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異世界で「ママ」になりました。 ~最強ドラゴンと息子に懐かれすぎて、魔獣の楽園が完成しそうです~  作者: 寝不足魔王


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第17話:森の境界線と、最初の入居希望者


 聖域の境界線に異変あり――


 その報告がコボルトの偵察隊から届いたのは、昼下がりの帳簿整理中のことだった。


「セナ殿、国境付近の監視魔法に反応がありました。人間……それも武装していない民間人のようです」

 メルディさんが眼鏡をクイと押し上げ、緊張した面持ちで告げる。セナはペンを置くと、即座に立ち上がった。

 隣国と「暫定提携」を結んでいる以上、勝手な入国を許せば国際問題(ガバナンスの欠如)になりかねない。


「メルディさん、救急キットをお願い。ロレッタさんは念のため、拠点でハルくんと待機していて。……レイくん、私と一緒に来てくれる? あなたのテイマーとしての感覚で、周りに危ない魔獣がいないか見てほしいの」


「うん、わかったよママ! 僕が守るからね!」


 セナは温かいスープを入れた水筒を鞄に詰め、一行を伴って境界線へと向かった。

 そこにいたのは、ボロボロの服を纏い、泥にまみれて力なく座り込む一組の親子だった。若い母親が、怯える小さな娘を必死に抱きしめている。


「……お願い、助けて……。村が、魔獣に襲われて……」


 母親の震える声。セナはまず、彼らの前にゆっくりと膝をついた。

 管理者として「身元確認」をする前に、まずはお母さんとして。


「……怖くないわよ。まずはこれを飲んで。温かいお野菜のスープよ」


 セナは水筒を差し出した。母親は震える手でそれを受け取り、娘に飲ませる。一口、二口と飲むうちに、親子の顔にわずかな赤みが戻ってきた。

 それを見届けたセナの瞳が、ふと「管理官」の鋭さを帯びる。


「……落ち着きましたか? さて、事務的な確認をさせていただきますね。……あなたたちは、隣国のどこの村の出身? そして、どうやってこの『聖域』を知ったの?」


 母親の話によれば、彼女たちは国境付近の小さな村の出身で、魔獣の襲撃から逃れる際、行商人から「森の奥に、魔獣と人間が平和に暮らす聖域がある」という噂を聞き、必死の思いで辿り着いたのだという。


「……なるほど。情報のロジスティクスが、意図しない場所まで届いていたようね」


 セナは腕を組み、思案した。

 情だけで受け入れるのは簡単だ。だが、ここは隣国の「公認区域」。勝手な居住を認めれば、ジルヴェール王子の立場を悪くする。


「メルディさん。彼女たちの健康状態は?」

「栄養失調と疲労が激しいですが、伝染病の類はありません。……適切な休息と食事があれば、数日で回復するでしょう」


「……よし。決めたわ。……あなたたち、ここで『入居審査(面談)』を受けてもらうわよ」


 セナの言葉に、母親が顔を上げる。

 セナは、彼女が「元・機織り職人」であることを聞き出した。ちょうど、王子から届いた大量の布を加工する手が足りず、ロレッタさんと夜なべをしていたところだ。


「ちょうどいいわ。うちは『働かざる者食うべからず』が原則。……あなたが布を織り、衣類を管理する仕事を引き受けてくれるなら、ここに住む場所と食料を保証するわ。……どうかしら?」


「……はい! 何でもします、お願いします!」


 母親が泣きながらセナの手に縋り付いた。

 その横では、レイくんが母親の背後からおずおずと顔を出した小さな女の子に、森で採れたばかりの綺麗などんぐりを見せていた。


「これ、あげる。……もう大丈夫だよ。僕が守ってあげるからね」


 お兄さんぶって胸を張るレイくん。セナはその頼もしい姿に微笑みつつも、すぐに現実的な処理へと意識を飛ばした。


「……さて。受け入れが決まった以上、次は『対外的な手続き』ね」


 拠点に戻ったセナは、すぐに王子ジルヴェール宛ての緊急親書を作成した。

 内容は極めて実務的だ。


1.国境の村からの避難民二名を、人道的および労働力確保の観点から「暫定入居」させたこと。

2.これは提携書にある「聖域の自治権」に基づく判断であること。

3.今後、同様の避難民が増える可能性を考慮し、隣国側での「身元照会」の連携と、それに見合う「追加の支援物資(特に建材と寝具)」を要求すること。


「……よし。これを伝書鳥で王子に飛ばして。……メルディさん、彼女たちのために第二拠点の設営準備(ロケーション選定)をお願い。ロレッタさんには、子供たちのケアを頼むわね」


「了解しました。……セナ殿、ただ助けるだけでなく、即座に国への報告と物資の請求を行うとは。……抜かりがありませんね」


 メルディさんの言葉に、セナは苦笑いした。


「当然よ。お母さんの仕事は、家族を増やすことだけじゃない。増えた家族が、誰にも後ろ指を指されずに安心して暮らせる『法的・経済的な基盤』を整えることなんだから」


 その日の夜。

 拠点の少し離れた場所に、新しい小さなシェルターが設営された。

 窓から漏れる温かな灯火が、二つになった。


 セナは、届いたばかりの支援物資のリストに、新しく「機織り機」という項目を追加した。

 管理日誌の最後の一行。


『第十七案件:新規入居者の受け入れ完了。

 特記事項:聖域に「隣の家」が誕生。……レイくんは立派にお兄さん役を務めた。

 ……王子への報告済み。返信の内容次第では、さらなる「村」へのアップグレードが必要になるわね。……あ、ハルくんが新しいお友達(女の子)に照れて隠れているのは、内緒にしておこうかしら』


 魔獣の楽園は、お母さんの慈愛と事務的な徹底管理を両輪にして、今、確かな「人の住まう場所」へと進化し始めた。

 遠く隣国で報告を受けたジルヴェール王子が、彼女の「大胆かつ完璧な事後報告」にどんな顔をするかを楽しみにしながら、セナは穏やかな眠りについた。


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