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獣人を拾った魔法使いは、どうやら密売組織の摘発にも巻き込まれたようです。  作者: 廿楽 亜久


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03

 部屋の隅で、大きな体を小さくしながら、本や魔道具を片付けているグランを横目に眺めながら、ルミアはすっかり温くなったお茶に口をつけた。


「なんやかんやで、自分で掃除するんだね」

「ルミアさんに任せたら、ろくなことにならないからですよ……!!」


 数分前、ルミアが適当に積み上げた魔導書たちを、グランが直しているところだった。


「魔導書も魔道具も、それだけで魔法が使える場合もあって危険なんですよ!」

「そこにあるの?」

「…………ないですけど」


 そういうことではないと、眉間にしわを寄せているグランは、収まりきらない魔導書たちにじっと見つめていた。


「捨てる?」

「捨てません」

「諦めて、こっちでお茶飲んだら? 温くなってるよ」

「…………はい」


 耳と尻尾を垂らしながら、テーブルの前に座ると、グランもようやくお茶に手を付けた。


「それにしても、ルミアさんのご家族は、魔法使いなんですか?」

「違うよ? 親のおばあちゃんだから、ひいおばあちゃんが、ちょっと魔法を使えたってのは聞いたことがあるけど、そこから私まで魔法を使える人はいなかったって」


 ルミアの四世代ほど前の話。

 おおよそ100年ほど前。そこまで時代が遡れば、確かに魔法使いは少ないが、存在はしていた時代だ。


「では、この魔導書は、そのひいおばあさんの?」

「知り合いからのもらいもの」

「どんな知り合いですか……」


 今の時代に、この量の魔導書や魔道具を所有している人など、そういない。

 それこそ、魔法遺物管理機関が目をつけている。


「そんなに変? これが、ひいおばあさんからの遺品だったら、納得するんでしょ?」

「ま、まぁ……そうですね」


 遺品整理で出てきた魔導書たちを、ルミアが興味本位で引き取ったという可能性もある。

 架空の花であった”マリッジ・アルテミスフラワー”を、路地裏の怪しい露天商に聞くような性格なのだ。ありえる。


「……怪しい露天商から買ったりは、してないですよね?」

「んー? そうねぇ……お花の種をお願いしたのに、持ってきてくれない露天商とかはいたかなぁ」

「う゛……そ、その露天商は気にしなくていいです……実際、露天商でもないですし……」


 尻尾を床にフラフラと刷り込みながら、顔を逸らしているグランに、ルミアも得意げに肘をついていた。


「と、とにかく……!! 魔導書の管理はちゃんとしてください……!!」


 その露天商の話と、この部屋に転がっている魔導書の話は別だと、咳払いと共にグランが口にすれば、ルミアも口元に笑みを浮かべていた。


「してるでしょ。危ない魔道具も魔導書もなかったんだし」

「それもう、部屋の汚い人が物の場所はわかってるって言ってるのと、ほぼ変わらないですよ」

「超変わるわ」

「変わりません」


 おもむろに、グランが、近くに転がっていた魔導書をひとつ手に取ると、テーブルに乗せる。


「では、この本の内容は?」


 テーブルに乗せられた魔導書の表紙をルミアが覗き込むと、その魔導書を手に取ろうとして、グランの手が本を抑える。


「グラン、これ裏だよ」

「表のはずです」

「目、見えてないんでしょ。裏だよ。裏」

「いいえ。表です」


 その目は物理的に潰されているにも関わらず、見えているように正しいことを言うグランに、ルミアも魔導書を引く手を強める。

 だが、グランの手はビクともしない。


「もしやとは思いましたが、さてはルミアさん、古代語は読めませんね?」

「ちょっとは読める」

「ちょっとしか読めませんね?」

「うん。だから、中を見ないとわからないんだよ。だから、素直に手を離すんだ」


 ルミアが両手で引いているにも関わらず、グランの抑えている手はひとつ。

 ビクともしていない。


「……グラン。魔導書ってさ、魔力を込めると魔法が発動するものもあるじゃん」

「ありますね」

「暴発したい?」


 予想通りではあったが、ルミアのその言葉に、グランの眉間にはひどく皺が寄り、ルミアの手から魔導書が取り上げられた。


「本当に何考えてるんですか!!」

「ちょっとずつ魔力を流せば意外といけるから!!」

「そういう問題じゃありません!!」

「そもそも、グランの方が、なんでそんなにわかるのさ!! おかしいでしょ!!」

「魔眼でなんとなく魔法の構成が見えるんですよ!!」

「なにそれおもしろそう」

「おも――――しろいかもしれませんが、それとこれは話が別です」


 大きくため息をついて、グランはその魔導書を、どうにも棚に収まりきらない魔導書たちのところに積み上げた。


*****


 魔獣の死骸を片付けている中、ふらりと現れた男に、現場の指揮を執っていた男が顔をしかめた。


「お前、確か遺管の……」

「おつかれさまです」

「お前らが欲しがってるもんは、解体して渡しただろ。まだこっちに何か?」


 あからさまな程に、しかめっ面で対応する男ではあったが、魔法遺物管理機関の眼帯をつけた男は全く気にした様子もなく、素材が剥ぎ取られた魔獣を見つめ、首を横に振った。


「いいえ。ただ、自分の弟子が倒したというものですから、様子を見に来ただけです」

「はぁ~ん……随分と面倒見のいいお師匠様で」


 皮や爪はすっかり剥ぎ取られているが、それでもわかる、四肢や首を落とした鋭い断面と、内臓を乱雑に抉り取ったような断面。

 これでは、解体と片付けを請け負っている彼らも、素材をきれいに剥ぎ取るのに苦労しただろう。


「だったら、今度からその弟子に、そこらの狼に食われるような捨て方するんじゃねェって言っとけ」

「おや、それは失礼。皮はともかく、爪や牙は状態の割には高値を出したでしょう?」

「状態は、こいつの問題で、俺たちには関係ないんだよ。買い叩きやがって」


 吐き捨てる解体業の男だったが、腰に携えている刀にすら手を触れず、余裕そうな笑みを浮かべている男に、舌打ちをした。



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