照らす炎によって星は見えずらくなっている。
クリスマスの恋人達は、今年はあの隕石に向けて祈るのだろう。
地球最後の日に何をするかと、有名な問いがあるが今や毎日が地球最後の日である。
なんとなく、家に帰る気になれなくて折り返しの電車に乗って遠くの大きな、星が見えると有名な公園に行った。
地球最後の日には、少し寄り道をすべきだと思ったからだ。
人間は変わらなかったが、何も変わらなかった訳じゃない。
誰しもが薄らと感じている滅びの予兆は、どうやら家族や恋人を大切にするなどという、俗人的な欲望を酷く刺激したらしく、平日19時の公園には人っ子一人見ることは出来なかった。
イヤホンの越しの音楽が妙に虚しくなって、何もなしに空を見上げていたら、電話をしているサラリーマンが通った。
「あぁ、うん、もうすぐ帰るよ。 チキン、受け取ってくれてありがとう。ケーキもなんとか買えたよ、すぐに帰るから、子供たちにもそう伝えておいて。」
人間の優しい声というのを久しぶりに聞いた気がして、少し驚いてしまった。
しばらく空を見上げて、隕石の向こうに星が見えないかと目を凝らしていた。
「そうやって星を見るの、まだ好きだったんだ。」
酷く長い間聞いていなかった気がするのに、スっと耳に入ってくるような耳馴染みのいい声がした。
振り向くべきだ、立ち上がるべきだ、なんなら抱きしめたっていい、幻覚だっていいじゃないかと思う。
どうせ地球は滅びようとしているのだ、人生の最後の短い期間を、もう会えない友と過ごせるのならこれ以上のことは無いだろうと思う。
それでも、振り向けなかった、動けなかった、星を見たげたままで、この頬に手が添えられるのを待っていた。
「あさひ?」
酷く嗄れた、幼い声が出た。
「ううん、きっと、あなたが思っているような人じゃないと思うよ。 私はあなたが知っている井端朝日じゃない。それでも、会いたかったんだ。」
鈴の音のような声で、酷く愛おしげにそう呟いたあと、空を見上げたままの私の頭上に、その女性が姿を表した。
井端朝日、私の親友がそのまま大人になったような姿だった。




