04
なんだかんだと、魔導書や魔道具の散らばる部屋が心配で、ルミアの部屋に居座ることが増えたグランは、小さくため息をついていた。
「そもそも、あの人がだらしないのが問題で……やっぱり、遺管に連絡して……いや、でも、それだとルミアさんが……」
魔導書や魔道具の回収は、魔法遺物管理機関に依頼したい。
だが、依頼をすれば、ルミアの存在を報告することになる。
自分の姿を受け入れて、店にも黙ってくれているルミアに、自分だけがそんな裏切るような行為をしてよいものか。
いや、それは不義理と言えるだろう。
グランは、答えの出ないことを考えては、また肩を落とすしかなかった。
「グラン」
そんな中、聞こえたグランを呼ぶ声に、マントの下で、グランは尻尾を立てて振り返った。
「師匠……?」
そこに立っていたのは、グランの師匠であるオノンだった。
相変わらず、穏やかな魔力の巡りで、グランに軽く手を振っていた。
「久しぶりだな」
「お久しぶりです!」
きっとマントが無ければ、グランの尻尾は良く振られていたことだろう。
だが、その尻尾が見えなくても、その声が気持ちは物語っていた。
「魔獣討伐の報告は聞いたよ。よくやったな。怪我はないかい?」
しかし、オノンの”魔獣討伐”という単語に、尻尾も声の上擦りも止まる。
魔獣の討伐についての報告はしたが、まさかオノンが関わると思っていなかった。
獣に比べれば少ないが、魔獣の素材の剥ぎ取りは解体業が行い、買取もオノンではなく、もっと下の人間が行っている。
バレているはずがない。
ほんの数瞬の間に、自分にそう言い聞かせると、グランは頷いた。
「そうか。良い切り口だったから、私も心配はしていなかったが、怪我がないならよかった」
「師匠、魔獣の死骸を見たのですか……?」
「問題があったかな?」
「そういうわけでは……」
背中にイヤな汗が流れ、心臓がひどく高鳴っていた。
ルミアに、自分が獣人だとバレた時か、それ以上の心臓の高鳴りだった。
「妙な傷があったから、何かあったのかと思ってね」
やはりと、冷たいものが背中を流れていく。
オノンは、自分の刀とは別の傷に気がついて、わざわざ声をかけてきたのだ。
「…………その、えっと」
オノンが見た魔獣の姿は、解体業が素材を剥ぎ取った後だ。
だから、ルミアの魔法の攻撃の痕跡をはっきりと見たわけではないはずだ。
気になっているのはおそらく、ルミアが雑に引き抜いたボーシット・フラワーの球根の痕。
「花が、咲いていて」
「花?」
「魔獣の体に、花が、咲いていたんです。体内に、球根があって」
嘘は言っていない。
ルミアがよく使う言い回しだ。
真実を知っていたら、物申したくなるが、知らなければ案外、納得してしまう。
「なるほど……だから、爪や牙の状態が悪かったのか」
グランの思惑通り、納得したオノンの様子に、グランも心の中で胸を撫でおろす。
「魔力に寄生する花は、確かにいくつか存在はするからな。それで、その花はどうした?」
「燃やしました」
ルミアが。
マリッジ・アルテミスフラワーは、綺麗な花だからと残してもらって、今もルミアの部屋に飾ってあるが、球根や赤黒い花は、その場でルミアが燃やしていた。
それはもう、容赦なく。
「そうか。それなら構わない」
「はい」
少し、心が痛んだ気がした。
「それで、師匠はどうしてここに?」
これ以上、魔獣の話をされたくないと、グランが話題を変えれば、オノンも特に気にした様子もなく、言葉を返してくる。
「近くで調査をしていてね。この町には、知り合いもいるから、ついでに寄ったんだ」
「そうだったんですね」
「お前も確か、マリッジ・アルテミスフラワーだったか。を探しによく来ていたな。何か情報は手に入ったかい?」
「はい!」と言いかけて、言葉を飲み込む。
オノンの事だ。グランの探していた、マリッジ・アルテミスフラワーの情報どころか、本物を見れたと口にすれば、喜んでくれるだろう。
そして、同時に何があったのかとも、流れるように話してしまうことになる。
グランは、ぐっと言葉を飲み込むと、いつものように、何の情報も無かったと口にしようとした。
その時だ。
「グランー?」
魔法使いが来てしまった。




