02
そんな他愛のない話をしながら倉庫の整理をしていると、ふと聞こえてきた雷の音。
「雷?」
「あぁ……そういえば、先程、雨の匂いがしていましたからね」
「…………」
「ルミアさん?」
何かあったのかと、外に目を向けているルミアに、グランが首を傾げれば、ルミアはまた視線を荷物の方に戻した。
「傘でも忘れましたか?」
「傘はないけど、晴れてたからさ」
「はい」
「枕、外に干してた」
「あぁ……」
布団も外に出していなかったことだけは、不幸中の幸いだ。
今から、慌てて戻ったところで、すっかり濡れてしまっていることだろう。
もう諦めたとばかりに、リストに載った商品を、グランの持つ箱に入れていく。
「グランは?」
「自分は、いつでも移動できるように、荷物は持ち歩いているので」
「じゃなくて、雨なのに野宿するの?」
相変わらず、グランは南の森で野宿していた。
ルミアも、詳しい場所は知らないが、いつも同じような場所で過ごしているらしい。
「えぇ、まぁ……ただ、今日は岩陰か洞窟を探そうとは思っていますが」
いつもの川原は、水かさが増える危険もあるし、一晩雨ざらしというのも、体力が奪われる。
この後、雨を凌げる場所を探す予定だった。
「マジか……今日くらい、宿に泊まったら?」
部屋にこもっていれば、宿屋だって、そうそう部屋を覗き見るようなことはしない。
だが、グランはくぐもった声を上げるばかり。
「何かあっても、その……困りますし」
グランが獣人で、人目を避けていることを知っている手前、ここまで嫌がっているなら、これ以上、宿を勧めるのは気が引ける。
ルミアも小さく視線を巡らせると、ゆっくりとグランの方へ視線を向ける。
「なら、うちに来なよ。事情は知ってるし」
「え!?」
大きく体を震わせるグランに、ルミアも淡々と言葉を続けた。
「古い……なんだろ、ボロ家だから、気を遣わなくても」
「そ、そういうことでは……!! というか、ご自身の家なのですから、もう少し優しい言い方を……」
自分の家をボロ家などと卑下するのは良くないと、グランが口にしても、ルミアも楽し気に手を横に振った。
「来てみればわかるって。ついでに、水も運んでくれると助かる」
「……それは、まぁ、構いませんが」
いくら魔法が使えるとはいえ、女性が水を運ぶのは大変だろうと、グランもおずおずと頷いた。
しかし、泊まることは断らなければと、グランは心の中で、何度も断るシミュレーションを重ねながら、ルミアと共にルミアの家に向かった。
「……ルミアさん、本当にここに住んでいるのですか?」
だが目の前の蔓に覆われた建物に、グランもシミュレーションのことなど、すっかり忘れてしまった。
土壁にひびが入り、そこから無数の蔓が伸びては、壁や階段を覆っている。
二階建てのようだが、一階はほとんど吹き抜け状態で、住める場所、というより寝泊まりする場所は二階だけだろう。
「女の一人暮らしに貸してくれる建物なんて、こんなもんよ」
収入も安定していない女性の一人暮らしに貸せるような家は、少ない。
倉庫や蔵ではなく、広さもそれなりにあるのだから、この家はいい方だ。
「ちなみに、元々罪人がこう留されてた場所らしいよ」
「…………」
すっかり水分を吸っている枕を絞っているルミアに、静かに眉間にしわを寄せたグランだった。
「まぁ、部屋の中には基本、生えてこないから」
「基本……」
たまに生えてくるということかと、ため息を漏れるのを感じながら、二階に上がる。
ルミアの言う通り、部屋の中に草木は生えていないようだ。
部屋の隅に、頼まれていた水瓶をおけば、グランはゆっくりと部屋を見渡した。
目こそ見えてないが、確かに感じる気配と何度も足に当たった感覚。
「……この散らかり具合で、よく人を呼べましたね」
つい溢してしまった言葉。
明らかに、足元に物が散らばっている。
グランの目が見えていないから、足に当たったのではない。単純に足の踏み場が少ないのだ。
その上、床に散らばっているのは、魔導書や魔道具といった、魔力の通っている物体だ。
「片付ければ、グランの寝る場所くらい確保できるから」
「そういうことではなく……!! というか、床に散らばってるの、魔導書ですよね!?」
何故、ルミアがこれほどの魔道具や魔道具を持っているのか。
それは疑問ではあったが、それよりも今は、魔導書を部屋の隅に積み上げているルミアの方が問題だった。
「積み上げることを片付けるとは言いません!! ちゃんと本棚に片付けてください!」
「この量が、本棚に入り切るわけないでしょ」
自慢気に何を言ってるのかと、グランもため息をついてしまう。
「だったら、いらないものを捨てるなり、物を減らしてください」
片付けの基本だろう。と、ため息混じりにグランが口にすれば、
「魔導書や魔道具をその辺に捨てていいわけ? ”魔法遺物管理機関”さん?」
「う゛……」
到底、肯定できない言葉が返ってきてしまったのだった。




