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異世界で「ママ」になりました。 ~最強ドラゴンと息子に懐かれすぎて、魔獣の楽園が完成しそうです~  作者: 寝不足魔王


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第22話:龍の助言と、聖域のアップグレード

 ハルが言葉を取り戻してからというもの、聖域の日常は劇的な変化を迎えていた。

 これまでセナが「鑑定」を頼りに手探りで進めてきた資源管理に、数百年この地を見守ってきた守護龍としての「生きた知識」が加わったからだ。


 爽やかな風が吹き抜ける朝のテラス。セナが管理日誌を開き、ペンを走らせていると、隣でスープを飲んでいたハルが、ひょいとノートを覗き込んできた。


「……ママ。その川の西側、三つ目の大きな岩の裏。……三メートルくらい深く掘れば、純度の高い『青い魔石』が眠ってるよ。冬の結界を補強するのに、ちょうどいいはず」


 セナは、ペンを持つ手を止めて目を見開いた。

 鑑定スキルでも、地中の深い場所にある物資までは正確に把握しきれない。ハルの言葉は、まさに「究極の埋蔵資産リスト」だった。


「……ハルくん、それ本当!? もしそれが手に入れば、冬の暖房効率が三十パーセントは向上するわ。……事務的に言わせてもらえば、最高に価値のある情報よ!」


「……うん。……あと、そこの森の入り口にある枯れ木。……あれ、根元に魔力を溜め込んでるから、ドランさんの鉄鍋で煎じれば、メルディさんの言ってた万能薬のベースになるよ」


「はわわ~、ハルくん、物知りすぎますぅ~!」


 横で朝食の片付けをしていたロレッタが、感嘆の声を上げて目を輝かせる。

 セナは即座に新しいページを開き、ハルの助言を「重要資産データ」として書き留めていった。


(……すごいわ。ハルくんという『最高技術責任者(CTO)』が加わったことで、この聖域のポテンシャルが跳ね上がったわね)


 セナは事務職としての血が騒ぐのを感じ、以前ドランから仕入れておいた「強化鉄の支柱」や「耐魔の石材」を倉庫から引っ張り出した。

 今日は、この龍の知恵を形にする「拠点アップグレード」の日だ。


 セナは地面に図面を引き、ハルと相談しながら改修案を練り上げた。


「ハルくんの言う通り、ここに魔石を配置して……。私の『動線管理』と組み合わせれば、侵入者を自動的に外側へ流しつつ、私たちは最短距離で避難できる『安全回廊』が作れるわね」


「……あ、ママ。……ここの角度、もう少し急にすれば、魔獣が嫌がる音が出るようにできるよ。……僕が昔、お城でやってたやつ」


 ハルの的確すぎるアドバイスに、メルディも眼鏡をクイと押し上げて加わった。


「……なるほど。ハルくんの知識を論理的な建築構造に落とし込むわけですね。セナ殿、この改修計画、もはや辺境の砦を凌駕するスペックになりますよ」


 大人たちが盛り上がる中、一人だけ面白くない顔をしている少年がいた。

 レイだ。

 彼はハルが流暢な言葉でママを助け、賞賛を浴びている姿を、複雑な思いで見つめていた。


(……ずるい。ハルばっかり、ママの役に立って。……僕だって、ママを守りたいのに……!)


 レイは、ハルが言葉を話し始めてから、自分の中にある「お兄ちゃん」としてのプライドが、音を立てて揺らいでいるのを感じていた。

 思い悩んだ末、レイは作業の合間に、ハルの元へと歩み寄った。


「……おい、ハル。ちょっと、いいか」


 ハルは少年の姿で、重い石材を浮かせる手伝いをしていたが、レイの硬い声に振り返った。


「……何? 兄貴」


「……その、『アニキ』って呼ぶのやめろよ! ……じゃなくて、……お前に、頼みがあるんだ」


 レイは、屈辱に顔を赤くしながら、絞り出すように言った。


「……僕に、特訓をつけてくれ。……あの子たち、クラウド・シープたちともっと深く心を通わせるコツ。……お前なら、龍なんだから知ってるんだろ?」


 ハルは一瞬、驚いたように目を見開いたが、すぐにふっと優しげな、少し生意気な笑みを浮かべた。


「……いいよ。……レイは、力が強すぎるんだ。……あの子たちの心は、もっと『風』みたいに柔らかく触れないとダメ。……僕が、教えてあげる」


 二人の少年が、テラスの端でひそひそと特訓を始める。

 ハルの言葉に従い、レイが意識を集中させると、屋根の上で丸まっていたクラウド・シープたちが、これまで以上に生き生きとした動きを見せ始めた。


 セナはその様子を、柱を立てる手を止めて見守った。

 競い合いながらも、同じ「ママを守る」という目的のために手を取り合う二人。

 その光景こそが、どんな強固な防壁よりも頼もしく、セナの心を温かくさせた。


 夕暮れ時。

 拠点のアップグレード作業は一段落した。

 見た目は以前と変わらない、温かな木の家。だがその壁の内側には、龍の魔力を循環させる回路と、事務職の合理性が生んだ完璧な防衛ラインが張り巡らされている。


 キッチンもまた、ハルの助言で「熱効率」が最大限に高められ、セナが三歩動くだけで豪華な晩餐が完成する「システム・キッチン」へと進化した。


「……よし。これで冬の寒さも、魔獣の迷い込みも怖くないわね。……二人とも、今日はお疲れ様!」


 セナは、誇らしげな顔のハルと、少し自信を取り戻した顔のレイを、まとめて抱きしめた。


「ママ。……僕、もっとレイにいろいろ教えるね。……二人で、世界一の『楽園』にするんだ」


「……ハルに言われなくても、僕が一番にママを守るんだからな!」


 賑やかな声が、新しくなった家に響き渡る。

 メルディとロレッタも、新調された清潔なベッドで「もう一生、ここから出たくありません……」と、幸せそうにため息をついていた。


 セナは、満足げに管理日誌を更新した。


『第二十二案件:拠点のインフラ整備完了。

 最高技術責任者(CTO):ハルくん。

 特記事項:ハルくんの知識量は、もはや移動式の図書館。

 レイくんのテイマーとしての感性が、ハルくんとの特訓で開花しつつある。

 ……収支報告:資材投資、大成功。獲得資産:子供たちの新しい信頼関係。

 ……さあ、明日はこの新しい家で、何を作りましょうか?』


 魔獣の楽園は、お母さんの愛と龍の知恵、そして小さな騎士の勇気を飲み込みながら、誰も立ち入ることのできない、不滅の聖域へとその姿を変えていった。


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