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異世界で「ママ」になりました。 ~最強ドラゴンと息子に懐かれすぎて、魔獣の楽園が完成しそうです~  作者: 寝不足魔王


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第54話:銀灰色の功労者と、お母さんの大盤振る舞い

 商人ケッテンとの苛烈な交渉を終え、聖域に「公式な物流」という新しい血が通い始めた。

 セナは、拠点のテラスに置いた事務机で、次なる課題であるエルフたちの居住区拡大のための図面を引いていた。


「……セナさん。……コボルトさんたちのことで、少し気にかかることがあって」


 声をかけてきたのは、マーサだった。彼女はリリを抱きながら、広場の隅で身を寄せ合っているコボルトの一団を指差した。

 銀灰色の毛並みを持つコボルトたちは、セナがこの森に来た当初から、文句一つ言わずに警備や荷運びを支えてくれている。今も、新入りのエルフたちのために、自分たちが使っていた日当たりの良い場所を黙々と空け、日陰の狭い場所へと移動しようとしていた。


「……彼ら、自分たちの住処を譲ろうとしているみたいなの。……リリが『お家ないの?』って聞いたら、寂しそうに尻尾を振るだけで……」


 セナは、事務用の眼鏡を指先で強く押し上げた。

 事務職としての彼女の脳内にある「居住区管理表」を即座に走査する。


(……ちょっと待って。……新入りの受け入れや商談に追われて、最古参の彼らの住環境を後回しにしていたわ。……彼らが言葉を話さないのをいいことに、事務的な甘えが生じていたのね)


 セナは、自分自身の「不備」に激しい怒りを覚えた。

 組織の屋台骨を支え続けてきたベテランを疎かにし、目立つ新入りばかりを優遇する。それは、経営の破綻へと繋がる最悪のミスだ。


「……却下よ。……そんな自己犠牲、事務的に認められないわ!」


 セナは勢いよく立ち上がり、広場へ飛び出した。

 驚いて顔を上げたコボルトのリーダー格に、セナは力いっぱい宣告した。


「あなたたち! ……遠慮なんていらないわ。……今日からあなたたちは、この聖域で最も『豪華な待遇』を受ける権利があるのよ!」


 セナの号令に、レイとハルが「なになに? お掃除?」と駆け寄ってきた。

 

「レイくん、ハルくん、グーくん、ルナちゃん! ……緊急案件よ! ……これより、コボルトさんたちのための『最高級・耐震断熱ハウス』の建設を開始します! ……初期からの功労者への、特大の報酬ボーナスよ!」


「やったぁ! ……コボルトさん、いつも守ってくれてありがとう! ……僕、グーと一緒に重い石を運ぶよ!」


 レイがレガリア・セナを掲げ、元気よく叫んだ。

 ハルも「……コボルトさん、……大好き。……お部屋、ポカポカにするね」と、少年の姿で笑う。


 セナの采配は、神速だった。

 ケッテンから徴収した最高級の石材を惜しみなく投入。

 グーが地盤を完璧に固め、レイが杖の風で資材を浮かせ、ハルが石材の中に「蓄熱」の魔力を焼き込んでいく。

 

 セナは、エルフの若者たちも呼び集めた。

「あなたたち! ……その器用な指先で、この石造りの家に最高級の『防音と防臭の魔法陣』を刻みなさい。……不備があれば、やり直しよ!」


 言葉を持たないコボルトたちは、戸惑ったように顔を見合わせていた。

 けれど、自分たちのために大人も子供も魔獣も、そして新入りのエルフまでもが必死に動いているのを見て、次第にその銀灰色の尻尾が、パタパタと小刻みに揺れ始めた。


 夕暮れ時。

 完成したのは、冬でも裸足で過ごせるほど温かく、頑丈な「コボルト専用レジデンス」だった。

 内部にはロレッタが用意したハーブの寝床が並び、清潔な水が常に流れている。


 コボルトたちは、鼻を鳴らしながら新居に入ると、その温かさに驚いたように一回転し、一斉にセナの足元に駆け寄った。

 言葉はない。けれど、彼らがセナのスカートの裾を鼻先でつつき、千切れんばかりに尻尾を振るその音は、どんな感謝の言葉よりもセナの心に深く届いた。


「……いいのよ。……これからも、一緒にこの聖域を守っていきましょうね」


 セナは、コボルトたちの頭を一つずつ、丁寧に撫でて回った。

 

 管理日誌:『第五十四案件:古参スタッフ(コボルト)の福利厚生施設の拡充。

 特記事項:言葉を持たない功労者の『沈黙の不備』を解消。

 ……在庫:コボルトたちの幸せそうな鳴き声、上限突破。

 ……さて。明日はこの結束力を活かして、王都への第二次出荷の準備に入りましょうか。

 ……不備、修正完了。』


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