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荷車に乗ったルミアは、グランとオノンの姿に気がつくと、何とも言えない表情をしていた。
「いるかもなぁ……とは思ったけど、わざわざ文句言いに来た?」
「言われるようなことをしたのか?」
「してないわ。むしろ、こっちが文句を言いたいし、なんだったら、心優しいファインプレーだと言ってほしいね!」
意外なことに、魔道具の音はしなかった。
代わりに、口を塞がれている男たちが、何かを訴えるように声を上げていた。
その声に、グランが慌てて振り返るが、ルミアは小柄な男の方に目をやっては、ため息をついた。
「あ、その人」
「はい……? 知ってるんですか?」
「うちの店で白濁導水を売らないかって来て、店長も少しだけならって言い出しちゃってさ」
仕方なく、小柄な男の指定した通り、こうして荷車を引いて、仕入れに来たのだ。
本来ならクロルが取り行くところ、白濁導水であったため、適当な理由をつけて、仕入れ役を交代してもらっていた。
「それで、どういう状況……? まだ、デザートウッド見つかってない感じ?」
「いえ、その……なんとなくの場所はわかったのですが……というより、ルミアさん、こういうの慣れてるんですか?」
普通、こんな男たちが捕まっていたり、血を流していれば、多少は動揺しそうなものだ。
だが、ルミアは気にした様子もない。
魔獣の時もだが、魔法が使えるとはいえ、一般人にしては、随分と肝が据わっている。
「オノンが来る時、だいたいこんなんだよ」
「待て。それは語弊がある。数回巻き込んだことはあるが、多くはない」
どちらの言葉にも魔道具は反応しないことに、グランも静かに唸るしかなかった。
「ふぅん……」
今までの事を聞いたルミアは、小さく考えるように声を上げると、オノンの方へ目をやる。
「じゃあ、もうさっさとデザートウッド見つけちゃったほうが良くない? どうせ、警備隊が取り押さえても、オノンは呼ばれるわけじゃん?」
「そうだが、我々はふたりだからな。後れを取るつもりはないが、その方が安全だし、向こうも抵抗してこないだろう」
「そりゃ、まぁそうだけど……」
ルミアは唸るように声を上げると、杖を取り出し、構えた。
すると、ルミアの姿が消えた。
「これなら、穏便に済むんじゃない?」
またすぐに姿を現すルミアに、悲鳴を上げたのは男たちだけで、オノンは呆れたように眉を潜めていた。
「お前はまた妙な魔法を……妙なことに使っていないだろうな?」
「使ってないって」
燻った音が響く。
「その魔道具、止める方法ないわけ……?」
「わからないな」
音は鳴らなかった。
「……あの、ルミアさん。それは一体……」
「これ? これは”姿隠し”っていう姿が見えなくなる魔法で――――」
おずおずとルミアに問いかけるグランに、ルミアは自慢気に両手を広げて、今の魔法について答えるが、その途中で言葉に詰まる。
そして、ゆっくりとグランを見上げると、開きかけていた口を閉じて、手で顔を覆った。
「どうりで、グランの反応がないわけだ」
目が見えないグランにとっては、姿が見えようが見えないが、関係ない。
ひとりだけ、妙に反応がなかった理由も、本当にただただ状況がわからなかっただけだ。
「あ、いえ、ルミアさんが魔法を使ったことはわかったのですが、その……ほとんど何も変わってなくて……」
申し訳なさなのか、徐々に声が小さくなり、フードがなかったらきっと耳も尻尾も垂れていることが、なんとなく想像がついてしまった。
「大丈夫大丈夫。気にしてないって」
「す、すみません……」
大きな背を少し丸めているグランに、ルミアは苦笑いを溢しながら、手を伸ばすと、フードの下に手を突っ込んだ。
そして、案の定、ぺたりと垂れているグランの耳を「よしよーし」と撫でるのだった。
「それで、荷車とかは一旦、この辺に隠しておく?」
「行く前提にするな……確かに、その魔法はすごいが……」
”姿隠し”の魔法を使いながら侵入するなら、ルミアを一緒に連れて行かなければいけない。
それはグランとふたりで潜入する以上に、危険を伴う。
「実際やったら、ものすごく怒られるからやらないけど、関所の持ち物検査で悪いことしてみたい的な」
「絶対やるなよ」
本当にやりかねないルミアに、オノンも呆れたように睨むが、大きくため息をつくと男たちの方へ目をやった。
青い顔をしている小柄な男に、ルミアのことを何やら訝しげに見つめている男。
小柄な男はともかく、大柄な男に関しては、このまま放置してもロクなことにならない。
オノンは、何も言わず、大柄な男を気絶させると、ルミアの方へ近づいた。
「あとでこの荷車は借りていいか?」
「こいつら運ぶの……? さすがに、新品を汚したら怒られそうなんだけど……」
「今、止血してるし、しばらくしたら止まっているさ」
オノンの言葉に、ルミアもグランも意外そうに、オノンの方へ顔を向ける。
「あくまで、姿隠しの魔法だけだからな。他のことは、私たちに従う。いいな?」
「グラン。聞いた? 珍しくオノンが折れた」
「もしかして、ルミアさん、普段からこんな感じで、師匠に無茶振りしてます?」
お互いこっそりと小声で口にする言葉に、ルミアも少しだけ物言いたげに、グランの事を指さし、オノンへ目をやるのだった。




