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異世界で「ママ」になりました。 ~最強ドラゴンと息子に懐かれすぎて、魔獣の楽園が完成しそうです~  作者: 寝不足魔王


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第64話:三位一体の咆哮、そして聖域の完成

 聖域の上空を覆いつくした幾何学模様の魔法陣が、脈動するように不気味な白光を放っていた。

 空そのものが巨大な重圧となって降り注ぎ、結界の端々が、過負荷による火花を散らして悲鳴を上げている。それは、神がかつて世界に敷いた、古すぎる管理プログラムの暴走だった。


「……セナ殿、結界の強度が限界です! このままでは領域内のすべての存在が、物理的なデータとして圧縮され、消去されてしまいます!」


 メルディが、魔導書の頁を必死に捲りながら叫んだ。周囲では、エルフの先行隊やコボルトたちが、天から降り注ぐ「消去の光」を避けて、拠点の柱にしがみついている。

 セナは、震える大地の上で、倒れかけた事務机を両手で強く押さえていた。彼女の鑑定スキルは、空の魔法陣の奥底に眠る、無機質なログを絶え間なく読み取り続けている。


「……事務的に言わせてもらえば、このシステム、設計ミス(バグ)だわ。……平和になれば不確実性が消えて、世界が死ぬなんて。……そんなの、ただの『古い基準マニュアル』に縛られているだけじゃない!」


 セナの瞳には、恐怖ではなく、理不尽なシステムへの猛烈な怒りが宿っていた。

 彼女はレイを、そして三頭の魔獣を、広場の中央へと呼び寄せた。


「レイくん! レガリア・セナの出力を最大に! ……ハルくん、グーくん、ルナちゃん。……お母さんの指示した『打撃点』に、すべての魔力を集束させるのよ!」


「……わかった、ママ! ……僕、やるよ。……みんなを消させたりしない!」


 レイがレガリア・セナを天に掲げた。

 セナは【鑑定】の極地を使い、空の魔法陣の中に隠された、唯一の脆弱性バックドアを指し示した。そこは、システムの命令が交差する、最も複雑で、かつ脆い一点だった。


「グーくん、大地の鼓動を汲み上げて! レイくんを揺らさないための『絶対の土台』を作りなさい!」


 ズズズ、と大地が鳴る。

 グーが四肢を地に突き立てると、レイの足元の地面が黄金色に輝き、天の圧力を跳ね返すほどの強固な防壁シールドへと変貌した。


「ハルくん、あの中心を焼きなさい! 物理的な火じゃない、概念を溶かす『龍の理』で、システムの防衛膜に穴を開けるのよ!」


「……うん、……わかった。……ハル、……全部、……溶かす!」


 少年の姿をしたハルが、天に向けて掌を広げた。

 紅蓮の炎が螺旋を描いて立ち上り、幾何学模様の一部を、バターを熱したナイフで切るように溶かし、穴を開けていく。


「ルナちゃん、開いた穴から中に入りなさい! 影の力でシステムの内部回路を『捕食』して、一時的に麻痺させるのよ!」


 ルナがレイの影から漆黒の稲妻となって飛び出した。

 実体のない影が、光のシステムの内側へと侵入し、その無機質な回路を次々と影の中に呑み込んでいく。エラーログが空に走り、魔法陣の光が不規則に点滅し始めた。


「――今よ、レイくん! 三つの属性を、あなたの杖で一つに束ねて! ……お母さんの『データ』を、あの中心に叩き込みなさい!」


 レイのレガリア・セナが、紅蓮、黄金、漆黒、そして慈愛の青に輝き始めた。

 レイは、三頭の魔獣と心臓の鼓動を完全に同期させた。それは、セナがこれまで丹精込めて積み上げてきた「家族という名の在庫」を、一つの力に変える、最初で最後の魔法だった。


「――三位一体の咆哮トライ・バースト!!」


 放たれたのは、破壊の光ではなかった。

 それは、セナがこれまで管理日誌に綴ってきた、温かなスープの匂い、泥だらけの笑顔、そして明日を信じる心の記録。

 お母さんの慈愛という名の「最新パッチ(データ)」が、レイの咆哮に乗って、古の管理システムへと一気に流れ込んだ。


 キィィィィィィン!!


 空に、世界を揺るがすほどの共鳴音が響いた。

 無機質な幾何学模様が、セナの家族の記憶に上書きされ、その色彩を青白い絶望から、温かな琥珀色の祝福へと変えていく。

 強制消去デリートのプログラムが、生命を護る(プロテクト)プログラムへと、お母さんの是正命令によって書き換えられたのだ。


 魔法陣は、眩い光の粉となって砕け散り、聖域の空に美しい粉雪(魔力)となって降り注いだ。

 重圧は消え、境界線の向こう側まで、どこまでも透き通った青空が広がった。


「……不備、修正完了。……完璧なリブートね」


 セナは、崩れかけた事務机を離れ、膝をついたレイの元へ駆け寄った。

 ハルも、グーも、ルナも、全力を使い果たして、けれど誇らしげな顔でセナを見上げていた。


「ママ、……やった、よ。……空、……笑ってる」


「ええ、レイくん。……最高の結果(成果)だわ。……あなたたちは、この世界を『管理』するための、新しい光になったのよ」


 セナは、家族全員をその両腕に強く抱きしめた。

 聖域はもはや、世界のバグではない。

 世界を癒やし、導き、そしてすべての命を「適正に」慈しむための、新しい心臓として、世界のシステムに正式に登録されたのだ。


 セナは、懐からボロボロになった管理日誌を取り出し、震える手で最後から二番目のページを締めくくった。


『第六十四案件:世界管理システムの再定義、およびアップデート。

 特記事項:レイくん、ハルくん、グーくん、ルナちゃんによる究極連携「三位一体の咆哮」の観測。

 ……不備、なし。……どころか、世界の物理法則そのものを是正(修正)することに成功。

 ……もう、誰もこの子たちの居場所を消すことはできないわ。

 ……在庫:無限の平和、および最高の家族。

 ……さて。明日は、すべての仕事を終えた後の、最高のご褒美をみんなで食べましょうか。

 ……お母さんの管理日誌、いよいよ最終頁ね。』


 聖域に、かつてないほどの清らかな風が吹き抜けた。

 空に輝く月は、まるで新しい世界の誕生を祝うように、いつまでも、いつまでも優しく、彼らを照らし続けていた。


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