05
喉の奥で、空気が変な音を立てるのと、知ったふたりの「あれ?」という気の抜けた声がきれいに重なった。
「つくづく、縁というものは絡み合うものだな」
半ば呆れたように、オノンが小さく微笑む中、同じようにルミアも呆れたように腰に手をやっていた。
「何とか機関って、2、3人とかでやってる小さな組織なの……?」
「さすがに数百人規模だよ。世界中に散らばっているから、地区としては、数十人だけどね」
「だとしてもさぁ……」
「まぁ……うん」
言いたいことはわかる。とばかりの、普段とは少し違う雰囲気のオノンに、グランもついふたりを見比べてしまう。
「お、お知り合いですか……?」
絞り出した問いかけに、ふたりは静かに目を合わせると、オノンは小さく目を閉じ、ルミアも目を逸らした。
「魔法使ってたら、声をかけてきた。ちょうどいいから、魔法の詳しい本持ってきてもらってる」
「勧誘は断られたが、魔法に関する協力はするというから、魔導書などを渡している」
お互いに、淡々と答えるその答えが、グランの疑問への完全なる回答だった。
「なるほど……ルミアさんが、やたら魔法に詳しい理由が分かりました……」
元からオノン、つまり、魔法遺物管理機関とルミアは関わりがあったというわけだ。
だから、魔導書や魔道具が部屋に転がっていた。
「遺管については教えてましたよね? なんで、知ってることを教えてくれなかったんです?」
ルミアと魔法遺物管理機関が既に繋がっているなら、ここ数日のグランの悩みはそもそも必要なかったことになる。
グランの少し拗ねたような疑問に、ルミアは不思議そうに、しかし、明らかに眉を潜めていた。
「そんな、明らかに胡散臭い組織、なんで知ってること言わないといけないのさ」
「うさ――胡散臭くないですよ……!?」
「見た目で言うなら、私が一番、胡散臭くないからね」
「そんなことは――」
肌をひとつも見せない布で覆われた大男。
近辺の警備隊ではないが、傭兵と呼ぶには身なりの良い刀を携えた眼帯をつけた男。
この町に住む一般的な服を着た女。
「――な、いとは言えませんが」
背中を丸めるグランと、小さくガッツポーズをつくるルミアに、オノンは小さく笑みをこぼす。
「随分と、仲が良さそうだな」
「最近、グランには家で小言言われてるからね。少しくらいやり返さないと」
「あまり私の弟子をいじめてくれるなよ」
そう口にする割には、随分とオノンも、楽しそうに目を細めていた。
「それにしても、グラン。お前、ルミアの家に行っているのか?」
少し意外そうにグランに尋ねるオノンに、グランも丸まっていた背を伸ばして、慌てたように首を横に振った。
「いや、その……!! 女性の家だとは知っていたのですが……!! 成り行きで……!!」
「確かに、あまり関心はしないが……」
ほんの一瞬、ルミアの方へ目をやるオノンに、ルミアも肩を竦めてみせた。
「雨の日に野宿しろって? 人の心はないのかねぇ。この師匠は」
全く気にしていそうにないルミアの言葉に、オノンも呆れたように眉を下げた。
「そうだな。お前も、グランの事を気遣ってくれたのだろうから、私からも礼を言わせてほしい」
グランが獣人であることを知った上で、この態度を取れるのだから、確かにグランも懐くかもしれない。
オノンも小さく口元に笑みを浮かべていたが、ふと思い出したそれに、口端が下がる。
「しかし、あの汚部屋か……グラン、体調に変わりはないか?」
「舌の根どころじゃないだろ。どういう意味だ」
先程まで、ルミアに下手に出ていたはずのオノンが、すでにグランの体のことを心配し始めていた。
もはや、ルミアが文句を言うことにすら、軽く呆れるように視線を鋭くさせている。
「お前は、魔導書を積めば片付けたというだろう。何度も言うが、それは片付けではない」
オノンの後ろで、やたら何度も頷いているグランに、ルミアも不満気に眉を潜めた。
「ちゃんと積んでるなら、片付けでしょ。というか、今はグランが片付けてるから、だいぶちゃんと片付いてますぅ」
「まったく……」と呆れているルミアに、こちらの方が呆れたいとばかりにオノンの眉間には皺が寄っているが、ふと肩に触れた大きな手。
グランだった。
「……師匠も、ルミアさんの家に来ましょう?」
元々、もう少し話をしたかったとはいえ、弟子から感じる妙な圧に、オノンも眉間の皺がより深くなるのだった。




