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星降る夜になったら  作者: 立川南


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第一話

その火は燃えていた、ゴウゴウと音を立てて燃えていた。

この世から枯れゆく情念を絶やさざるべくして燃えていた。

その火は燃えていた、夜に抗う夕日のように煌々と燃えていた。

その輝きこそが生者に許された特権であるというように、命を燃やして燃えていた。

その火は涙にも似ていた、自殺志願者を悼む浅ましくも貞淑な涙にも似ていた。

その火は命を燃やしていた。

その火は、私の友達を燃やしていた。


井端朝日が火事で死んでから今日で丁度三年になる。

当時中学二年生だった朝日は夫の不倫により取り乱した母親に無理心中に巻き込まれ、その十四年の生を終えた。

正直に言えばくだらないと思った。

朝日は優しい子だった、もう声も覚えてはいないけれど優しい声をしていたと思う。

運動ができた、頭が良かった、優しかった、可愛かった、だから皆彼女の死を悼んだし、葬式で涙を流していた。

くだらない、くだらないと思う。

たかが男に振られただけだ、たかが自分のプライドを傷つけられただけだろう、そんな安い理由で朝日はその生を奪われた。

文字になった、数字になった、クラスメイトが乗り越えるべき青春の壁の一つになった、大人の失敗の1つになった、画面の向こうの誰かが悼むだけの憐れな存在になった、もう誰も井端朝日を思い出すことは無くなった。

朝日はその死因すらも世間に暴かれ、憐れみの対象となっていった、その中の誰も、朝日を焼いたあの炎を見てはいないのに。

2年前のあの日、朝日と最後に一緒にいた私は彼女の家庭が上手くいっていないことを知っていた。

リフレッシュだなんだと言って買い物に出かけた、フードコートでご飯を食べて、午後にはカラオケに行った。

今になって思えば、カラオケのフリータイムに付いてきた無料のソフトクリームが彼女にとって最後の食事だった。

最寄りからの帰り道、私と朝日が別れる分岐点で私達は当たり前のように明日を約束した、彼女は少しだけ

困った顔で返してくれた。

彼女の心の陰は家庭環境の急な悪化に起因するもので、自分がこのあと死ぬだなんて思ってもみなかったはずだ。

それなのに、あの時の困った笑顔が妙に頭にこびり付いて離れなかった。

家に帰ってシャワーを浴びて、夕ご飯を食べ終わった頃に家の前を何台ものサイレンが通りすぎていった。

不思議な予感があった、朝日の笑顔が急に頭に浮かんで、次の瞬間には走り出していた。

朝日の家が近くなり、サイレンの音はもう聞こえない、角を曲がると朝日の家が燃えていた。

夥しい火の赤と、そこに停車した消防車のサイレンの赤が一帯を照らしていた。

朝日の家はもう形を保ってはいなかったし、その他にも何かがあったのかもしれないが、とにかく私の頭はその瞬間には酷く冷めていて、ただ呆然と炎を見つめていた。

それ以降しばらくの記憶はない。

体育祭も、文化祭も修学旅行も高校受験も卒業式も、目立つような思い出が出来ることはなかった。

高校に入学してからも、友人を作っては流れていく日々に身を任せていた。

あの火を知らない世界が増えていく、あの火を知らない人間が増えていく、この増えていく世界を朝日は知ることが出来ないことが何よりも腹立たしかった。

高校2年の夏、期末テストを終えた頃の話だ。

空に大きな隕石が現れた。

ゴウゴウと炎を纏って、あの夕日紛いの明るさで、次はその強大さで全人類を照らすように。

不思議なことに、その隕石は地球の上空で動きを止めたらしい。

科学的にはありえないことだとか奇跡がうんたらだとかが連日ニュースで流れ続けていた。

縋り付けるだけの希望を、世界は用意する必要があった。

ただ止まっているだけで、その隕石が落ちれば地球がただで済まないことは、科学者でなくてもわかることだった。

それでも人間は変われなかった。

戦争が起こった、電車は動いた、学校が再開した、終末論者が金を稼いだ。

私だって、隕石が然程怖くはなかった。

隕石が纏うゴウゴウとした炎は、あの日朝日を焼いたものと重なって見えた。

次はどこかの神様だか大統領かが男に振られたんだと思えば、少し笑える気がした。

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