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異世界で「ママ」になりました。 ~最強ドラゴンと息子に懐かれすぎて、魔獣の楽園が完成しそうです~  作者: 寝不足魔王


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第55話:白銀の出荷と、エルフの里からの贈り物

 朝の霧が聖域の境界線を白く包み込む中、広場にはかつてないほどの緊張感と活気が満ちていた。

 セナは、拠点のテラスに据えた事務机で、厚いバインダーを開き、最終検品のチェックリストを厳しい眼差しでなぞっていた。


「……魔導紙、五十束。一枚ごとの魔力伝導率、誤差零点零一パーセント以内。……パッキングの状態、防湿魔法の二重掛けを確認。……不備なし。完璧な在庫状況よ」


 セナが羽ペンを置くと、広場の入り口に、昨日契約を交わしたばかりの商人ケッテンの荷馬車が、音を立てて滑り込んできた。

 ケッテンは、セナの「最終見積もり」という名の制裁に青ざめた顔を隠しきれないまま、けれど商人の本能として、目の前に積まれた「白銀の紙」の輝きに息を呑んだ。


「……お、……おはようございます、セナ殿。……約束通り、王都直通の特急馬車を三台、用意いたしました。……これほどの逸品、一刻も早くギルドへ届けねば……」


「ええ。……ケッテンさん。事務的に言わせてもらえば、一グラムの欠損も、一分の遅滞も、すべて契約違反ペナルティの対象になるわ。……心して運びなさい」


 セナの冷徹な号令の下、出荷作業が始まった。

 ここで指揮を執ったのは、レガリア・セナを高く掲げたレイだった。


「グーくん、一番重い箱を奥に! ……ハルくん、荷台の温度を下げないで! ……ルナちゃん、影を使って箱の隙間を埋めて!」


 レイの的確な指示に従い、三頭の魔獣が完璧な連携を見せる。

 グーがその怪力で巨大な木箱を軽々と積み上げ、ハルが掌から放つ繊細な温風で荷台の結露を防ぐ。ルナはレイの影から自在に伸びる触手のような影を使い、壊れやすい魔導紙の束を、まるで真綿で包むように丁寧に固定していった。


 その様子を、新築のレジデンスの窓から見守っていたコボルトたちが、誇らしげに鼻を鳴らし、千切れんばかりに尻尾を振って見送りのリズムを刻んでいる。

 彼らは言葉を持たない。けれど、自分たちの護る聖域で作られた宝物が、今まさに世界へ羽ばたこうとしていることを、その忠実な魂で理解していた。


「……信じられん。……我が里でも、これほど効率的で、かつ愛情に満ちた出荷の風景は見たことがない」


 傍らで立ち会っていたエルフの行政官アルウェンが、驚嘆の声を漏らした。

 彼女はセナが策定したマニュアルが、単なる規則ではなく、多種族の力を一つの「大きな流れ」に変えるための魔法の回路であることを、ようやく理解し始めていた。


 三台の馬車が、セナの最終検印を受けて、ゆっくりと聖域の門をくぐり、王都へと走り出していった。

 それと入れ替わるように、逆方向から一隊の隊商が、エルフの紋章を掲げて姿を現した。


「……アルウェン殿! ……里からの定期便と、長老様からの贈り物が届きました!」


 現れたのは、アルウェンが手配していた、里からの「返礼品」を積んだエルフの若者たちだった。

 セナは、届いた荷物を一つずつ、事務的な手際で開封していった。


「……これは、……見たこともない種ね」


「ええ、セナ殿。……それは我が里の秘蔵、魔力銀花まりくぎんかの種です。……この花が咲く土壌は魔力が安定し、より高品質な紙の原料を育みます。……そしてこちらは、エルフ独自の保存食、干し果実の蜜漬けです。……貴殿の合理的な管理への、里からの敬意とお受け取りください」


 セナは、差し出された琥珀色の小瓶と、銀色に輝く種を【鑑定】した。

『状態:最高品質。……期待効果:聖域の土壌魔力の平準化、および住人の幸福度向上』


「……素晴らしいわ。……これだけの高品質なアセット(資産)を贈ってくれるなんて、里の長老はなかなかの『投資家』のようね」


 セナは満足げに頷き、アルウェンに向き直った。


「アルウェンさん。……この種は、明日からエルフの研修生たちに植えてもらいましょう。……自分たちの手で、自分たちの仕事の『質』をさらに上げるための土壌を作るの。……やりがいは十分でしょ?」


「……承知いたしました、セナ殿。……彼らも、自分の指先がこれほどの価値を生むことを知り、目が変わっております」


 夕暮れ時。

 出荷を見送った後の広場には、新しい種を植えるための相談をするレイやハル、そしてエルフたちの賑やかな声が響いていた。

 王都へ向かった白銀の紙は、やがて莫大な富と、聖域という名のブランドを世界に知らしめることになるだろう。


 セナは、事務机の引き出しにアルウェンから受け取った「感謝状」を大切に仕舞い、管理日誌を広げた。


『第五十五案件:聖域産・高品質魔導紙の第一次大規模出荷。

 特記事項:レイくんと三頭による出荷ロジスティクスの完遂。……エルフの里からの戦略的投資(種と食品)の受領。

 ……事務官としては、在庫の流動性が高まったことを喜ぶべきだけど。

 ……お母さんとしては、子供たちが自分たちの手で世界と繋がっていく背中を見られたことが、何よりの報酬ね。

 ……不備:なし。

 ……さて。アルウェンさんから聞いた、エルフの長老からの招待。

 ……聖域の外へ、公式な『外交ルート』を拓く時が来たのかもしれないわね。

 ……在庫:次なる冒険への期待。……本日の業務、終了。』


 ハルがセナの足元で、満足げに喉を鳴らす。

 秋の夜長。聖域の拠点を守る温かな灯火の下で、お母さんが綴る管理日誌は、家族の家を越え、世界の地図を書き換えるための新しい章へと進み始めていた。


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