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異世界で「ママ」になりました。 ~最強ドラゴンと息子に懐かれすぎて、魔獣の楽園が完成しそうです~  作者: 寝不足魔王


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第13話:琥珀色の贈り物と、お母さんの保存食作り

 辺境の森の朝は、甘い予感と共に始まった。

 拠点の入り口に駆け込んできたレイくんの瞳は、朝露よりもキラキラと輝いている。その背中には、いつものように少年の姿をしたハルくんがぴたりと寄り添っていた。


「ママ! メルディさん、ロレッタさん! すごいの見つけたよ!」


 レイくんが指し示したのは、拠点から少し離れた場所にある、落雷で空洞になった古木だった。セナが歩み寄り、目を凝らして中を覗き込むと、そこには黄金色の液体がとろりと溢れ出し、周囲に芳醇な香りを漂わせている立派な蜂の巣があった。


「あら、これは……ハチミツね。それも、ただのハチミツじゃないわ」


 セナがそっと指先で触れ、鑑定スキルを起動させる。視界に浮かび上がったのは、期待通りの「優良在庫」のデータだった。


『個体名:森の琥珀(魔力蜜)……状態:完熟。効能:滋養強壮、高い殺菌作用。保存性:極めて良好』


「レイくん、お手柄ね! こんなに立派なハチミツ、めったにお目にかかれないわ」

「へへっ、ママに一番に食べさせてあげたかったんだ!」


 誇らしげに胸を張るレイくんの横で、ハルくんも鼻をひくひくさせて「キュイッ!」と嬉しそうに鳴き、セナの袖を引いて催促する。

 その賑やかな声を聞きつけて、居住エリアからメルディさんとロレッタさんが顔を出した。


「セナ殿、朝からお騒がせ……おや、これは素晴らしい。天然の魔力蜜ですか」

「わぁ〜! メルディさん、見てください! とっても甘くていい匂いがしますぅ〜!」


 眼鏡をクイと押し上げて分析を始めるメルディさんと、今にも指を突っ込みそうな勢いのロレッタさん。セナはお母さんらしく、みんなの様子を笑って眺めながら、テキパキと「収穫計画」を立て始めた。


「よし、今日はみんなでこれを『冬の備蓄』に加工しましょう。メルディさん、軟膏用の瓶の消毒をお願いできるかしら? ロレッタさんは、レイくんと一緒に果物を洗って。ハルくん、火加減の準備をお願いね」


 セナの指揮の下、聖域の五人は一丸となって作業を開始した。

 セナは、前世の事務職時代に培った「効率化の知恵」を、惜しみなくキッチンに投入した。いわゆる『動線管理』だ。


 まず、ハルくんが火を熾すコンロのすぐ横に、煮沸用の大鍋を配置する。そのわずか二歩隣には、ロレッタさんたちが洗った果物を置くための清潔な作業台。さらにその背後一歩の距離に、完成した瓶を並べるための棚を設けた。


「セナ殿、……驚きました。あなたが今朝配置を変えたこのキッチン、全く無駄がありませんね。材料を取る、洗う、煮る、詰めるという一連の動作が、最短距離で完結しています」


 メルディさんが、消毒用の布を手にしながら感嘆の声を上げた。セナは沸騰したお湯の湯気を避けながら、明るく笑う。


「ふふ、魔法じゃないわよ。ただ、こうして『動線』を整えておけば、一秒でも早く作業が終わるでしょ? 浮いた時間で、みんなとゆっくりお茶が飲めるじゃない」


「……『楽をするための工夫』が、これほどの機能美を生むとは。事務職の視点、恐るべしですね」


 メルディさんの言葉を背に、セナはハチミツの加工に取り掛かった。

 ハチミツの採取と加工は、蜂を刺激しないよう、そして熱を加えすぎないよう細心の注意が必要だ。


「ハルくん、そのままの温度をキープしてね。……そう、ゆっくり温めるのよ。上手ね、ハルくん」


 ハルくんが、真剣な表情で鍋を見つめる。セナが教える「温度管理」を、彼は言葉を使わずとも完璧に理解し、掌から放つ熱をミリ単位で調整していた。

 一方で、レイくんとロレッタさんは、川で洗ってきた色とりどりの森の果実を、セナの指示通りに美しく瓶へと並べていく。


「レイくん、その赤い実は一番下に入れて。……そう、ロレッタさん、上からハチミツを注ぐ担当をお願いしますね」

「はーい、セナさん! ……わぁ、宝石箱みたいで綺麗ですぅ〜!」


 ロレッタさんが黄金色の蜜を注ぐと、瓶の中の果実たちが琥珀色の中でキラキラと輝き始めた。

 セナはその様子を眺めながら、幸せな溜息をつく。

 前世の物流センターでは、大量の「砂糖」や「ハチミツ」は単なる記号であり、パレット単位で動く味気ない荷物でしかなかった。けれど今は、こうして一瓶ずつ、家族の手で作り上げる「特別な贈り物」だ。


 お母さんとして、セナは常に全員に目配りを欠かさない。

「レイくん、その瓶は重いからママが持つわね。……ハルくん、火はもう消して大丈夫。よく頑張ったわね、二人とも」


 夕暮れ時。

 拠点の棚には、完成したばかりの「果実のハチミツ漬け」と、メルディさんが調合した「ハチミツ軟膏」の瓶が、整然と並んでいた。

 セナは、その中の一番小さな瓶をレイくんに手渡した。


「はい、レイくん。これは今日頑張ったお手柄へのご褒美。……それと、これを近所のコボルトの子供たちに届けてきてくれるかしら? お裾分けよ」


「うん、わかった! ハル、一緒に行こう!」

「キュイッ!」


 レイくんは誇らしげに瓶を抱え、ハルくんを伴って元気よく森の中へと駆けていった。

 セナは拠点の入り口に立ち、遠ざかる二人の背中を慈しむように見送った。遠くから「ママが作ったんだよ!」というレイくんの晴れやかな声が聞こえてくる。

 ただ管理するだけでなく、こうして豊かさを分け合うことが、この場所を本当の「聖域」にしているのだと、セナは実感していた。


 夜、子供たちが心地よい疲れの中で眠りについた後。

 静かになった拠点のテーブルで、セナ、メルディさん、ロレッタさんの三人は、ハチミツをたっぷり入れたハーブティーを囲んでいた。


「……あぁ、染み渡りますぅ〜。一日中甘い香りに包まれて、疲れが吹き飛んじゃいますね、セナさん」

「ロレッタさん、あなたは味見を優先しすぎていた気がしますが……。まあ、ハチミツの栄養価は絶大ですから、良しとしましょうか」


 メルディさんの少し呆れたような、けれど温かい突っ込みに、ロレッタさんがえへへと笑う。

 セナは温かいカップを両手で包み、窓の外に広がる星空を見上げた。


「……こうして、みんなで温かいものを飲んで、今日あったことを話し合える。……それが私にとって、何よりの『在庫』ね」


 セナの言葉に、二人の看護師も深く頷いた。

 管理日誌の今日の一行。

『第十三案件:冬季備蓄の開始。琥珀色の蜜を確保。

 特記事項:レイくんの成長、ハルくんの熱、みんなの真心。……心の在庫、過去最高値を更新中。』


 魔獣の楽園は、お母さんの保存食作りと共に、また一つ、冬を迎えるための温かな準備を整えたのだった。


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