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【短編】 盲目な君に約束の花を ~獣人を拾った魔法使いは、どうやら密売組織の摘発にも巻き込まれたようです~  作者: 廿楽 亜久


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 荷車と鳥竜、それから男たちを森の奥に隠して、ルミアたちはデザートウッドのある場所へ向かっていた。


「案外、あっさり入れましたね」


 数回、グランたちと見張りがすれ違う事もあったが、こちらに気付く様子はなかった。

 姿隠しの魔法のおかげであることは明白ではあったが、ふとフード越しに乗せられた顎に、喉の奥が唸りそうになる。


「ルミアさん。不貞腐れないでください……」

「されてませんよ?」


 声が明らかに不貞腐れていた。


 ルミアは今、グランの腕に抱えられながら、その頭を抱えるように肘をついていた。


「そもそも、根で転びそうになるからだろう」


 オノンの言葉にも、ルミアは静かにため息をつくだけ。


 ほんの数分前のことだ。ルミアは、地面を這う根に足を取られて転びかけた。

 姿が見えていないとはいえ、大きな音を立てれば、不審に思われるし、なによりその魔法を使っているルミアが転べば、魔法が解ける。

 三人の安全のためにも、ルミアはグランが抱えて運ぶことになったのだ。


「あと少しですから我慢してください」


 先程、白濁導水を採取している場所は通り過ぎた。

 それに、グランの目には、魔力を吸い上げているデザートウッドの姿が見えていた。


「はいはい」


 しかし、ルミアとオノンの目には、古い大木以外には見えない。

 さすがに、アレがデザートウッドということはないだろう。


 グランの案内で進んでいくと、ようやくはっきりと見えたその姿。


「アレですね」

「どれ」


 ルミアの声に、グランが指を指すが、頭の上から聞こえてきたのは、唸り声だけ。

 グランの視界からは、デザートウッドの木がどのようなものかはわからないが、その強い魔力の流れは、明らかに異質と言えた。


 ルミアをゆっくりと下し、目の前に見える魔力の塊へ視線を向ける。

 オノンの話では、その魔力の塊を切れば、デザートウッドは完全に成長を止める。


「もしかしなくても、これ……?」


 グランが魔力を見定めている間、ルミアが怪訝そうな顔で、その魔力の流れを掴んでいた。


「おそらく」


 オノンの言葉に、グランも頷くと、ルミアは表情を歪めていた。

 ルミアが掴んでいたのは、確かに感触や見た目こそ木の幹ではあるが、女性の手でも掴めるほど細い木だった。


 根と幹の太さはほとんど変わらず、自立するのも難しいのか、横の大木に絡みついている。


「蔓じゃん……もっとこう、シャボテンみたいなさ……!!」

「シャボテン……」

「トゲトゲの……触ったことない?」

「危ないから触らせたことはない。そうだな……アロエルみたいな植物だ」


 アロエルなら、触ったことがある。火傷に効くという中身に水分を多く含む植物だ。

 どうやら、見た目は似ていないらしい。


「まぁこれがそうっていうなら、いいけどさ……それで、この木、どうするの?」

「切る」

「……まぁ、この太さなら確かに、切れるだろうけど」


 木を切るとなれば、重労働だろうが、この細い木であれば、比較的簡単に切れるだろう。


 グランの目から見ても、オノンの目から見ても、まだ種らしきものはできていない。

 ならば、魔力を吸い上げている木の生命線を断ち切れば、この木は枯れる。


「いけるか?」


 先程から、魔力の溜まっているであろう場所を見つめているグランに、オノンが声をかければ、グランも頷き、刀に手をかけた。


「いけます。ルミアさん。離れてください」


 ルミアが離れると、グランもゆっくりと刀を抜くと、その魔力の固まっている場所へ、刀を振り下ろした。


 魔力の流れが断ち切れるのは一瞬だった。


「終わった感じ?」

「はい」

「素晴らしい太刀筋だったな」

「ありがとうございます」


 オノンに褒められ、尻尾が揺れ動くのも束の間。

 グランとオノンは、何かに気がついたように振り返ると、ルミアを抱えて、木の裏に隠れた。


 聞こえてきたのは、慌てた足音。


「別に何も異状ないじゃねェか! なんで、いきなり止まったんだよ」

「俺が知るか――って、ここ、切れてんじゃねェか!!」


 どうやら、デザートウッドの切ったことで、白濁導水の採取も止まったらしい。

 しかも、その幹には、明らかに人為的な刀の傷。

 商売をしているのならば、犯人が近くにいるのではないかと、探し始めるのは道理だ。


 足音が近づく中、ルミアはグランの腕の中で、ゆっくりと杖を構えれば、杖ごと静かに抑えられた。

 オノンも、静かにと口の前で、人差し指を立てていた。


「…………」


 ルミアも視線だけで文句を返せば、オノンはそっと視線を足音の方へ向けた。


「こんなのバレたら、頭にドヤされんぞ」

「とはいえ、売上悪いんだろ? 今日だって、どっかに買い取ってもらえるか、聞きに行ってるって話だしよ」


 声がすぐ近くを通っていく。


「こんな水が豊富なとこで、水が売れるわけないだろ。頭に、商才はねェんだって」

「それ聞かれたら、マジでドラされんぞ」

「真っ当な商売がうまくいった試しがねェんだよ」


 笑い声と足音が遠ざかっていく。

 ルミアが自然とそちらに視線を向けていると、グランにまた抱えられると、耳元で小さく囁かれる。


「走ります。捕まっててください」

「ぇ」


 「何故?」と聞き返す間は無かった。

 素早く立ち上がったグランとオノンは、一目散に走ると、男たちの目を盗んで、森の中に消えて行った。


*****


「あ゛――――疲れた……」


 数時間後、ルミアは疲れたようにベッドに寝転がっていた。


 あの後、荷車に乗せて、男たちを領主直轄の警備部隊に引き渡し、ルミアは仕事に戻った。

 戻ったのだが、


「遅いから心配したよ! って、グランじゃん!!」

「大丈夫!? 風邪!? ぎっくり腰!? パワハラ!?」


 店に戻って開口一番がこれだ。


 受け取っていない白濁導水については、オノンが領主からの命令で取り締まりが行われていると、説明がされた。

 取り締まりという言葉に、店主はすぐにまだ取り扱っていないと言い訳をしていた。


「いえ、ここには取り締まりに来たわけではなく、彼女に協力をして頂いたものですから、お礼を言いに」

「そ、そうでしたか。いや、ルミア! よくやった!」


 本当に調子のいい……と、ついため息が漏れるが、おかげで、戻るのが遅くなったことや、商品を受け取れなかったことについては、言い訳が立った。

 ルミアも、よく口の回っているオノンに目をやっていると、ふと突かれる腕。

 目をやれば、ビビアンだった。


「あの人って、ルミアと昔っから付き合ってる人じゃない? めっちゃ偉い人?」


 領主からの命令を受けている人など、警備隊を除けば、確かにエリートが多い。

 ビビアンの目の輝きは、もはや獣のそれだ。


「……偉いかは知らないけど……うん。知らない」

「ちょっと……!? 途中で考えるの諦めたでしょ!?」

「いや、どう説明してもめんどくさいんだもん」


 どう説明したところで、湾曲されて理解されるのが関の山だ。

 なら、余計な労力を払う方がバカらしい。


 とはいえ、結局、散々付き合わされることになったのだが。


「お、お疲れさまです……」


 グランが心配そうに、近づいてくる様子に、ルミアもそっと顔を上げては、おもむろにその尻尾を手に取った。


「ルミアさん!?」

「……うん。とても柔らかい」


 上等な毛布のようだと、握りしめれば、素早く手から離れていく尻尾。


「ダメです。いくら生えてくるとはいえ、上げませんよ」

「そういうわけじゃ……そこまで拒否られると、逆に奪い取りたくなるんだけど……」


 尻尾を隠して毛を逆立てているグランに、ルミアもつい、体を起こしてしまえば、コツリとテーブルに物が置かれる音。


「冗談はその辺にしておけ。ほら、報酬ついでにもらった菓子だ。食べるだろう?」


 オノンが呆れたように、お茶の入ったコップと領主からもらった菓子をテーブルに置いていた。

 ルミアは一度グランの方へ目をやると、一度肩を竦めてみせると、ベッドからようやく足を下したのだった。


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